第23話 女神さまとのお買い物
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「…お、やっと来たか。」
光輝が向かってきたことにメルフィアは気が付いた。
「…悪い遅くなった。」
息を切らしながら光輝はメルフィアに軽く謝った。
「…全く、何してるのよ。ま、今回はアンタが装備品自腹してくれるってことで特別に許してあげるわ。」
「…ありがとう。」
お前が遅れた原因の一つだと言ってやりたいのを抑えて、光輝はイライラしながらもメルフィアに礼を言った。
「さて、装備品だけどその店はどこにあるの?」
「…ここから先に『ソフィーク・シェルフィーゼ』っていう店がある。俺はここで装備を整えたんだ。」
「じゃあそこに案内して。話はそこからね。」
話を早く呑み込んだメルフィアは光輝の案内を受けて店へと向かい始めた。
歩いていく中で光輝はメルフィアにこの街のことを自分の知る限り教えた。メルフィアは軽く相づちを打ちながら大人しく話を聞いていた。
「…ここだ。」
話を続けているうちに気が付けば二人は『ソフィーク・シェルフィーゼ』の前まで来ていた。
「いいお店ね。光輝にしては中々センスがいいじゃない。」
そう言うとメルフィアは少し駆け足でお店の中へと入っていった。
光輝もゆっくりと店の中に入り、マルクを探していた。
(居てくれるといいが…。)
そんな思いをしながら視線を何度か変えていると、最初に出会った時と同じようにタバコを吸ってのんびりレジのカウンター裏に座って店番をしているマルクの姿が目に入った。
「いらっしゃいませ。…ってお前はネノといた坊主じゃないか。」
「この前はどうも…。」
「何だよ?釈然としねー顔して?どうした?」
「あの…、俺の知り合いに装備品を買うのでちょっと相談に乗ってくれませんか?」
「…知り合い?…あぁ、先入店してきた珍しい服着たあの嬢ちゃんか?」
マルクの指を指した先には魔法服を手に取りながら、少し悩んだ顔をしたメルフィアがいた。
「…はい。そうです。」
「へぇ…。なるほどねぇ…。」
光輝の話を聞いて、マルクは軽くにやけた。
「光輝。」
「はい?」
「お前お堅いやつとは思っていたが、まさかこの短期間であんな可愛い嬢ちゃんを見つけていい関係になるとはn。」
「それは断じて違いますっ!!!絶っ対にそれは無いですから!!!」
光輝はマルクにその台詞を言わせまいと鋭い目つきと力強い声でマルク黙らせた。
「お、おう…。悪ぃな…。」
表情をほぼ変えない光輝にいつになく険しい顔をされ、マルクのニヤけた症状はヒュンと音を立てるかのように消えた。
「…コホン。話を元に戻すとしてあの嬢ちゃんに魔法服を買ってやるんだよな?」
「はい。」
「お前はお客さまだから一応相談には乗ってやるけど、正直俺は女性用の魔法服選ぶセンスはあまり保証できねぇな…。」
「…何とかなりませんか?」
「うーん…。一応頑張っては見るが…。あの嬢ちゃん何気にプライド凄く高そうだからなぁ…。正直相手にして気に入ってもらえなかったら何されるか分かったもんじゃねぇな…。」
(確かに…、否定はできない…。)
光輝とマルクはお互いに気まずそうな顔のままため息をついた。
「あー。こんな時に店長が店にいてくれたらなぁ…。」
諦めモードにに入ったマルクは後頭部を両手で支えて、椅子に深く寄りかかってタバコをふかしながら嘆きの言葉を吐いていた。
「あら、呼んだ?」
そんな時に店の入り口から女性の声が聞こえてきた。
「ん?…って店長ッ!?」
マルクは入り口にいた女性の姿が自分の目に映った瞬間に、深く腰掛けて椅子から飛び上がるかのように立ち上がり、入り口にいた女性に驚いていた。
「…全く、お客様の対応をしているのにだらしない態度はしちゃいけないってもう何回も言ったでしょ?」
「す、すいません…。」
マルクの堂々とした態度はいつの間にか消えており、自分よりも年下そうである女性に後頭部に右手を当てて深く頭を下げて女性に謝っていた。
「あ、お見苦しい所を見せてすみません。私はこの“ソフィーク・シェルフィーゼ”の店長兼オーナーの“シェルム・カルフィ”です。」
とシェルムは光輝に礼儀正しく頭を下げた。
「…ところで、店長なんでこんなに帰ってくるの早いんですか?確か予定じゃあ来週あたりになるとか言ってませんでしたっけ?」
「ああ、それね。あれなら二日で片づけたわ。」
「エッ…!?」
マルクは拍子抜けた顔で驚いた。
「全く何が二週間以上も掛かるかもよ…。あまりにも単純過ぎて簡単に終わっちゃたわ。期待してたけど拍子抜けだったわ…。」
「…それであとの五日間は何をなされてたんですか?」
「これからの参考にと様々な会社を巡って市場視察してたわ。いやぁ、実にいいもの見せてもらったわ!これでますますいい魔法服が作れそう!」
「そ、そうですか…。それは良かったッス。ハハハハハ…。」
『いつも仕事ばかりしているんだから、せっかくならその空いた時間で仕事のことくらい忘れて少しは遊ぶなりしてリフレッシュくらいしろよ!』とマルクは心の底からシェルムに言いたかったが、わざと笑って自分の言いたい気持ちを抑えた。
「ところでマルク、私がいてくれたらって言ってたけどどういうこと?」
「…あぁ、それなんですがかくかくしかじかで…。」
「なるほどね…。状況は分かったわ。光輝さんでしたよね?」
「は、はい。」
「一緒に来たって女の子は今どちらに?」
「えっと…。」
「光輝ー。一応聞くけどここには魔法服専用の靴とかもあるの?」
メルフィアの場所をシェルムに教えようとした時、質問しようといつの間にかメルフィアが光輝の元に戻ってきていた。
「…!?」
シェルムがどのような女の子かと確認しようとメルフィアを視界に入れた瞬間、シェルムはメルフィアが身に着けていた神々の正装に目を奪われ、即座にメルフィアの元へと駆け寄ってメルフィアの正装を観察していた。
「ちょっ、何よ…?」
いきなり知りもしない人間に近寄られて、様々な角度からじろじろと見てくるシェルムにメルフィアはタジタジになっていた。
何度もシェルムはメルフィアの周りをぐるぐる何度か回って観察し、ピタッと止まるといきなりメルフィアの両手を握り
「ねぇ!あなたのその服スケッチさせてくれない!?」
と目を子供のようにキラキラと輝かせてメルフィアにお願いをしてきた。
「…え?」
いきなり過ぎて流石にメルフィアはどのようにシェルムに答えればいいのか分からないまま棒立ちになってしまった。
「いや、私は…。」
「お願い!」
シェルムは多少のぶりっ子でメルフィアにお願いしてた
「いきなりそんなこと言われても…。」
「お願い!本っ当にお願い!」
諦めきれないシェルムはメルフィアの手を少し強めに握ってお願いした。
「でも…。」
「お願いっ!この店でも最高に高級な装備品を少し値段を安くしてあなたに選んであげるからっ!」
((!?))
シェルムの言葉を聞いたとき、光輝は財布の現状がまずくなる、マルクは店の財政がまずくなると少し青くなってしまった。
「…何分で。」
「…え?」
「何分でスケッチは終わるの?」
「…!」
シェルムはよっぽど嬉しかったのか目に涙を少し浮かべてにっこりと笑っていた。
「30分…!30分さえあればいいのっ!!」
「…本当にいいの?30分以上は私は絶対に伸ばさないわよ。」
「ええ!私に二言は無いわ!マルク!」
「は、はいっ!」
シェルムにいきなりに大きな声で呼ばれ驚いたせいなのか、マルクは両腕を太ももに付けて背筋をピシッと伸ばして立ち上がった。
「今すぐ二階から私のスケッチ用の道具を持って降りてきて!」
「で、ですが店長…。」
「口答えしないっ!早く持ってきてっ!!」
「すっ、すいません!今すぐ持ってきますっ!」
怒鳴られたマルクは急いで二階へ駆け上がっていった。一方で光輝は下を向いて何も考えず、ただただ現実逃避に身を置いた。
「…さて準備は整いました。今から30分間動かないで下さいね。」
「…はいはい。分かったから早く始めて。」
「ではっ!」
カッと目を見開いたシェルムは鉛筆を手にものすごい速さでルルシアをスケッチし始めた。あまりにも速いので鉛筆もすぐにすり減ってしまい、何度も鉛筆を取り替えながら黙々とスケッチを続けた。
「坊主…。」
「…はい。」
下を向いていた光輝にマルクが気をかけてきた。
「色々と変なことに巻き込んで悪ぃな。店長は普段はいい人なんだけど、こうなってしまうと誰にも止められないんだ。」
「そうなんですか…。」
「一応注意は店員全員で注意はしてるんだが、どうも治らなくてなぁ…。あぁ…、今月は大丈夫かな…。」
「…。」
二人はこれから来るであろうそれぞれの財政難に肩を落とした。
「…よしっ!書き終わった!お疲れ様、もう動いてもいいわよ。」
「…っん。やっと終わったぁ…。」
あれから30分が経ち、スケッチが終わりメルフィアは身体を伸ばしていた。
シェルムは30分で描き上げたとは思えないほどのクオリティのスケッチした絵をそれぞれ満足そうに笑顔で眺めていた。
「…それでさっきの話の件だけど本当なのよね?」
「さっきも言った通り私に二言は無いわ!マルク!店の裏から私が作った最高級の装備品を持ってきて!」
「はい…。」
足取りを重そうにマルクは店の裏へと入っていった。そんなマルクを少し気にかけていた時、光輝はメルフィアと目が偶然にも目が合った。目が合ったメルフィアは悪い笑みを受けべて
「お会計、よ・ろ・し・く・ね。」
と光輝に言った。
「…。」
悪い笑みを浮かべたメルフィアに光輝は下を向いて後頭部を手で抑えて青くなることしかできなかった。
「…さて!これが私が作ったこの店でも最高級な装備品よ!」
マルクが用意した山積みされた装備品を自慢げにシェルムは指した。
「へぇ…。デザインも中々いいものばかりね。」
「ありがとうございます!さて、何か着てみたいものはありますか?」
「んー…。」
山積みになった装備品を眺めながら少しメルフィアは腕を組んで悩んでいた。
(…お。)
悩んでいたその時、山積みされた装備品の中に水色の魔法服がメルフィアの目に入った。
「あの水色のが見てみたいんだけど。」
「おぉ!実はこれ結構私のお気に入りの奴なんですよ!ちょっと待ってくださいね!」
シェルムはメルフィアが指を指した装備品を山積みされた装備品の中から取ると広げて魔法服全体を見せた。
「…予想よりもいいデザインね。ねぇ、他にもこれに似た商品はあるかしら?」
「はい!ちょっと待ってくださいね!」
シェルムは様々な魔法服を山積みされた装備品を取り出してそれぞれひとつひとつ丁寧に説明し始めた。
メルフィアはそれを聞きながら他の魔法服のデザインを確認していた。
そして話が二人はよく合ったのか魔法服を確認しながらいつの間にかガールズトークを交えて話していた。
話が弾み、楽しく二人は魔法服を見ていたがあまりにも服の量が多く中々メルフィアはどのような魔法服を選べばいいのかかなり迷っていた。
「「…。」」
話や装備品を見る時間が思った以上に長く光輝とマルクは二人を待つことに疲れ始めていた。
『どうせショックを受けることは決まったんだから早く選んでくれ』と彼らは心の中で思いながら二人を待ち続けた。
「いいわね…。」
あれから4時間。
メルフィアは女神の正装から白生地のワンピースのような魔法服と低く白いヒールのような靴を身に着けていた。
「おぉ…。」
「メルフィアさん、凄くお似合いですよ!」
「そう?ありがと。」
確かにシェルムの言うように、先程の女神の正装とは違い、魔法服を着たメルフィアはかなり違う魅力が彼女自身でており、光輝も似合っていると思わざるを得ない程であった。
「あ、光輝さん、お待たせしてすいません。」
「いえ、大丈夫です…。」
「えっと、お値段の方ですが合計2点で25万クルフとなります。」
「…!?」
財布の中身を全てを抉りとるような値段に光輝の頭は一瞬無になった。
「あの、冒険者ライセンスは…。」
「申し訳ございませんが、今回は特別に値引きしておりますので冒険者ライセンスによる割引きは無しとなります…。」
「…。」
あまりにも高すぎる値段にしばらく肩を落とした後、光輝は自分の財布から25万クルフをシェルムにゆっくり手渡した。
「23、24、25…っと。お買い上げありがとうございます!」
「坊主…。」
肩を落として下を見ている光輝を励ましたいマルクであったが、自分も悲惨な状況であるため励ましてやろうという気持ちになれなかった。
「ありがとうございました!またのお越しをお待ちしております!」
シェルムに手を振られ、見送られながら二人はシェルムの店を後にした。
「いやぁ…、お買い物楽しかった。あれ?もうこんなに暗くなってる。ねぇ、光輝。この後どこ行くの?」
「…。」
「光輝!」
「…ぁあ。とりあえずもうこんなに暗いから、俺が泊まってる宿屋に寄ろう…。」
「じゃあ、早く案内して。もう疲れちゃった。」
「分かった…。」
メルフィアを案内しながら光輝は軽くなった財布の中身を少し眺めながら、月明かりが照らすコルフルトの街を肩を落としながら歩いていくのであった。




