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100 裏木曽路城

「よく来たな小僧」


 和服姿の木曽三川警護団の隊長が笑った。

 その笑みの下ではどうやって俺をボチ殺そうかと舌舐めずりしているに違いない。

 バカバカ俺のバカボッチン。怪しいチャラ男にノコノコついてきた俺のバカ。


「ここは?」

「ここは裏木曽城だ」


 隊長の開いた両手の向こう側には見たことも聞いたこともない巨大な城があった。

 日本全国の城マニアが涎を垂れ流すほどの立派な城だった。

 いや立派過ぎた。何十階建てなのだろうか? 高い石垣にビルのような天守閣。

 木造建築の限界を超えている。勿論現実ではないだろう。

 これはあれだ。


「和風ダンジョン?」

「そうだ。ついてこい」


 隊長が踵を返して歩き出した。

 下駄がカツカツと石畳を打つ。

 その音が俺の心に恐怖心を刻む。

 城の中は襖と障子と畳が何処までも続いていた。

 だがその障子は破れ、畳は剥がれ、床板が剥き出しだった。

 おまけに柱には刀傷や矢が刺さっていた。

 まるでここで大きな戦でもあったかのような惨状だった。

 怖い。絶対普通じゃない。ここがダンジョンだとしてもこれは異様な光景だった。

 帰ろう。ここは真面目なボッチが足を踏み入れていい場所ではない。


「……」


 俺が踵を返そうとした瞬間。


「カガッチ何してるんスか? 行くっスよ」


 チャラ男が俺の腕をガチっと掴んだ。

 くっそ、振りほどこうにも今の俺の力では振りほどけない。


「……眠いし帰ろうかなって」

「へえ。帰ってどうするんスか? 新人戦まで寝て過ごすんスか?」

「……」


 俺は無言で下を向いた。


「そうする」

「負けますよ? いいスか?」

「うっ」

「負けたらその腕輪取れないんっスよね?」

「ううっ」

「そしたら一生弱いままっスよ? いいんスか? 俺より弱いんスよ」

「うううっ」


 俺は諦めて歩き出した。

 そしていくつもの襖を開け、倒れたままの障子を踏み越え、迷路のような和風ダンジョンを進み、やがて何もない土壁の前で止まった。


「……」

「ここにおわすのは裏木路城の主、ビシャカリサマだ」


 隊長が土壁の一部に手を掛けると、壁が割れた。


「え?」


 これがこの裏木曽路城の主だって?

 俺はボッチらしく、無言で立ち尽くした。


「驚いただろう」


 隊長が悲しそうな顔でそう言った。


「ええまあ」


 ビシャカリサマ。それは石像だった。


「女の子?」


 そう、しかも女の子の石像だった。

 キリヒメサマのような幼い石像が物悲しそうに虚空を見つめていた。

 そしてあろうことにその小さな身体には巨大な三本の剣が突き刺さっていた。

 アニメ化不可避。子供に突き刺さる巨大な剣。

 なんて酷いこと。誰がこんなことを?


「酷い」


 その巨大な三本の剣から噴き出す禍々しいメンタル霊に見覚えがあった。


「これはヤオロズウェポン?」

「ああ、そうだ。ビシャカリサマはヤオロズの四天王との戦いに敗れ、この裏木曽路城に封印された」


 隊長が悲しそうな声でそう言った。


「……」

「俺達はそんなことも知らずにこの裏木曽路城に挑み、ビシャカリサマに出会った」


 隊長が石像の周りの埃を払いながらそう言った。


「……」


 そこで見つけた幼女を崇拝しているのか? このロリータどもめ。


「……幼女」

「ああ、ビシャカリ様は前は違うお姿だったっスよ」

「この姿は昨今の美少女擬人化ブームにより固着したものでな、以前は筋肉粒々の仏像だった」

「はへえ」


 美少女化ブームがこんな所まで影響を与えているのか。

 何でも擬人化して美少女化して喜ぶオタクたち反省しなさい。はい。反省します。


「俺達はここに封印されていたビシャカリサマを見つけた。それ以来、俺達はビシャカリサマの復活を願ってお供えと守護を司っているんだ」


 隊長がビシャカリサマに頭を下げた。


「……はあ」


 そういえば生徒会長たちもクロミズにお供えしてたな。


「挨拶していってくれ、反応はないが思いは届くはずだ」


 隊長が俺の肩を叩いた。


「……」


 俺はビシャカリサマの元に跪くと軽く手を合わせた。

 えっと、なんてお祈りしよう。俺のこの腕輪を外してください。

 あと、ラッキースケベイベントを授けてください。


「……」


 反応がない。まあ、いきなり来て願い事とか一方的に言っても叶わないよね。

 失礼だよね。初詣の時だけお祈りするみたいで勝手だよね。

 こんな広いダンジョンでひとりぼっちで寂しかっただろう。

 この木曽三川警護団のオッサン達は見た目は怖いけど良い奴らだから良かったな。

 ああ、そうそう、お腹空いてない? 口に合うか分からないけど食べてくれ。

 俺はリュックの中からカロリーバーとペットボトルの水を取り出すとお供えした。


「すまんな」

「ありがとうカガッチ、これでビシャカリサマの復活は早まったっスよ」

「復活?」


「ビシャカリサマはヤオロズだ。ヤオロズは人の感情を糧とする。人々の信仰心とメンタル霊によって強くも弱くもなる。だが今はビシャカリサマを崇める者は俺達だけだ。だから復活にはまだまだほど遠い」


 隊長が遠い目でビシャカリサマを見る。


「早く元気になって欲しいっスよ」


 チャラ男も同じように遠い目をした。

 アイテムボックスが使えるようになったら沢山お供えするからね。

 そしたら俺のボットモであるクロミズと黒牛守とキンミズサマを紹介するよ。

 ミルフィーも今度連れてくるよ。アバロンもいるし、みんな連れてくるから元気になってくれ。クロガウは紹介しない。あいつは使い魔のくせに生意気だからな。


 その時ビシャカリサマから光の玉が現れた。


「え?」

「なっ、これは」

「そんなバカな」


 光の玉がフワフワ浮きながら俺の額に当たるとスッと中に入っていった。


「えええ?」


 攻撃された? いや温かい感じがする。

 これってまさか?


「ビシャカリサマの加護?」

「ああ。こいつは驚いた。ビシャカリサマの加護だ。小僧……良かったな」


 隊長が笑った。


「カロリーバーをお供えすれば加護がもらえたんスか?」


 チャラ男が口を放心した。


「むむむ。確かに米か、酒ばかりだったな。一考しよう」

「良かったっスね、カガッチ」

「これで小僧も裏木曽路城に自由に出入り出来るようになったな」


 隊長が不敵な笑みを浮かべた。


「え? どういうこと?」

「加護をいただいた。つまり名実共に俺の弟子となったということだ」

「え? 弟子? 意味分かんないんですけど?」

「小僧の戦い方は前から気になっていた。加護に依存した無駄な戦闘は見てらん」


 隊長が顎を触った。


「え?」


 俺は顎を突き出した。


「何のためにわざわざここに連れてきたと思ってるんスか?」


 チャラ男が髪をかき上げた。


「えっと?」


 何のためって、腕輪の封印を解除してくれるのでは?


「俺は少し街を空ける。今日を逃したらいつ揉んでやれるか分からんからな」


 隊長が首を鳴らした。


「街を空ける?」

「ああ、テツに誘われて討伐レイドに参加することになった。武者修行だ」

「テツ?」


 はて? どこかで聞いたことのある名前ですぞ?


「深山鉄。小僧と戦ったって聞いたが?」

「ああ」


 痴漢と間違えて俺を追いかけてきたサラリーマン冒険者のことか。元祖二刀流のオッサン。そういや隊長と知り合いって言ってったっけ?

 男のくせにペラペラ余計なことを喋りやがって、俺の周りはオシャベリサマの加護持ちばかりかよ。

 男は寡黙で不器用ってのが、古くからの日本男児の嗜みなんだぞ?


「小僧、中途半端に俺の技を使ったそうだな?」

「ええ? なぜそれを?」

「キリヒメサマ直伝を見様見真似で勝手に使いおって。朝までミッチリ叩き込んでやるからな」


 拝啓、生徒会長様。

 俺は新人戦に出る前に死んでしまいますことを、ここに深くお詫びいたします。

 一度でいいからラッキースケベイベントに突入したかったです。

 今でも遅くないからそのお胸にエントリーダイブしてもいいでしょうか?


「そんなにビビらなくてもオレッチとの朝練で基礎は出来てるから大丈夫っスよ」


 チャラ男のムカつく言葉で妄想から引き戻された。


「……」


 基礎? 何言ってんだよ。ダンジョン中をグルグル走ってだけじゃないか?

 あんなんで強くなれたらチャラ男でも強くなれるっつの。


「小僧。朝練の成果を見せてみろ」


 隊長が歯を見せた。

 俺の額に冷や汗が浮かんだ。


「さあて、ビシャカリサマへの面通しは終わったようですね。若手に新人戦対策講座と逝きましょうか」


 いつの間にか現れた副隊長が眼鏡を直した。

 なんで笑ってるの?


「ビシャカリサマは認めても俺はまだ認めておらん。木曽三川警護団の入団試験と逝こうか?」


 クマみたいにデカい男が指を鳴らした。

 誰が入団したいって言ったよ。


「新人戦で俺達の名を汚さぬように、団員としての志を魂に刻み込んでやろう」

「巫女様の後輩として、前回優勝者の後輩として、俺達の後輩として絶対に無様な負け方だけはさせん」

「まずはPK戦対策から、その後はトーナメント対策と逝こうか」

「俺達はA級だから一回戦のことは分からん。だが鍛えることはできる」

「小僧、喜べ。俺達全員が相手だ」


 俺は不敵な笑みを浮かべる木曽三川警護団のオッサン達に囲まれた。


「……」


 くっそう。加護があったらこんな奴ら小指一つでダウンなのに。

 今の俺は睨むことも出来ない。自分の足を睨むだけだ。


「どうした? 怖じ気付いたか? 無敵の加護が封印されていると戦えんか?」


 隊長が笑った。


「加護がないと?」

「リベンジ、もとい、修行と逝こうか?」

「クックックッ」


 木曽三川警護団が色めきだった。

 一分だ。俺は一分も立っていられないだろう。


「……」


 ふん、だがここはダンジョンだ。死に戻りでダンジョンから出ればいいだけだ。


「抜け」


 隊長がイマジナリーウェポンを抜刀した。

 俺は退路を確認するが、そこにはニヤニヤ笑う隊員達が囲んでいた。


「くっ」


 分かった。やってやろうじゃねえか。

 俺は全殲滅剣を取り出した。

 だが全殲滅剣からは、かつてのような膨大なメンタル霊は吹き荒れない。


「しょぼ。あの禍々しいメンタル霊が微塵もねえ」

「ヤオロズウェポンまで封印するとは神殺しの腕輪ってスゲーな」

「ぷぷぷ。カガッチ滅茶苦茶弱そう」

「つか、これが普通だろ。今までが異常だっただけだ」

「ほら、どうした? かかってこい」

「くっ」


 寄ってたかってみんなで馬鹿にしやがって、やってやるボッチよ。

 俺は駆けだそうとするも。


「え?」


 だがその前に俺の足は膝から分離していた。

 受け身を取ろうとするも、その腕がなかった。


「ぐっ」


 俺は受け身も取れずに顔から床に激突した。

 同時に両足を失った痛みが、両手を失った痛みが襲いかかる。

 あまりの痛さに叫び声も、呼吸すらできない。

 今までの俺はクロミズの絶対無敵の加護に痛みを感じることが少なかった。

 だが、今は感じたことのない激しい痛みがダイレクトに神経を這い上がる。

 痛すぎて死にたい。とんでもねえ痛みに呼吸することもできない。


 くっそ、この腕輪さえなければ――ん? 腕を斬り落としたな?

 つまり神殺しの腕輪が外れたってことじゃね?


「クロミズー、再生しろおおおお」


 俺は肺の中の空気を押し出すように絶叫した。


「……あれ?」


 だが半透明のボット細胞は現れない。

 回復する兆候が全くない。

 なぜだ? 腕輪は外れたはずだ?


「小僧。神殺しの腕輪は魂にはめられている呪いの装具だぞ。腕を斬り落とそうが外れない」


 そんなバカなああああ。くそったれえぇ。

 生徒会長、なんてものをはめてくれたんだあああぁぁ。

 だが生徒会長は増長する俺のために心を鬼にしてくれたのだ。

 生徒会長を責めるのは御門違い。いや、責めてもいいだろう。

 いや、あんな可愛い顔の生徒会長を攻められない。

 どうすればいいんだ?

 余計なことを考えて痛みを紛らわそうとするが、あまりの激痛で意識を失った。




「立て」


 隊長が刀を振った。

 え?


「あれ? 死に戻りは?」


 死んだら現実に戻るはずじゃないのか?

 そこは裏木曽三川城の内部だった。


「小僧。言い忘れていたが俺はビシャカリサマの忠臣だ」

「は? だから何だよ」

「つまり、俺はこのダンジョンのボス代行だ。俺が許さなければダンジョンから出ることは許されない。喜べ。思う存分戦えるぞ」

「ひいぃ」


 俺が逃げようとした瞬間、俺の上半身と下半身がサヨナラして倒れた。


「何回死ぬかな?」

「百回は死ぬな」

「いや千回は死ぬだろ」


 俺が死に戻りすると木曽三川警護団が俺の死亡回数を賭けていた。

 くっそ。俺はボッチアイをイビルアイにして睨んだ。


「そうだ。その意気だ。最初から殺す気で来い」

「うわああああ」


 俺は情けない声を出しながら斬りかかるが、剣が腕ごとなくなっていた。

 次は胸に激痛が広がって死んだ。

 痛すぎてもう痛みしかない。

 隊長の攻撃が見えない。強すぎるだろ。なんなんだよ。


「ああ、加護が無いカガッチは弱いっスねえ」

「俺らの分まで残して置いてくださいよ」

「さっさと立て」

「くっ、無理」

「じゃあ寝ていろ。踏み潰す」

「待て待て、ギャアアアア」

「立て」

「くっ」

「遅い」

「ギャアアアア」


 何回目の復活だろうか? 何十回目の復活だろうか?

 死に戻りした時点で殺されるから、数えるだけ無駄だ。

 なんて卑怯なんだ。俺が死に戻りを待ち構えているのだ。

 こんなん無理ゲー。ボッチのコミュ障にどうしろと?

 復活した途端に斬られるのだ。


「小僧。朝練で何をしていた?」


 俺が死に戻ると隊長が溜息と同時に剣を収めた。


「……」

「何のために毎朝走っているんだ?」

「え?」

「加護が封印されても小僧自身のメンタル霊がなくなった訳ではなかろう?」

「あっ……」


 確かに俺のメンタル霊は失っていない。

 失ったのはクロミズたちのメンタル霊だ。

 今、隊長良いこと言った。


「自分のメンタル霊を薄く伸ばせ、必要以上に使うな」


 メンタル霊を薄く延ばすですと?

 ピザ生地みたいに?

 そんな練習してないぞ? ただメンタル霊を使わないで走っていただけだぞ?


「ダンジョンにいるということはメンタル霊があるということだ。加護が封印されても、小僧は霊トレーサーだろうが?」

「!」


 そうだ。ここにいるということは俺は霊トレーサー。

 ダンジョンに入れるメンタル霊を持っている。

 死に戻りしても俺にはメンタル霊は残っている。

 かつての膨大なメンタル霊はないが、ゼロじゃない。

 朝練を思い出せ。

 俺はメンタル霊を少しだけ身に纏う。

 少しだけ体が軽くなったような気がした。


「そうだ」

「そうっスよ」

「生意気に」


 だが全身を覆うほどメンタル霊はない。

 どこに纏う。足か? 剣を握る手か?

 違う。目だ。

 隊長の攻撃は速すぎて見えない。

 だったら見えるようにするだけだ。


「ちょっと待ってて」


 俺は準備をしようとするが。


「待たんな」

「ぎゃああああ」


 俺がメンタル霊を目に纏おうとしていると視界がずれた。


「敵は待ってくれんぞ?」


 死に戻りした俺に隊長が俺に剣を突き付けた。

 くっそ。なんて意地悪なんだ。

 だが。


「見えた」


 俺は死に戻りのリスタートに備えて、予め目にメンタル霊を纏っていた。

 死に戻りを想定した動きをすればいいだけだ。

 なんというクレバーなボッチブレインだろうか?


「ギャアアア」


 だが見えただけで避けることはできない。俺は無残にボチ殺された。


「剣はなるべく上から下に構えろ。上段構えだ。袈裟斬りされても剣が下がるだけだ。そのまま腹を、首を狙え」


 そう言いながら隊長は俺の首に剣を突き刺した。

 死に戻りして剣を上段構えしていると、喉に突きを喰らって死んだ。


「立ち止まるな」


 見えない死角から斬られた。


「魔法と剣が同時に来ることを忘れるな」


 炎の魔法が俺を焼いた。


「一対一なんて滅多にないぞ? 時代劇じゃあるまいし、攻撃を待つ敵はいない」


 集団で襲われて死んだ。


「ギャアアア」

「ぎゃあが」

「ぐふええええ」


 何十回死んだだろうか? 何百回?

 待てよ。おかしい。俺のメンタル霊が切れないのだ。


「小僧が死に戻りできるようにビシャカリサマがメンタル霊を分けてくださっているのだ」


 隊長が笑うと確かにビシャカリサマからメンタル霊が経験値のように俺に漂ってきた。

 ありがとうございます。ビシャカリサマ。でももう分けてくれなくていいですから。

 ただでさえ少ないメンタル霊を大事に使ってください。

 俺なんかに分け与えないでください。ああ、優しさが痛い。


「ゆくぞ」

「ぎゃああわわああ」


 死んだ回数はもう数えていない。いや覚えていない。

 ただ、剣を振り、逃げ、走って飛んで死んだ。

 俺は腐った魚のような死んだ目をしていたに違いない。

 ああ、元からだった。


「最後に分身のコツを教えよう」

「いや、結構です」

「聞け」


 斬られて死んだ。斬られたら聞けませんよね?


「ここはダンジョンだ。小僧の体は半物質だ。つまり物理的制約は受けていない」

「はあ」

「では改めて聞こう。俺は一人か?」


 隊長が分身した。


「え?」


 俺の分身はクロミズのボット細胞を分裂させただけだ。

 ボッチーズも同じ原理だ。

 だが隊長はクロミズの加護を得ていない。ボット細胞を持っていないはずだ。

 そう考えると隊長の分身はどういう原理だ?

 キリヒメサマ直伝って言ってたけど?


「メンタル霊が魂そのもの。感情そのもの。物理的制約はない。自分が一人だけだという制約もない。何人いても構わないはずだ。マルチバースの自分を呼べばいい」


 分身した隊長がそう言った。

 確かにダンジョンは妄想の世界。

 物理法則も制約も常識も法もない。

 物理無法地帯。俺が何人いても問題ない。

 いや問題だろう。俺はボッチだ。

 ボッチが分身したらボッチじゃなくなってしまわないか?

 複数ボッチ。それはもうリア充ではないだろうか?

 いや、コミュ障のボッチ同士がウェーイするはずがない。

 だったらボッチの俺が分身してもリア充になることはないはずだ。

 やってやる。俺は呼吸を整え集中する。

 俺は一人じゃない。いやいつも俺は一人だっただろ。

 いや、心の中にイマジナリーフレンドのボッチ君がいるから二人か?

 ボッチ君。お前の力を貸してくれ。

 俺は心の中の相棒に語り掛ける。


『ケッ。嫌なこったボッチよ』


 はっ? いやそこは協力してこの地獄から脱しようよ。


『自分のケツは自分で拭くボッチよ』


 こんな時に何言ってんの? 俺達は一心同体だろ?


『一心同体なら分身なんてできないボッチよ』


 うむ、なるほど。言われてみればそうだ。

 いやいや、そんな理屈的な屁理屈はいらないから。


「何をぼさっと突っ立っている?」


 俺がボッチ君と押し問答していると隊長の分身体に前後同時に襲われ死んだ。


 拝啓。副会長様。

 私は何度も死に戻り、イジメられ、殺され、もはや目から生気が失われ、口からは言葉もでない。あっ。それはいつものことだった。

 とにかく、新人戦前にこっぴどくやられて、新人戦を止む無く辞退することをお許しください。

 追伸。

 願わくば、その豊満な胸に五センチまで近づくことを切に願う。


「分身できたら帰っていいぞ?」


 分身した隊長が前後左右から同時に斬りかかってきた。

 どうする? 分身? そうだ。俺には黒スライムの分身体が鼻水として俺の中にいる。それを使えば分身など造作ない。

 そう舌なめずりした瞬間、死んだ。


お読みいただきありがとうございました。

更新が大変遅くなりましたことを心からお詫びいたします。

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