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第21話 失って新たに始まること

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「…!?」


 メルフィアが突然と作り出した不気味な色の球体に光輝は驚き、無意識に身体が固まってしまった。


(なんだあれ…!?)


 不気味な色の球体に集まると今までに感じたことのないエネルギーに、光輝の恐怖はさらに強くなっていく。


「…っ!!」


 メルフィアは表情を変えることなく不気味な色の球体に膨大なエネルギーを注いで大きくしていく。球体が直径3cm大きさになると


「The world of destruction Listen to my voice!」

(破滅の世界よ我が声を聴け!)


 と突然と詠唱を始めたのだ。


「My name is Goddess Melfia.」

(我が名は女神メルフィア。)


 すると詠唱が始まったとたんに、球体は先ほどよりも早く大きくなっていった。


「Let 's deliver my wish to the world of destruction now.」

(今こそ我が願いを破滅の世界へ届けよう。)


 店内の奥にいた人たちもその大きすぎる力に気が付いたらしく、光輝たちがいる席へと沢山の人たちがざわめきながら集まってきていた。


「There is only one wish to send to the world of destruction」

(破滅の世界に送る我が願いはただ一つ。)


 メルフィアは周りを気にせず、不気味な色の球体を大きくしながら詠唱を続けていく。


「It is to destroy this silly soul that hurt my heart!」

(我が心を傷つけたこの愚かな魂をを消滅させることである!)


 驚いていた光輝は少し心に余裕を持ったものの、メルフィアの詠唱を自分の頭の中で訳した時『消滅』という単語が混じっていることに気が付いた光輝は嫌な出来事が起こるかもしれないと予感してしまった。


「あら、察しがいいことで。」


 詠唱の途中で嫌な出来事が起こると予感した光輝に気が付いたメルフィアは不敵な笑みを浮かべて光輝を見た。


「…!」


「でももう遅い。アンタが全部悪いんだからね。」


 そう言い残した後メルフィアは詠唱に戻っていく。


「Now in the world of destruction Welcome my wish now」

(破滅の世界よ今こそ我が願いを受け入れ)


 大きくなり続けた球体は直径10cmを超えたところで


「Destroy this stupid soul with existence!!」

(この愚かな魂を存在ごと消滅させよ!!)


 メルフィアの詠唱は終わりを迎えた。そして詠唱が終わって一秒後に球体は一瞬にしてメルフィアの手から消えた。


「?」


 何も起こらず光輝は拍子抜けの顔をしていた。少し不安を抱えながら恐る恐るメルフィアを見た。だがメルフィアは




 不気味な笑みを浮かべたままだった。




「…!?」


 光輝が恐怖した瞬間にメルフィアの手から突然と白く眩しい光が放たれた。スタングレネード並みに激しい光に光輝は思わず両腕で目元を覆った。眩しい光は店内を一気に包み込んでいき、その光は長く続いていった。




「…哀れな人間ね。」


 目を瞑ったままメルフィアは一言吐き捨てた。


「さて、イラつく奴は消したことだしさっさとここから離れますか…。」


 視界を戻すためメルフィアは目を開けた。


「…うぅ。」


「!?」


 目を開けた先にいる光輝の姿に何故かメルフィアは驚いていた。


「目が…、チカチカする…。」


「…嘘でしょ。」


 苦痛の表情を浮かべている光輝をただ驚いた顔でメルフィアは光輝を見ていた。


「何だったんだ…、あの光…。」


 混乱する光輝に怒りが出たのか、メルフィアは奥歯を強く噛みしめていた。


「…何で。…何で!!…何で消滅してないのよ!!」


 怒りに怒ったメルフィアは大きな声で光輝を怒鳴った。


「…?」


 何故メルフィアに怒鳴られているのか光輝は分からず困惑していた。


「…だったらもう一度!」


 メルフィアはもう一度エネルギーを手に集中させようとしたが


「…お客様。」


 あまりの騒ぎぶりにしびれを切らしたのか、冷たく怒った顔をして店の店員がやってきてしまった。


「先ほどからとてもうるさいので周りのお客様に迷惑をかけないで下さい…。そして当店での魔法の使用は当店のスタッフを除いて禁止となっております…。これ以上騒ぎを起こすのであれば問答無用で叩きだしますからね…。」


「「…はい。」」


 強いプレッシャーを掛けられ、二人はおとなしく席に着いた。


「…。」


「…。」


 光輝は頼んでいたコーヒーを少し口にしたが、何やら気まずい空気が座っている席に漂っているせいで味に集中できていなかった。


(…あれから怒るなりなりしてくるかと思ったが、何もないなぁ…。)


 気まずい空気に耐えるのが嫌になったので、光輝は一言切り出すことにした。


「なぁ…。」


「…何?」


 不機嫌そうな顔をしてメルフィアは光輝を睨みつけた。だがそれに屈することなく光輝は話を続けることにした。


「お前がさっき使った…魔法みたいなやつは何なんだ?」


 メルフィアは少しの間沈黙を貫いたが


「…ただの虚仮威こけおどしよ…。アンタまさかあれに何らかの意味があると思ったの?」


 と光輝を少し馬鹿にするように嘲笑った。


(…。)


 少しイラっときたが、これ以上の介入はよそうと会話を終わらせよとしたが


『あの魔法に意味などない?ふざけたことを抜かさないで下さい。女神メルフィア。」


 とノルスが珍しく会話に乱入してきたのだ。


(ノルス…?)


『すみません光輝さん。会話の途中ということは分かっています。よければ私の話を聞いてくれませんか?』


(…あぁ、頼む。)


『ありがとうございます。あの女神が先ほど使用した魔法。あれは「消滅魔法」と言って、神が扱う魔法の中で最も禁忌に近い魔法です。』


(禁忌に近い…?そんなに危険な魔法なのか?)


『危険という分類とは同じにしない方がいいかと思われます。この女神があなたに使った「消滅魔法」はあなたの存在・記憶・魂といった全てをすべての世界から消去してしまう魔法ですから。』


「…えっ!?」


 あまりの驚きぶりに光輝は口から拍子抜けな声を出していた。『バッ』とメルフィアに目を向けたが、メルフィアは即座に光輝から目をそらした。だがメルフィアの先ほどの嘲笑った表情は完全に顔から消えており、変に冷や汗をかいていた。


『それだけではありません。「消滅魔法」の対象になった場合、あなたの存在が消えるだけでなくすべての世界からあなたの家族歴・学歴・関わった人間の記憶といったもの全てが消えます。』


(…つまり、俺の存在を無かったことにしようとしたのか!?)


『その通りです。この魔法によって消滅した場合はもう二度と魔法の取り消しはできません。永久に存在が消えてしまうんです。』


「…!」


 せっかく新たな人生を歩み始めたのにとんでもないことをされようとしていたことを理解すると一気に背筋が凍り付き、嫌な汗が額から流れて恐怖に身体を締め付けられたような気がした。そして殺意の混じった怒りの感情が光輝の内側から湧き上がっていた。


「…お前!!」


 とメルフィアを怒鳴ろうとしたが、ここで光輝は何故その魔法を近距離で喰らったのに自分の存在が消えてないのかとふとした疑問が光輝の頭の中をよぎった。


(ノルス…、なんで俺の存在は消滅しなかったんだ?)


『お答えします。…女神メルフィアあなたも聞いてないふりをしてないで私の話を聞いてください。これはあなたにも関係もあることなのです。』


(分かったわよ…。)


『…ではお答えします。光輝さんが消滅しなかった理由は女神メルフィアが神としての力を失ってしまったためです。』


(…!?)


(それはどういう…?)


『女神メルフィアがここに転生された際に全能神である「ゼウス」と呼ばれる神様が女神メルフィアが持つ神としての力を全て封印したため、女神メルフィアが使用した「消滅魔法」は失敗に終わりました。』


(じゃあ今のメルフィアは…。)


『はい。今の女神メルフィアはただの人間ということになります。』


「…嘘よ。」


 ぽつりとメルフィアは言葉を放った。


「…嘘よ。だってあの時魔法は使うことができたのよ。だから失敗したのは私が魔法を9年間使わなかったブランクよ…。だから私はまだ神としての魔法は…!!」


 ワナワナと震えながらメルフィアは自分の身に起きたことを否定した。だが


『光輝さんのようにハッキリ言っておきましょう。女神メルフィア、あなたにはもう神の力は一つも残っていない。あなたはもうただの人間になり下がったのです。』


 とノルスは冷たくバッサリと言い捨てた。


「…。」


 認めたくなかったのにハッキリと冷たく言われたことに強くショックを受けたのか今度こそメルフィアは下を向いてしまった。


『以上です。突然会話に乱入してすみませんでした。』


(…ぁあ。大丈夫だよ。ありがとうな。)


『お役に立てて何よりです。それでは失礼します。』


 こうしてノルスはまた静かになってしまった。


 怒るタイミングも、会話もなくなってしまい、どうすればいいのか分からなくなった光輝はどうすればいいかと考えていた時


「…ぅう。ううぅ…。」


 メルフィアは突然と泣き出してしまったのだ。


「うう…。グスッ…。」


「…。」


 突然と自分が当たり前のように使えた力を使えなくなった状態でいきなり訳の分からない場所で生きていけと言われたメルフィアの気持ちが光輝には分からなくもなかった。


 自分も突然と死んでしまい、受け入れられない中でバッサリと言い捨てられたのが悲しいことだというのを知っていた光輝はメルフィアを放っておくことができなくなってしまった。


「…メルフィア。」


「グスッ…。何よ…。」


「俺はお前の気持ちが分かるよ。俺も自分がいきなり死んだなんて言われても信じることができなかった。当たり前だと思っていたことが突然と消える悲しみが本当に辛いのは俺も分かったんだ。」


「え…?」


「ここに来てからは本当に苦労の連続で慣れないことばかりだった。当たり前だというものが全て消えて戸惑ってばかりたんだ。」


「…。」


「けど俺はここで一生懸命に生きてこられた。いままでなるはずもなかった冒険者になって剣を振ることなってしまった。厳しいこともあったけど、この世界はとても優しいから俺も生きることができた。」


「でも私は…。」


「大丈夫。俺もできる限り助けるから。」


 メルフィアは少し考えて目に溜まっていた涙を拭くと


「分かったわ…。アンタがそこまで言うならその提案に乗ってあげるわ。」


 と答えた。


「よし…。じゃあ行くか。」


 光輝は店の店員に騒ぎのことを謝って会計を済ませて店を出た。


「…ところで、アテなんかあるの?」


「ああ、一応な。」


 簡単な会話を終えると光輝達は目的地へと歩き出した。そして歩くこと10分が経ち


「…。」


 光輝達はギルド前へと来ていた。


「ここは…?」


「ここはギルドと呼ばれる場所だ。俺はここで冒険者になった。冒険者になって一生懸命に生きることができたんだ。」


「へぇ…。アンタが一生懸命に生きるきっかけになった場所か…。いいわよ。もうどうせ帰る場所もないし、この世界でアンタが一生懸命に生きるきっかけになった冒険者に私もやってみるわ…。」


「よし。とりあえず中に入ろうか。」


 こうして二人はギルドの入り口へと向かうのであった。

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