第6話 ギルドと受付嬢
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
『ここがこの異世界“アン・イリス”で最も大きなコルフルトのギルドとなります。』
光輝はしばらくギルドの外観を眺め、ギルドに入ろうとした。だがその時ノルスが話しかけてきた。
『光輝さん、ギルドの関係者と話をするのであればブラフをいくつか考えておくことをオススメします。』
(…ブラフ?)
『簡単に言う嘘です。あなたは先ほど神ウィルトの手によって転生され、この世界の人間となりました。しかしあなたはここで生まれた存在ではありませんので、この世界でのあなたの経歴・身元証明書と言ったものは一切ありません。この世界で生きていくには何らかの嘘を交えて話す必要があります。ギルドの関係者と話をするのであればそのあたりを考えてください。』
(分かった…。)
ノルスのアドバイスを聞き、光輝は緊張しながらもギルドの大きな扉を開けた。
ギルドの中はとても賑やかだ。何らかの掲示板らしきものがあり、若い人から年老いた人まで何やら楽しそうにしている。そして奥にはレストランがあるらしくとてもいい匂いがした。
(受け付けはどこだ…?)
少し歩いて探していると頭上に『ACCEPTANCE→』と書かれた案内掲示板が見えてきた。その案内にそって歩いていると受付にたどり着いた。
(すごく大きいな…。)
受け付けは横長くその長さは100m近くもあった。受付の人はスーツのような服装をしていた。そこにはいろんな人がいた。ローブを着ている人・つばのとても長い帽子をかぶっている人・腰に剣を付けている人・手に不思議な手袋をしている人・とても長い杖を持っている人・手に少し薄く長い板のようなものを持つ人がたくさんいた。光輝は自分の今着ている服がこの世界ではおかしいということを理解はしていたものの、周りの人があまりにも自分にとっては非現実すぎる格好してだったもので、分かってはいたものの少しなじめないでいた。
そんな人たちの中を歩きながら、受付の空いているカウンター席にたどり着いた。受付の人は何らかの作業をしていてこちらに気付いていないようなので、光輝は受付の人を呼び出すことにした。
「…あのすみません、少しいいですか?」
作業をしていた受付の人はすぐに光輝に気が付いたようで、すぐにカウンターに戻ってきた。
「あ、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
固く頭の上の辺りで髪を縛ったポニーテールがよく似合っている灰色と銀色が混ざった色をした髪色をした受付の女性は、優しい笑顔と丁寧な口調で光輝にあいさつした。
「は、はい。あの…。」
受付の女性はかなりの美人さんだったので、あまり女性には興味のない光輝ではあったが間近で見る美人さんの優しい笑顔に一瞬戸惑ってしまった。だが気を取り直して、なんとか話を進めることにした。
「今日からこの街で暮らしたいと思い、遠い村からこのコルフルトにやってきました。ここで働き暮らしていきたいので職を紹介してもらえませんか?」
とりあえずこの無一文の状況を何とかしなければならないと考えた光輝は職を紹介してもらおうとした。職によっては下宿先も紹介してもらえる可能性もあるのでそれが最善だと結果をだした。
「では身元証明書や職業の履歴書などはございますか?」
「…。」
分かってはいたがかなりきつい質問が飛び出してきた。ここで生まれたわけでもない光輝には当然身元証明書になるようなものは手元に無いし、ほんの数時間前まで学生だったので、もちろん働いたことすらない。職業の履歴書や身元証明書の偽造も今の自分には出来るはずもないので、どうしようもできない質問にただ黙ることしかできなかった。
「…あの、どうされました…?」
いつまでも黙っている訳にはいかないし、嘘をついても解決できないので仕方なく本当のことを言うことにした。
「…すみません、今の自分の手元にそういったものはありません…。本当にすみません…。」
決して悪いことを言ったわけではなかったが、光輝は頭を受付の女性に深々と下げた。
「…そ、そうですか…。あ、あの顔を上げてください。あなたは別に悪いことしたわけではありませんから…。」
受付の女性は光輝の行動と言動に一瞬困惑したが、笑顔を作って場を誤魔化してくれた。
「身元証明書や職業の履歴書が無いとなると、現在この街のある職の案内をすることができません…。」
「はい…。」
完全に空回りだ。この状況では今日はもう下宿先なんて紹介してもらえる訳もないし、職にすら就くことも夢のまた夢だ。
(今日は野宿決定だな…。)
光輝は肩をガクッと下げてしまい、完全に諦めモードになっていた。
(これ以上会話しても時間の無駄か…。)
ここにいても受付の人を困らせてしまうだけだ。ここを出て寝ていい場所を探そうと考えをマイナスな方向にしていた。
「お騒がせしてすいません、失礼します。」
「あ、あの待って下さい。」
帰ろうとした光輝を受付の女性は慌てて止めた。
「…あの、一つだけなら紹介できるかもしれない職があるのですか…。」
「…本当ですか!?」
いつもは比較的静かな光輝も突然降り下りた希望の言葉が嬉しかったのか、無意識のうちに声を張り上げていた。
「は、はい。では少し待ってくれませんか?」
受付の女性は裏に回って何かを取りに行った。そしてすぐに受付に帰ってきた。
「あの、すみませんが手を水をすくうような形にして出してくれませんか?」
「は、はい。」
何をされるのかは分からなかったが、光輝は受付の女性の言うとおりに手を出した。
「ではこれを手に乗せますね。落とさないように気を付けて下さい。」
女性はそう言うと光輝の手の中にダイヤの形をした水晶体を光輝の手に上に乗せた。
「あの、これは…?」
「これは“能力判明水晶”です。これを使うとあなたの潜在能力が分かります。もう少しすれば分かりますよ。」
すると光輝の手の中にあった水晶が光り始め、水晶が手から少し浮いたのだ。
「これは…。」
「来ますよ…。」
すると水晶が輝きを増した瞬間に文字を浮かび上がらせたのだ。
「少しそのままにしてください。」
言われるままに光輝は水晶を持っていた。そして受付の女性はその文字を読み始めた。
「生命力7263・攻撃力387・防御力354・魔力342・魔防319・素早さ371・幸運13…!!凄いです…!!ここまで初期値が高いなんて…!!」
「あの…、どういうことですか…?」
「ええとですね、先ほどあなたの潜在能力を見させてもらいました。」
「潜在能力…?」
「あなたが生まれつき持っている能力です。いわば才能みたいなものです。」
「それでその潜在能力によってなにが分かったのでしょうか…?」
「えっとですね、先ほど言った職についてですがおすすめできるいいのがありますよ。」
「その職とは…。」
「ズバリ!冒険者です!!」
「…え?」
冒険者という言葉に光輝は思わず顔を真顔にしてしまった。そして頭の中は疑問に包まれた。
光輝はすぐに聞き返した。
「冒険者って何するんですか…?」
「街や王国から出るモンスターの討伐、職人からの素材の採取依頼なんかです。」
「…。」
言葉が出なかった。正直言って訳が分からない。てかなんで戦闘もしたこともない自分が冒険者をおすすめされるのか本当に理解できなかった。
「なんで俺に冒険者がおすすめなんですか…?」
「理由として一つは先ほど確認したステータスがとても優秀であり冒険者にとても向いている存在だからです。」
「はあ…。」
なんだか色々と嫌気がさしてくる。
(なんか才能があるからやった方が良いよと言われているような気が…。)
「そしてもう一つはあなたが抱える身元証明書がないといった問題を解決できます。」
「え…!?」
予想にも反する嬉しい言葉が返ってきた。
「光輝さん、あなたは見たところ1クルフも持っていませんよね?」
「…はい。」
「ですがあなたがもし冒険者になれば特別手当として100,000クルフをその場で差し上げます。」
「100,000も…!?」
「そして冒険の為の防具・衣類・武器を無償で提供し、冒険の為に必要な身元証明書の特別発行ができます。」
光輝にとってはまさに最高の条件がそろっていた。だがあまりにも良すぎる条件のため疑いの心があり声に出た。
「なんで…、なんで俺みたいに何も持っていない人にこんなに親切にしてくれるんですか…?」
「…確かにあなたはお金も1クルフも手元にありませんし、身元証明書もありません。来ている服もここでは見たことがありませんから、騙しをしているとは思いました…。」
「じゃあなんで…?」
「…あなたはとても嘘を付いているようには見えませんでした。心から正直に自分を話していると思いました。」
「え…。」
「私は何人もの来客者を見ています。嘘を付いている人も少しですが見分けられます。…でもあなたの目はとてもまっすぐだった。だから私はあなたを信用したいと思っただけです。」
「…!!」
嬉しかった。異世界に来て何も分からない、怪しいとしか思えない自分を少しでも信用してくれた。それが今の自分の心を救ってくれた。
「…でも俺モンスターとなんかと戦ったこともないですし…。」
「あなたのような初期値が高い人なら大丈夫ですよ。それにはじめての冒険は一種の講義みたいなものですから。」
「…本当ですか。」
「本当ですよ。あなたのようにしっかりしている人なら大丈夫ですよ。一生懸命になれます。…それに
優しい笑みで受付の女性は
冒険って意外と楽しいですよ。」
と答えた。
(楽しい…。)
自分にもできる。一生懸命になれる。死んだときに願ったその心を叶えてくれるかもしれない。
「…。」
その言葉と優しさで光輝の心は動かされた。
「…です。」
「?」
「…冒険者やりたいです。」
この一言が光輝を変えていくことになる




