第18話 鍛冶師との約束
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「…。」
あまりにも膨大すぎる量の魔法服が並べられており、光輝はどれを選べばいいか分からず、言葉を失っていた。
「…?どした?」
「いや…。多すぎてどれを見ればいいのか…。」
「あぁ…。まぁ、この量じゃあねぇ…。悪いな、いきなり選べなんて言われても無理があるよな…。…とりあえずここには男性用・女性用・男女兼用といったものがあるが、お前は男女兼用の魔法服は買いたいと思うか?」
「…男女兼用は無しでお願いします。」
「よし分かった。とりあえず今回はサービスで俺がオススメのやつを選んでやるから、ここから少し離れた更衣室の前で待ってろ。おーいネノちゃん、ちょっと手伝ってくれ。」
「仕方ないですね…。光輝さん、ちょっと待ってくださいね。」
二人は協力して光輝の服を選んでいた。光輝は更衣室の前で待っていたが、申し訳ない気持ちで一杯になっていた。少しすると
「待たせたな。」
とマルクとネノがカゴや荷台に大量の魔法服を持って戻ってきた。しかし魔法服だけではなく、靴や手袋もあった。
「えっと…、何故靴と手袋が…?」
「靴は冒険する際に、滑ることや足元にくるダメージを軽減させるためにあります。手袋は手に持った剣が、手から飛ばされないようにするためのものですよ。」
「なるほど…。」
「とりあえず、試着室は靴の持ち込みができないから、最初に靴を選ぶことをオススメするぜ。」
マルクの言葉を素直に受け、光輝は靴を選び始めた。しかし靴はどれもブーツのようなものばかりで、戦闘では逆に不利になるのではと思っていたが、試しに一足履いてみると、日本のブーツとは違いとても履きやすく、柔軟な素材で作られているので足首を少し無理に捩じっても足に全く負担がかからなかった。
光輝は用意された靴をそれぞれ真剣に履き比べた後、用意してくれた服を自分の気に入るものから取り、更衣室で試着を始めた。こうしてマルクに手伝ってもらいながらも最終的に決めたのは、ベースは白色で蛍光色の黄色で特殊な模様が付けられたジャケット・黒に近い紺色でジーンズのように肌に張り付くように作られたズボン・手の甲は白くありながら手のひらは滑り止めのために黒の布の素材が使われた手袋・革の黒いベルトが使われた赤の模様が入ったブーツを選んだ。
「…お前、魔法服選ぶの本当に初めてか?見た目といい、相性といい…、最高の組み合わせになったぞ…。」
「本当ですよ…。光輝さん本当に似合ってますよ。モデルみたいです…。」
色々誉め言葉をもらった光輝だったが、気にすることなく魔法服をレジに持って行った。
「…合計四点で225,000クルフだ。坊主、冒険者ライセンスは持ってるか?」
光輝は冒険者ライセンスをマルクに渡した。マルクは冒険者ライセンスを確認すると目を丸くした。
「レベル15!?お前今まで何の装備をしてたんだ!?」
「レザー式のものを…。」
「…よくここまで生きてこれたなお前。とりあえずレベル10以上だから一割引きさせてもらって200,000クルフだ。」
光輝は買ったばかりの財布から200,000クルフを取り出して、袋詰めされた魔法服を受けとった。
「また何かあったら、店長かこの俺“マルク・ミューフェルクス”にいつでも相談してくれ。」
こうして光輝とネノはマルクに見送られながら店を後にした。
「ごめんネノ…。時間取らせてしまって…。」
「構いませんよ。結構楽しかったですから。…ところで光輝さんの冒険者レベルって確か15でしたよね?」
「ああ、そうだけど。」
「そこまでレベルが上がったなら、なんで今まで新しい剣とかを買いたいとか思わなかったんですか?」
ネノの突然の鋭い質問に、光輝は心底焦った。
(…いきなりレベルが1から15になったなんて言っても信用してもらえないし、また変に質問されるだけだ…!!)
「…どこに剣や装備が売っているのか知らなかったし、正直新しい剣や装備が欲しいとか無かったから、今回装備がボロボロになったから仕方なく買いに来ただけなんだ…。」
と苦し紛れの言い訳をネノに話した。
「へぇ…。」
(流石に無理があったか…!?)
恐る恐るネノを見たが
「珍しいですね、剣や装備に興味がないなんて。まぁ、実際にそういう冒険者はいますからね。光輝さんも剣や装備に興味が無い分類の人なんですね。」
とあっさりと光輝の言葉を信用した
「そ、そう。その通りだよ。ハハッ…。」
あっさりとネノが自分の言葉を信用してくれて良かったと、光輝は心の中でホッとした。
「…ところで昼ご飯はどうするんだ?」
「ウィルマートで買いましょうか。」
「ウィルマート…?」
「食品から日用品と色々と揃っているお店です。お店としては小さいですが24時間空いてますから本当に助かっているんですよ。」
「へぇ…。」
日本で何かに似たようなお店を連想したが、ここは異世界だから絶対にそれはないと光輝は自問自答を繰り返した。
「さて、ここがウィルマートです。」
自問自答していた光輝は、店に着いたとネノに言われてゆっくりと顔を上げた。
「…。」
光輝が連想していた店は見事に当たっていた。なぜなら木造ではあるもの見た目が、完全に日本でよく見たコンビニにしか見えないからであった。
「?光輝さん、どうかしました?」
「いや、何でもない…。」
コンビニにしか見えないウィルマートに、光輝は一瞬真顔になってしまったが気を取り直してウィルマートに入店した。
「それじゃあ私は色々見ていくので、光輝さんも色々見て行ってください。」
ここから光輝とネノは別行動していった。
「…。」
店の内装をとりあえず見てやろうと、光輝は店内を見てわたるも、店の内装が木製であることとポーションといった日本で見られない商品を除けば日本のコンビニとほとんど変わらない作りになっていた。
(…しかし驚いた。数は少ないがこの世界にもペットボトルがあるのか…。冷蔵庫に冷凍庫…。トレトアイル文字ではあるものの漫画のような雑誌まで…。マジックタブレットといいこの異世界には仕組みは違うが地球で作られたものに似ているものが多いな…。)
店内を軽く見ながら光輝はサンドイッチとペットボトル入りの水を手に取ると、レジに向かい会計を済ませた。
(さて…。)
ウィルマートを出るとすでに買い物を済ませたネノが入り口前で待っていた。
「ごめん、また待たせて…。」
「いいですよ。さあ帰りましょうか。」
ネノと光輝はウィルマートを後にして、ゼノのいる小屋へと帰った。昼食の際にネノにリビングのテーブルを貸してもらい、食事を済ませるとゼノのいる鍜治場へと向かった。
「…!!」
ゼノは先ほど変わらない表情で武器を打っていた。インゴットは形を変えて剣に着々と近づいていた。光輝はまたしてもゼノの武器を打つ姿を吸い込まれるかのように見るのであった。
「…よし。」
武器を打ち始めてから全く声を上げなかったゼノがここで突然と声を上げた。
気が付けば窓から差し込んでいた光はオレンジに代わり、空は赤く染まっていた。
「光輝、待たせたな。これがお前の剣『ライツェ・シルティーク』だ。」
ゼノから差し出された新たな剣を光輝は受けとった。
「…!!」
光輝は剣を受け取った瞬間から、この剣が普通の剣とは比べ物にならないことを理解した。美しい刀身・手にとても馴染む持ち手・顔がハッキリと映るほどの光沢、まさに完璧な剣と言っても過言ではないと思わされた。
「いい顔して驚いてるな。久しぶりにここまでの剣を作ったが、うまくいって良かった。」
ゼノはとても満足そうにしていた。ネノもゼノの隣で見ていたがかなりご機嫌な様子だった。
「いいんですか…?こんな凄い剣を…。」
「もちろん。じゃなきゃ作った意味が無いからな。光輝試しにその剣振ってみろ。」
光輝は言われるがままに剣を振った。しかし前に持っていた剣とは明らかに違いがあるとすぐに気が付いた。
(少し軽い…!!それに振りやすくなっている…!!)
「その様子だと気が付いたみたいだな。お前が少し重そうに剣を持っていたから、丈夫ではあるが少し軽い金属を使った。軽すぎると剣の一撃が軽いものになってしまうから、金属選びは慎重にしておいた。剣のバランスはしっかり整えておいたから振りやすくなっているはずだ。」
「でも、俺剣が重いなんて一言も…。」
「そんなもん、お前の剣裁きを見ていれば分かる。これでも元々は王が認めた鍛冶師だからな。これくらいはできなと、な?」
「…!!」
『凄い』それが頭に最初に出た言葉だった。そして
「…ゼノさん。ありがとうございます!!」
と気がつけば感謝の言葉が光輝の口から出ていた、頭をいつの間にか深くゼノに向けて下げていた。とても嬉しかった。感謝の気持ちを出さずにはいられなかった。
「光輝、その剣を渡す前に約束してほしいことがある。」
「…?」
「どうか俺がここにいることとこの剣のことはどうか内緒にして欲しい。もし剣の切れ味が悪くなったならここで必ず整備を受けること。そして最後はネノを呼び捨てにしたように俺も呼び捨てでいい。」
「え…?」
「俺も堅苦しいのが苦手だからな。さて、どうする?」
一瞬ゼノが呼び捨てでいいと困惑したが、光輝の答えは決まっていた。
「…分かった。今日のことは誰にも言わない。ありがとうゼノ。また来てもいいか?」
「…おう!!」
ゼノは満面の笑みを光輝に見せた。こうして光輝は前に持っていた剣はゼノが置いて行ってもいいと言ったので前の剣を譲ると、剣の手入れの仕方を簡単に二人から教えてもらい、裏の道から出て元の鍛冶市街に戻った。すると光輝は突然と走りたい気持ちが膨らんだ。
「…!」
光輝は今日あった出来事を思い出しながら走った。最初は不幸な日だと思ったが、楽しいことが沢山あった。それが胸いっぱいになったと感じるのはとても久しぶりだった。だから走らずにはいられなかった。光輝は明日の冒険を少し楽しみに思いながら宿へと戻っていくのであった。
「師匠…。」
「?どうした?」
「光輝さんが持っていた最初の剣…。」
「ああ、あの形が微妙に悪い剣のことか…?」
「…あの剣、よくよく見たら私が二年前に作った剣じゃないですかー!!」
「…エ?マジで?」
ゼノは剣を取るともう一度しっかりと剣を見た。
「…あ、ホントだ。」
剣を見終わったゼノは、ゆっくりとネノの方を見た。
「うぅーっ!!」
ネノは目元に涙を溜めて、歯を食いしばり、両手を強く握りしめ、顔を赤く染めてゼノを睨みつけていた。
「いや…。あのー…。」
ネノの怒る顔を見てゼノの顔は青くなっていく。
「師匠があんなに光輝さんの前でボロクソ言うのですからどんなに酷い剣なのか気になって剣を見てみたら私の剣って…!!二年前は『いい出来だ』って言ってくれたじゃないですかー!!」
「あ、あの時はまだお前が弟子入りしたばかりで褒めてお前の力を伸ばそうと思って言ったんだ!光輝の前でボロクソ言ったのはお前の剣であることを思い出せなかっただけで消して悪気はないんだ!!」
「昔から言ってますよね!?ダメな所があればちゃんとご指導してくださいと!!」
怒ったネノをゼノは宥めようとするも、ネノはよほど怒っているのかゼノの話を全く聞こうとしない。
「流石に鍛冶始めたばかりのお前にボロクソ言って、お前の鍛冶師の道を壊したくなかっただけなんだ!本当にそれだけなんだ!!」
「昔馬鹿みたいにあの剣に自信持ってたのに…!!師匠が初めて褒めてくれたのに…!!ああもう!今思い出しただけでもすごく恥ずかしい!!…うぅ…!!」
怒りに怒ったネノはじりじりとゼノへと近づいていく。
「本当に悪かったから!これからはちゃんとおかしな所があれば厳しく言うから!!頼む!許してくれ!!」
ゼノは後退りしたが、部屋の壁に当たってしまい完全に逃げ場を失ってしまった。ネノは近づきながらも既に腕を慣らしている。
「いいえ!許しません!!いつもいつも私に甘い師匠には今日こそは分かってもらいます!!覚悟してください!!」
「ヒィィィィィィィィッ!!ごめんなさいっ!これからは打った武器の評価は甘くしないから!!頼むからネノ!!許してくれーっ!!」
こうして異世界での日々は楽しくも苦しくもありながら、時間は止まらずにみんな平等に過ぎていく。
明日どんなことが起こるのかは誰にもわからない。
だが明日何が起こるか分からないからこそ、生きていて面白いのであろう。
こうした中で異世界『アン・イリス』の夜は過ぎていくのであった。




