第22話 空気を読まない女神さま
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「おぉ…、かなりの人がいるのね。」
ギルドに入ったメルフィアは辺りをキョロキョロと見渡していた。
「これでも人は少ない方なんだ。」
「ふぅん。そうなの。」
「とりあえず、この先にある冒険者専用の受付で手続きをしないと冒険者になれない。メルフィアが怪しまれないように俺がいくつかブラフを出すからそれに上手い具合に合わせてくれ。」
「仕方ないわね…、乗ってあげるわ。」
軽く小話を済ませて、光輝とメルフィアはルルシアの元にやってきた。
「いらっしゃいませ。…って光輝さん?クエストはどうされたんですか?」
あまりにも早く戻ってきた光輝を見て、ルルシアは不安げな顔をしていた。
「あのですね…。俺の知り合いが突然とやってきて、冒険者になりたいということだったのでクエストを中断してここに戻ってきました。」
「なるほど…。事情は分かりましたのでライセンス発行の準備をしますね。それで冒険者登録をしたいと言っていた光輝さんの知り合いは今近くにおられますか?」
以外にもルルシアはあっさりと冒険者ライセンスの発行を了承してくれて助かったと光輝は胸を撫で下ろした。
「はい。今、俺の後ろにいます。」
「ではここに連れてきてくれませんか?」
「分かりました。…こっちだ、メルフィア。」
「…はいはい、分かったわよ。」
光輝の後ろにいたメルフィアは渋々と、ルルシアの元へと移動した。
「メルフィアさん、改めて冒険者ギルドへようこ…。」
ルルシアは自分が持つ笑顔でメルフィアを迎えようとしたが、メルフィアの美しさや女神が持つ魅力的なオーラに飲まれてメルフィアに心を奪われてしまった。
「…ねぇ、さっきから私を見つめているけど、私の顔に何か付いているの?」
「…ハッ!!…す、すいません!!何でもないです!!気にしないで下さい!!」
顔を赤くして、顔の前で手を振ってとても慌てふためいてた。
女の子に全くの興味の無い光輝も初めてメルフィアを見た時心奪われていたので気持ちは分かりますとルルシアに密かに同乗していた。
「…コホン。と、とりあえずこちらにお名前を入力してください。」
ルルシアは何らかの操作をして『ブン』という機械音と共に約一週間前に見たパソコンのキーボードのような画面を出した。
メルフィアは無言のまま手慣れた様子で自分の名前を素早く入力した。
「『メルフィア・ニファミル』さんですね。」
「えぇ、そうよ。」
「ではニファミルさん。ライセンスには顔写真が必要になりますので、ここで一枚写真を撮りましょうか。」
「はいはい。」
ルルシアはトレトアイル文字の映った画面を右手でスワイプして、スマホのカメラアプリのような画面を表示させ、メルフィアの顔写真を撮った。
「ではニファミルさん、こちらの写真となりますがよろしいですか?」
「…えぇ。問題ないわ。それと気難しいのは嫌いだから私のことは『ニファミル』じゃなくて、『メルフィア』って呼びなさい。」
「…。」
(おいおいおい…。)
いきなり強い命令口調でメルフィアに釘を刺されてルルシアは思わず言葉を飲んでいた。光輝はメルフィアのあまりの礼儀悪さを見て不安な心境へと落とされていた。
「…分かりました。では改めましてメルフィアさん、よろしくお願いしますね。」
とにっこりと返した。だが光輝の不安な気持ちは収まらず、不安な心境のままであった。
「ではメルフィアさんに似合った職業を確認するので、潜在能力を測らせていただきますね。」
「えぇ、…でどうすればいいの?」
「これを使います。」
とルルシアはカウンターの下からダイヤの形をした水晶体を取り出した。
「では、手を水をすくうような形にしてくれませんか?」
「えぇ、これでいいの?」
「では、失礼しますね…。」
水晶体をメルフィアの手に置くと水晶体は光り始め水晶体は少し手から浮き、輝きを強めた瞬間にステータスを浮かび上がらせた。
「そのままにしていてくださいね。ええと…。…へ?」
ステータスを読んでいたルルシアであったが、見た瞬間に表情はガラリと変わり、茫然とした顔立ちになっていた。
「あのー、大丈夫?」
「…あ!すいません、こちらの水晶体に不具合があったようで!今すぐ新しいのと取り換えてきますねっ!!」
慌てた様子でルルシアはメルフィアの手か水晶体を素早く取ると、走って後ろ側へと消えていった。
「…全く何なのよ。ああ、それと光輝さっきのことだけど。」
「…何だよ?」
メルフィアは光輝をチラッと視線を変えて
「やっすい、ブラフだったわね。」
『ハッ』と軽く言って嘲笑うと光輝から視線を逸らした。
(…。)
先ほどからくるメルフィアからの不愉快な行動に光輝のイライラは強まっていった。
「…お、お待たせしました。先ほどの水晶体を取り替えましたので、もう一度お願いします。」
戻ってきたルルシアはメルフィアの手に水晶体を乗せて、浮かび上がった文字を再度慎重に見始めた。
「…。」
だがルルシアはまたしても茫然とした顔立ちになっていた。光輝はルルシアのことが不安になり
「あ、あの何があったんですか…?」
思わず口を開いてルルシアに質問していた。
「え、えーとですね…。メ、メルフィアさんのステータスが…。」
「ステータスが…?」
「…生命力 27348・攻撃力 1264・防御力 1201・魔力 2368・魔防2359・素早さ 1237・幸運44。こんな大きすぎる数値はいままで見たことがありません…!!」
「!?」
自分とはあまりにもかけ離れた初期のステータスのメルフィアに光輝も驚きを隠せないでいた。
(…ノルス!!)
居ても立っても居られず光輝はノルスを起動させた。
『はい。どうされましたか?』
(メルフィアの初期ステータスがこんなに高いのには何か理由があるのか…!?)
『お答えします。女神メルフィアが持っていた神の力は間違いなくゼウスという神によって封印されました。ですが女神メルフィアが最初から持つ大きな力はそのまま残ったらしくそれがこの水晶に反映されました。』
(つまりだ…。メルフィアは神様が使える危険すぎる魔法・力は使えなくなったが、自分が持っていた力や魔力はそのまま残ったということか…?)
『はい、その通りです。』
(…色々とまずいんじゃないのか?)
『いえ、女神メルフィアはこの世界では「天才」だの「神」とか騒がれるくらいですから問題ないかと思われます。」
(…そうなのか?)
『はい、そうです。』
(…とりあえず分かった。ありがとうノルス。)
『いえいえ。それでは失礼します。』
ノルスとの会話をとりあえず終わらせたが、光輝はそれでも驚いたままだった。
「…ねぇ、いつまで私はこの水晶体を持っていればいいのよ?」
「…あ、度々すみません!もう丈夫ですよ!」
我に返ったルルシアはメルフィアの手から水晶体を取ると話を元に戻し始めた。
「…え、えっとですね。ステータスを確認したところメルフィアさんは驚くことに13種類ある職業全てに適性があるということになりました。」
「へぇ、そうなのね。」
「…。」
今目の前でとてつもなくあり得ない事態になっているのに、軽く事を流しているメルフィアに光輝はいちいち驚くのが嫌になり始めていた。
「とりあえず、現時点で何か冒険者でやってみたい職業はありますか?」
これ以上茫然としてはまずいと何とか笑顔のままルルシアは話を続けていた。
「…そうね。じゃあ聞くけど武器を持たなくていで、敵になるべく近づかなくていい職業ってある?」
「ええと…。」
(…。)
光輝は楽に苦労せず冒険者をやろうという魂胆が見え見えなメルフィアを即刻に黙らせて、ルルシアに頭を下げたいという気持ちになり、無意識のうちに手で顔を覆っていた。
ルルシアも爆弾級の発言を受けたらしく、笑顔のまま硬直していた。
「それで、そういう職業はあるの?」
「一応該当する職業にウィザードと呼ばれるものがありますが…。」
「へぇ…。ところでウィザードってどんな職業なの?」
「えっと…。簡単に言えば自分の身体にある魔力を自分の手に集中させて、対象物に魔法攻撃をする職業です。ですがメルフィアさん、いきなりウィザードとして冒険者をやるのは色々と身体的問題が…。」
話を聞いていたメルフィアはルルシアの発言にイラっときたのか少し眉間にシワを寄せた。
「…それって私が不出来な存在だと言いたいの?」
「あっ、いえ!そういうわけでは…。」
「いいわ。私が不出来じゃないってことを見せてあげるわ。」
そう言うとメルフィアは自分の両手を胸の前に移動させると
「ッ!!」
魔力を集中させるとメルフィアの手から大きく熱い炎が放たれた。
「…!?」
メルフィアの突如として手から放たれた大きすぎる魔力と魔法にルルシアは驚きを隠せないでいた。
「…!!」
更にメルフィアは瞬時に炎の魔法から風の魔法へと切り替え、また瞬時に手の中に大きな氷の結晶体を作り上げた。
「ふぅ…。…それで、アンタはまだ私が不出来な存在だと言うの?」
「…いえ。…すみませんでした。」
目の前で起きたことに理解が追い付かないまま、何も悪くないはずのルルシアは自然とメルフィアに頭を下げていた。
その状況の中で光輝は『本当にすみません』と心の中で謝ることが今の自分にできることだけだと悲しくも思ってしまっていた。
「…では改めて、職業はウィザードということでいいですね?」
「えぇ、いいわよ。」
ルルシアはメルフィアに確認を取ると素早くキーボード画面を出してライセンスに必要な項目を入力し始めた。そして入力が終わると
「さて、こちらがメルフィアさんの冒険者ライセンスです。間違いがないかご確認ください。」
出てきた冒険者ライセンスを丁寧にメルフィアへ手渡した。
「…問題ないわ。どうも。」
受け取ったメルフィアは片手で冒険者ライセンスを受け取ると軽くルルシアに礼を言った。
「あの…、すみません光輝さん。」
「…あ、ハイ。」
いきなりルルシアに呼ばれ、何かされるのかと光輝は不安にあおられた。
「あの、メルフィアさんは光輝さんと同じでお金はお持ちではないんですよね?」
「…はい。そうですが…。」
「やはりそうですか。では光輝さんと同じようにメルフィアさんにも100,000クルフと初期装備の特別手当を用意させて頂きます。どうぞお受け取りください。」
とルルシアはメルフィアにこれらの特別手当を渡した。
光輝も怒られるのだろうかと思っていたが、大したことが無くて良かったとまたホッとしていた。
だがそんなホッとした瞬間もつかの間らしく、
「…悪いけどこの装備返品とかできないの?」
とまたしてもメルフィアはとんでもないほど失礼な発言をした。
「…えっと、それは?」
光輝の焦りと不安は更に増して、ルルシアはまたしても笑顔のまま凍り付いていた。
「…そもそも私はこんなダサくて弱々しいの着たくないわ。ていうか私の職業はウィザードなのになぜ魔法使いレベルの装備を渡して頑張って冒険してきてくださいねですって?普通はウィザードに適した装備品を渡すべきよね?」
「え…、えっと…。」
「あなたはこのギルドの人間なのよね?突然ウィザードの新米冒険者が現れることが起こるなんて思いもよらなかったから魔導士の服を渡しておけばいいかみたいなやつで誤魔化すつもり?だったらアンタは本当に最低ね。」
「い、いえ…!私はそんなこと…!!」
「だったらそれなりにアンタには釈明する義務あるはずよね?それが言えるなら言ってみなさいよ!さあ早く!」
「…。」
滅茶苦茶すぎるメルフィアの発言が度を過ぎたのか、もうルルシアは釈明どころか弁解することすらできなくなり、顔からも笑顔は消えてしまっていた。
これ以上メルフィアに言いたい放題させたら不味いと感じた光輝は、
「分かったメルフィア、装備は俺が全部自腹で揃えてやるから!それでいいよな!?」
と慌てて二人の会話の中に入りメルフィアに苦し紛れの提案をした。
「…本当にアンタが全て自腹で買ってくれるの?」
「ああ、デザインも保証する。」
「…そう。」
とメルフィアは言って少し笑うと
「分かったわ。それでいいわ。」
とあっさりと納得してくれた。
(…良かった。)
心の底から安心したのか光輝は無意識のうちにため息をついた。
「と言う訳で装備品はこっちで揃えるからもう下げていいわよ。」
「そ、そうですね。そうさせていただきます。」
ルルシアはそのまま初期の装備品を後ろの方へと戻していった。
そして軽く笑顔を作ると
「では最後になりますが、初心者の冒険者の為の講習会のようなものがありますがメルフィアさんは参加されますか?」
とメルフィアに尋ねた。
「んー。そうねぇ…。あ、そうだ。光輝、アンタその講習会の話とか内容とか覚えてる?」
「…ああ、覚えてる。」
「なら、私は光輝からそれらの内容を全て聞くから参加は無しで。」
「そ、そうですか。分かりました。ではこれでメルフィアさんの受付は終わりです。お疲れさまでした。」
「あー、ハイハイ。あ、光輝終わったわよ。」
「…おう。」
「?何よ疲れた顔して?」
「いや…、別に…。」
メルフィアがつくった極度の不安・焦り・怒りによって疲れているんだといったことをメルフィアにぶつけたくなったが、光輝はその心をグッと抑えた。
「じゃあ、終わったことだし装備品を買いに行くわよ。」
「ああ…。…メルフィア。」
「…何よ?まさか今更装備品は買えないとか言うんじゃないでしょうね?」
「いや、ちょっと用事を思い出したから先に外で待っていてくれないか?」
「別に構わないけど早く来なさいよね。」
と会話を終えたメルフィアはその場をゆっくりと離れた。
そしてメルフィアが遠く離れたことを確認した光輝はルルシアのいる受付に急いで移動すると、
「あの…、ルルシアさん…。」
「は、はい。」
「…本当に先ほどからメルフィアが迷惑を掛けてすみませんっ!!」
と深々と頭を下げて謝罪をした。
「いえいえ!光輝さんは悪くないですよ!むしろ助けてもらったくらいですから!本当に大丈夫です!」
「後からちゃんと言い聞かせますので…、今日の所は許してしてあげてください!」
「本当に大丈夫ですので、気にしないで下さい。…光輝さんは外で待ってくれているメルフィアさんの所に早く行ってあげてください。」
「…ありがとうございます!失礼します!」
光輝は深々と謝罪と礼を言うと急いでギルドを離れてメルフィアの元へ向かった。
(久しぶりに凄く疲れた…。でも光輝さんがあの時助けてくれて本当に良かった…。ありがとう…、光輝さん…。)
こうして騒がしくもメルフィアの冒険者登録はなんとか無事に終わった。
だが光輝の苦労はまだ始まったばかりであることをまだ誰も知らない。




