第20話 落ちた者の名
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「…。」
女の子が突然と降ってきてから約二十分近くが経ったものの、女の子は一向に目を覚まさない。
(大丈夫かな…?)
念のためノルスに女の子の容態を聞いたが、女の子の身体には特に異常はないらしい。だが、いつまでもこの場所に居たらまずいのではないかと思い始めていた。
「…ぅう。」
「…!」
女の子は意識を取り戻したらしく、頭をさすりながら起き上がった。
「…イタタ。あのクソウィルトめ…。」
(…え?)
光輝は女の子がウィルトと言ったことに驚いた。なぜ女の子がウィルトの名前を知っているのか気になった。
「…ってどこよここっ!?」
女の子は辺りを必死にキョロキョロして周りを見ていた。そして隣に座っていた光輝に気が付いた。
「うわあっ!?アンタ誰よっ!?」
女の子は光輝の存在に大きく驚いたが、光輝は『こっちが聞きたい』と少し複雑な顔をしていた。
「…君が空から突然と落ちてきて、俺が何とか受け止めたけど、君がそのまま気絶したから、俺がこのベンチに運びました。」
胸を触ってしまったことは内緒にして光輝は女の子に何が起こったのか話した。
「…そりゃどうも。てかここは何処なの?」
「ここは『アン・イリス』という世界。そしてここは『コルフルト』と呼ばれる街です。」
「そうなの…。ん?ちょっと待って。アンタ今『アン・イリス』って言わなかった!?」
「…はい、そうですが。」
「…ここが、『アン・イリス』ーっ!?」
突然と大きな声で女の子は叫んだ。光輝はうるさかったのか少し耳をふさぐような行動をとっていた。
「まさか本当に異世界送りにされるとは…。」
女の子は気落として下を向いていた。何が何だか分からない光輝だが、気になることもあるのでとりあえず女の子から事情を聞くことにした。
「あの…。」
「何よ…?」
「ウィルトさんのことも知ってるってことはあなたもこの世界に転生してきたんですか…?」
「違うわよ…、私は…ってなんであんたウィルトのことを知ってるのよ?」
「俺はウィルトさんにこの異世界に転生させてもらった時に色々お世話になったから…。」
「なるほど…、つまりあんたがゼウス様が言っていた転生者か…。」
女の子は光輝を見てため息をついて残念そうな顔をした。光輝は『さっきから何なんだこの女の子は』と少し思っていた。
「…ところで、さっき転生者じゃないと言ってましたがどういうことなんですか?」
「…私はそもそも人間じゃない。女神なのよ。」
「…え?」
女の子はいきなりベンチから立ち上がり
「私は女神メルフィア。メルフィア・ニファミル。覚えておきなさい。」
自分の右手を胸において、光輝の目の前で自己紹介をした。
「…。」
いきなり目の前の女の子が『自分は女神です』と言われてもどう信用すればいいんだと光輝は思っていた。
「その様子じゃ信じてないわね。…いいわ、あんたが私が女神だと教えなさい、プログラムN.O.L.U.S。」
「…!」
ノルスの存在をが手元あると何故かメルフィアが知っていることに光輝は少し驚いてしまった。
『…女神メルフィアですね。分かりました。本来はあなたの命令には従いませんが、今回は特別です。』
と先ほどまで静かにしていたノルスが渋々とメルフィアの指示に従ったのだ。
「ノルス…、この女の子のことを知ってるのか?」
『はい、彼女は正真正銘の女神『メルフィア・ニファミル』本人です。なぜここに来てしまったのかは私にも分かりません。』
これまでにノルスが光輝に嘘を言ったこともなく、一番信頼している存在なので光輝は一瞬戸惑ったがメルフィアが女神であることを認めざることになった。
「君は本当に女神なのか…。」
「そうよ、信じてもらえたかしら?」
フフンと女の子は誇らしげに笑った。
「それじゃあ…、なんでそんな女神さまがわざわざ異世界である『アン・イリス』まで来たんですか?」
「うっ…。」
メルフィアの誇らしげな顔は一瞬で曇り顔へと変化した。
「…そっ、それは…。…うぅ、わたしはっ!」
ぐぅー
「…。」
「…。」
説明しようとした瞬間にメルフィアのお腹が大きな音を立てて鳴いた。
「くぅ…。」
メルフィアはよっぽど恥ずかしかったのか、顔を少し赤くして黙り込んでしまった。
「あ、あの、何かおごりますから、食べに行きませんか…?」
「…分かったわよ、カフェにでも案内して。話の続きをしてあげるから…。」
赤くなりながらも、メルフィアは光輝の提案に乗ることにした。
「…あ、そうだ。アンタの名前は?」
「俺は月攻匁 光輝って言います。」
「ふぅん…。その名前と髪色と目の色からするとアンタは元日本人ね。まぁ、覚えておくわ。…あ、そうだ光輝。」
「…はい?」
「アンタはさっきから丁寧な口調で話しているのウザいから、ここからはタメ口で喋って。神にタメ口を許してもらえることを光栄に思いなさい。」
「…。」
色々と親切にしているはずなのに、ずっと偉そうな態度をし続けるメルフィアに光輝は少しイライラしてしまった。
ノルスの案内を受けて、光輝たちは近くのカフェに入ると簡単な軽食を頼み、メルフィアが軽食を食べ終わるのを待っていた。
「…ごちそう様。まぁまぁ良かったわ。」
「…じゃあ聞くが、メルフィアはどうしてここに来たんだ?」
「…それは。」
「…。」
とても長い廊下の中で三十メートルを超えるとてつもなく大きく虹色に輝く扉の前でメルフィアは自分の髪を少しいじりながら不安な顔になっていた。
(緊張して眠るのが遅くなって、寝坊して、髪整えるのに時間かかったから朝ごはん食べてない…。)
空腹を少し気にしていると、
「…おや、約束通り来てくれたみたいですね。」
とウィルトが優しく微笑みながらメルフィアの前に現れた。
「…おはようございます、ウィルト様。」
メルフィアは少し嫌そうな顔をしながらも、頭をウィルトに下げた。
「さて、メルフィア、今回はどうしてここに呼ばれたのか分かりますか?」
「…もうここに何度も来てますけど、よく分からないです。」
「そうですか。ではゼウス様もお待ちですし、行きましょうか。」
静寂な廊下に足音を少し響かせて、ウィルトは大きな扉を自らの両手で力強く開けた。扉を開く大きな音が治まると目の前に輝かしい白い空間が広がる。目の少し先には古代ローマの服装のように大きな布を自分の身体に身に着けて、とてつもなく大きな玉座に座る薄い金髪の髪と髭を少し生やした40代の男性が座っていた。
「よく来た。すまないがこちらまで来て欲しい。」
座っていた男性の指示に従い、メルフィアとウィルトは男性の座る玉座まで歩いた。
「ウィルト、君は下がってくれ。」
『はい』と軽く礼をして、ウィルトは少し後ろへと下がった。
「メルフィア、すまないがもう少し近くに来なさい。」
玉座に座る男性の指示に従い、メルフィアは更に近くまで来た。
「さて、私もいつまでも座ったままでは失礼だな…。」
そういって男性は玉座から立ち上がった。メルフィアは何が起こるか不安になりながら息をのんでいた。
「メルフィアよ、昔君には迷惑を掛けた…。本当に申し訳ない。」
男性は突然とメルフィアに深々と頭を下げて謝罪した。
「ゼウス様…、もう私は大丈夫ですから…。もうお気になさらないで下さい…。」
少し悲しそうな顔で、メルフィアはゼウスをフォローした。
「そうか…、今日君に来てもらったのは私から君に贈り物があるんだ。」
「…贈り物ですか?」
にっこりと笑ったゼウスに対して、メルフィアは少し不安な顔をした。
「そう。君の為にできる私からの最後の贈り物だ。受け取ってくれるかい?」
「ゼウス様の贈り物であれば、何でもありがたく受け取ります…。」
「それは良かった。ではこれが私からの最後の贈り物だ…。ウィルト!!」
ゼウスの指示を聞き、ウィルトは両手を前に出し
「Listen to our voice, in the space between time and space!」(時空の狭間よ我が声を聴け!)
光輝にも使った詠唱をこの場でウィルトは使い始めたのだ。
「…!?」
突然と虹色に輝く大きな魔法陣に囲まれ、メルフィアは困惑した。
「ゼウス様、これはっ!?」
「これが私からの贈り物、異世界『アン・イリス』への半永久旅行転生魔法陣だ。」
にっこりと笑うゼウスに対し、メルフィアは不安の戸惑いを隠せないでいた。
「正直私もこんなこともしたくはないのだが、これは君の今後のためだ。私はこれまで9年間君の不祥事を見過ごしてきたが、今回の不祥事は私が弁解したものの、どうも他の神々が許してくれなくてね…。」
「それはどういう!?」
「おや?身に覚えがないかい?数日前に君はここに来たばかりの魂を生と死の狭間へ案内する際に、ここに来た魂に無粋な行いをしたことはすでにこちらには筒抜けなのは知っているだろ?」
「…それは、でも急にこんなこと…!」
「その辺りは大丈夫だ。『アン・イリス』には君と面識のある転生者が既にいる。その転生者になら君の話は通じるから、安心したまえ。」
「でも…!でも…!!」
「もうこれはどうにもできないのだ…。許してくれ…。それでは、君の異世界転生が良きものになることを…。」
「From the time and space narrow, now it opens the door to another world,Reborn this
goddess into a new world!」(時空の狭間よ、今こそ別世界への扉を開き、この女神を新たなる世界へ転生させよ!)
ウィルトの詠唱が終わると、魔法陣は激しく虹色に光った。
「きゃあああああああああああああああっ!!」
メルフィアは虹色の光に包まれていく、そして虹色の輝きは治まった。
「…あれ?」
だが、メルフィアはまだこの場所に残っていた。
「…驚かさないで下さい。本当に転生したかと思ったじゃないですか…。」
ホッとしてメルフィアは胸をなでおろしていた。
「いつもゼウス様は私をからかって…。だいたい今回も…。」
といった瞬間に魔法陣に穴が空きメルフィアは『ヒュン』と小さな音を立てて落ちていった。
「…え?」
冷たい風が身体に当たり、何かがおかしいと気が付いたメルフィアは恐る恐る下を見た。
「…!」
下に広がっていたのは青い海と緑の大地、そしてそれらのことを踏まえて自分が真っ逆さまに落ちていることに気が付いた。
「…イヤァァァァァァァァァアぁ嗚呼あ亞亜あああァァアああ阿唖あああああァァァァァァアアアアアアアッ!!」
「…と言う訳よ。」
「…。」
話を聞いて光輝は頭がごちゃごちゃになり、一度整理するために顔を下に向けていた。
そして、一つの結論を光輝は出した。
「…あのさ、それって完全にメルフィアの自業自得じゃないのか?」
「…。」
顔を少し赤くして、ゆっくりとメルフィアは横を向いた。
「…私は、…悪くなんて…ない。」
赤い顔のまま無駄なシラをこれでもかと切っていた。
「いやいや、九年近くも不祥事をやったんでしょ?」
「違う…。」
無駄なシラを切り続けて、一向に自分のせいであることを認めようとしないメルフィアに少しイラついた光輝は
「もう一回言わせてもらう。完全にお前の自業自得だ。」
と強めのトーンで言った。
メルフィアは横を向いていたが、歯を奥で喰いしばると
「…だー!!うるさいうるさい!!悪かったわねっ!自業自得で!!」
と机を強く叩いて逆ギレを始めたのだ。
「九年間の不祥事は認めるわよ!!あれは私が悪かったわよ!!けどね!ここに来た原因はあの魂にも原因があるのよ!!」
どうしようもないメルフィアの言い訳と逆ギレに光輝は呆れ始めていた。だが話だけは聞いてやろうという姿勢を保つことにした。
「…じゃあ、異世界送りの原因となった『あの魂』とは何なんだ?」
「一週間ぐらい前、一人の死んだ日本人の魂が天界に来たのよ。」
「…へぇ。」
「魂をアンタも来た『生と死の狭間』まで私は案内する仕事をしてたんだけど…。」
「それで?」
「その日本人死んで魂の存在になったくせに、一向に目を覚まさなかったのよ!!」
「…で?」
「『…で?』じゃないわよ!!しばらく目を覚まさない魂がいることは稀にあるけど、あの魂なんか私が声かけるなどと色々したけど30分近く目を覚まさなかったのよ!?離れることもできなくてあまりにもムカついたから引きずって、椅子に向かって投げただけよ!!」
「おいおいおい!いくらムカついたからってそこまですることないだろ!!だいたい大切な魂を引きずって投げたって…ん?」
あまりにも身勝手な理由で思わず光輝はメルフィアに反論したが、突然と光輝の頭におぼろげな記憶がよぎった。色々と思い当たる節が何故かここに来て出てきたのだ。
「なぁ…、改めて聞くけどお前が引きずった魂っていうのは日本人だよな?」
「いきなり何よ?そうだって言ったじゃない。」
不思議そうに光輝を見るメルフィアを放っておいて、光輝は死んだ直後のあの時記憶をむさぼり起こした。
(一週間前…、日本人…、天界に来たばかりの魂…、メルフィアに引きずられた魂…、そして投げられた魂…。)
色々と自分の記憶にこれらの『ワード』が一致していく。だが確証を得らるものが自分の中に無い。もう一度メルフィアから話を聞こうとしてメルフィアの顔が光輝の目に映った瞬間に
「…!」
光輝の記憶が完全に蘇り、メルフィアの話と自身の死後直後の記憶が完全に一致した。
「…。」
そして光輝の感情は一気にメルフィアへの怒りへと変わった。
「おい…。」
「…何よ?」
「お前が引きずって投げたって魂は…。」
「…?」
「俺じゃないかーっ!!」
あまりに怒った光輝はその場で立ち上がると、かなりの大きさの声でメルフィアを怒鳴りつけた。
「…って!アンタだったの!?嘘でしょ!?」
メルフィアは光輝に人差し指を光輝に指しながら、驚きの表情をしていた。
「嘘じゃねぇよ!俺のシャツの首の襟を掴んで、気味の悪い目玉や時計とかが沢山ある廊下を引きずって、挙句の果てには俺を高さ10m近く投げて近くにあった椅子に落としただろうがっ!!」
あまりの怒りに光輝は周りを気にせず、メルフィアに怒りをぶつける。
「…うるさいうるさいうるさい!!元はと言えばアンタが30分近くも起きないのが悪いのよ!!」
「じゃあ言わせてもらおうか!死んでいるかも分からない人間にいきなり気味の悪いもの見せて、いきなり人を高さ10mも投げたお前は誰がどう見てもお前が悪いと答えるぞ!!」
「でも…!」
「でもじゃない!お前がこれまでに働いた不祥事や、俺に対する行いを見れば異世界送りなんて生ぬるいもんだろうが!少しはお前にも比があるだろうとフォローしてやろうかと思ったが、完全にこれはお前が悪いだろうが!!」
「…ぅ。」
「改めて言ってやる。これはお前の完全なる自業自得だっ!!それだけだ!!」
光輝は胸に溜まった怒りをメルフィアにこれでもかとぶちまけた。メルフィアはもう何も言い返せなくなり下を向いて黙り込んだかのように思われたが
「…もういいわ。」
と言うと下を向いたまま少し不気味にゆらりと立ち上がった。
「…?」
「…女神であるこの私をここまで侮辱したのだから、それなりの覚悟があるのよねぇ…?」
顔を上げたメルフィアの顔には殺意と怒りだけの表情をしていた。
「…!」
光輝に先ほど少しあった怒りの感情は消え、恐怖が一瞬にして身体中を包み込んだ。
「…ふっ!!」
両手に力を入れてメルフィアは黒・紫・紺といった色が混ざり合った不気味な球体を手と手の間に作りだしていた。
「…!?」
少しづつ大きくなっていく不気味な色の球体に光輝は動けなくなってしまうのであった。




