第17話 装備を探す
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
防具を買いに行くことになった光輝は、ネノに案内されながら光輝が入ってきた入り口とは違う戸から小屋を出て、少し狭い路地裏を抜けて街へと出ていた。
「狭いところを歩かせてごめんなさい。師匠のことバレる訳にはいかないから、本来はあそこから出入りしてるんです。」
「いや大丈夫ですよ。…ところでこれから行くおすすめのお店とは…?」
「師匠の知り合いがやってるお店なんですよ。中々いい防具がそろってますので、光輝さんの満足していただけるような防具が絶対にあると思いますよ。」
「なるほど…。」
「ところで光輝さん私のことは“ネノ”でいいですよ。タメ口で話してい頂いても構いませんよ。」
「え…?」
会ってまだ数時間しかあってない女の子に『タメ口でいいよ』と言われてもどうすればいいのかは、人とあまり話してこなかった光輝にはどう判断すればいいのか分からなかった。
「いや…、でもまだネノさんと会って間もないですし…。」
「ほら“ネノさん”になってますよ光輝さん!!」
「ぅ…。」
これ以上ネノに丁寧に話してもダメだと判断した光輝は、諦めて軽いタメ口で話すことにした。
「分かったよ…、ネノ…。」
「それでいいですよ光輝さん♪」
ネノはクスっと笑ったが、光輝は少し苦い顔のままをため息を吐いた。
こうしてネノについて行き、しばらくするとネノは足を止めた。
「さて…、ここが私のオススメのお店『ソフィーク・シェルフィーゼ』ですよ。」
着いた店は先ほどの魔法商店とは外装は似た作りになっていたが、窓は大きく張られており、扉は解放され、売られている品物一部が店の近くで展示されていた。
「さぁ、入りますよ。」
光輝は多少不安になりながらも、ネノと共に入店した。店は沢山の防具とおしゃれな服が綺麗に展示されていた。日本で見た様々な服とは違い、カラフルな服が多めに展示されていた。
「あ、マルクさんじゃないですか。」
ネノの声の先には、タバコを吸いながら、レジのテーブルで顔の頬を左手で支えてだらしなくレジ番をしている男性がいた。
「お、ネノちゃんじゃねーか。久しぶりだな、どうしたんだ。」
「大した用じゃないんですけど、店長さんって今日は居られますか?」
「あー、悪いねぇ。店長のシェルムなら数日前に仕事の都合で少し遠出しててなぁ…。帰ってくるまでもう少しかかるぜ。」
「弱りましたね…。相談に乗って欲しいことがあったのですが…。」
「珍しいね。ネノちゃんが相談って。まぁ、俺が聞ける相談なら聞いてやろうじゃねぇか…っておや?」
マルクはネノの後ろにいた光輝に気が付いた。
「…ははーん。」
マルクは少しニヤついた顔をすると
「…ネノちゃん、もしかしてあそこにいるカレシに服買ってあげたいけどどうすればいいのか分からないからシェルムに相談したいんだろ。」
とネノをからかうかのように聞いた。
「…。」
「まぁ、それなら俺が相談に乗ってやってもいいけど。おすすめの商品の場所へカレシにばれないようにこっそり連れて行ってやろうか?」
「マルクさん…。」
「お、何だ?他に何かあるのか?」
「私は後ろにいる光輝さんとは知り合ったばかりです。…それに私の事、主に異性のことでからかうなとあれほど言いましたよね…?」
先ほどから光輝に見せていた笑顔は完全に消えて、ネノは死んだ目をしたまま、殺気をビンビンに出しながらマルクを睨みつけていた。
「…あ、あの…。」
「もう何回も言いましたよね…?男性が私の近くにいればいつもそればかり…。いい加減本気で潰さないと分からないですかねぇ…?」
手首を慣らしながら、殺気を放ったままネノはマルクに近づいていく。
「ヒィィィィィ!!分かった!!もう二度と言わないから!!だから勘弁してください!!この通りです!!」
マルクは顔の前で合掌をしてネノに許しを乞いていた。
「…今回は光輝さんが近くにいるので許してあげます。ですが…、今度からかったりしたらどうなるか分かってますよね…?」
「分かってます!!もうあの魔法の餌食になるのはごめんだから!!誓いますから!!」
マルクが懸命に謝る中、様子を見ていた光輝はネノの怒る姿に少し怖気づいてしまうのであった。
「…じゃあ改めて聞くが、ネノちゃんはなんでうちの店に来たんだ?」
「それはですね。あそこにいる光輝さんが冒険者をやってまして、新たな防具を揃えたいということでしたので、このお店ならいい防具がそろってますし、店長であるシェルムさんにオススメのものを紹介してもらえればと思ったのですが…。」
「なるほどねぇ…。それでシェルムを探してたって訳か…。でもなんでわざわざネノちゃんと一緒にアイツが来る経緯ができたんだ?」
「ハッキリした理由は言えないのですが、剣を買いに来ていた光輝さんを師匠がお客様として迎え入れたので、剣が完成するまで少し時間があったので光輝さんが防具も買う予定だったと聞いたので、私が一緒にここに行かないかと提案したんです。」
「なるほど…、ってゼノが客を迎え入れたぁ!?」
ゼノのことがよほど衝撃的だったのか、目を見開き、レジのテーブルを叩いてマルクは立ち上がった。
「しっ!!大きな声で師匠の名前を出さないで下さい!!」
ネノは人差し指を自分の口の前に持っていきマルクに注意を促した。マルクはネノに注意されると椅子に座りなおした。
「すまねぇな…。正直驚きすぎて声が出ちまった…。」
「全く…。気を付けてください。」
「話は戻るが相談に関してなら、シェルムは居ないが俺なら相談に乗ってやれないことはないけど。」
「え…?…イマイチ信用なりませんが本当ですか?」
マルクに信用がないのか、ネノは少し疑惑の目でマルクを見た。
「これだけは本当だ。仮にもここで三年間、店長であるシェルムには防具や服の知識を嫌というほど叩き込まれている。相談なら任してくれ。」
ネノにはまだマルクを信用していなかったが
「…じゃあ今回は相談させて頂きます。」
とマルクに答えた。
「あぁ、なるべくベストは尽くしてやるよ。…一応聞くが防具を装備するのはネノちゃんと一緒に来た、後ろにいる黒髪の奴でいいんだよな?」
「最初からそう言ってるじゃないですか…。」
「一応だ、一応!!さて…。おーいそこの坊主!!ちょっとここまで来い!!」
「え…?」
マルクの声に反応した光輝は『自分ですか?』とキョトンとした顔で人差し指で自分を指した。
「そーだよ、黒髪の坊主。話はネノから聞いたからここまで来い。聞きたいことがあるんだ。」
「はぁ…。」
いきなり『坊主』と呼ばれて訳が分からないまま、光輝はマルクのいるレジへ足を向かわせた。
「いきなり聞くがお前の冒険職は何か教えてもらえるか?」
「えっと剣士です…。」
「なるほど剣士ねぇ…。」
マルクは話を聞くと、チラッと光輝の姿を目で確認した。
(…見たところ、筋肉はしっかり付いているな…。ガタイは申し分ないし、これなら鎧を付けてもそこまで身体に害ある影響はないだろう。…しかしコイツの着ている服はこれまでに見たことのない凄いデザインをしてるな…。ゼノが客を迎え入れたといいコイツは一体何者なんだ…?)
「あの、マルクさん。いつまで光輝さんを見てるんですか?」
「へっ?…あ。」
気が付けば無意識のうちにマルクは光輝をじっと見つめており、見つめられていた光輝は少し嫌そうな顔でマルクの視線に耐えていた。
「わ、悪ぃ。…とりあえず鎧の売り場に案内するからついてきてくれ。」
一体何がしたかったんだと思いながらも、光輝とネノはマルクの後についていき、しばらくして鎧売り場に到着した。
「…ここが鎧売り場だ。ちなみにうちのお店の鎧は他から仕入れているから鎧に対する文句はここで言っても無駄ということを理解してくれ。まぁ、とりあえず剣士におすすめの鎧や防具がここにはある。とりあえず装備してみてくれ。」
とりあえず光輝はマルクに言われるがままに、自分に合いそうな鎧を手にしたが、どう装備すればいいのか分からないので
「あの…。これってどうやって装備すればいいんですか?」
と聞いたが、聞かれたマルクと一緒に来ていたネノは漫画のギャグキャラのように『ズコッ』と転んだ。
「えぇー…。そこからか…。まぁ知らない奴もいることはあるし…。…よし、教えてやるからしっかり聞けよ。」
一瞬はめんどくさそうな顔をしたマルクだったが、丁寧に鎧の付け方を光輝にレクチャーした。マルクの教え方がすごく丁寧だったので光輝は付け方を即座に理解して鎧を装備した。
「…。」
しかし付けてみたはいいが、剣道着より圧倒的に重く、少し歩いてみたがかなり動きを邪魔され、ガシャガシャと鳴る音もあってか、光輝はあまり鎧を好む様子はなかった。
「あの…。これよりも軽い鎧ってありますか…?」
「…これよりもか。うーん…、一応あるが、素材が中々手に入りにくいレアなやつで作られているからなぁ…。値段も結構付くことになる。そして安いやつで軽いやつにしたとしても、防御力が下がることになってしまうからすぐにボロボロになって余計に金が必要になるし、何より冒険での命が危ない。モンスターの攻撃を絶対に避けられると自信を持って言えるなら、バックパックとかをオススメするが、小僧はそこの所どうなんだ?」
「自信ないです…。」
「そうか…。さて、どうしたもんかねぇ…。」
マルクは少し顔を下に向けて頭をかいて悩んでいた。光輝もどうしたらいいのか分からないでいた。そんな中で
「…じゃあ、魔法服にすればいいんじゃないんですか?」
とネノが提案してきた。
「あ…。」
マルクはネノの提案に『すっかり忘れてた』と少しマヌケな顔になっていた。
「あー…。最近鎧のことで相談してくる奴ばかり相手していたから魔法服の存在が飛んでたわ…。」
「マルクさん、あなた仮にも自分で服のブランドを立ち上げて独立したいとか言っておいて魔法服の存在を忘れるって…。」
「いや、シェルムが仕事で出かけてから何故か鎧の事ばかり相談してくる客が多かったんだって!わざとじゃないから!!」
ネノの言葉に対してマルクは『誤解だ』と弁解していた。光輝には何が起こったのか状況を読み取ることがあまりできなかった。
「…とりあえず坊主、お前魔法服って知っているか?」
「…いえ、全く知らないです。」
光輝は真面目に答えたが、二人はまた『ズコッ』と転んでしまった。
「予想はなんとなくしていたが、まさか本当に知らないとはな…。…説明するよりも見せた方がいいかもな…。」
そういうとマルクは銜えていたタバコを右手手の人差し指と中指の間に移すと、口に溜まっていたタバコの煙を吐くと、
「いいか坊主…。魔法服ってのはなぁ…!」
と言って、持っていたタバコを自分の心臓がある左の胸元へと思いっきり押し付けた。
「…!?」
突然とタバコの火を自分の胸元に押し付けるというマルクの行動に光輝は絶句してしまった。タバコの火の温度主に800℃もあり、そんな温度のものを胸に押し付けるというのはナイフを自分の胸に刺すこととほぼ同じになるため、限りなく自殺に等しい行動になる。
「…。」
何故このようなことになってしまったのか。光輝の脳は展開についていけず、ただワナワナと下を向いて震えていた。
「…あらら、ここまで驚くか…。」
マルクの声がして、光輝はハッと顔を上げた。すると、マルクは『やっちまった』という顔をしていたものの、特に痛みや熱さを感じている様子ではなかった。
「…!?」
なんで高温のタバコの火を押し付けたはずなのに、平気な顔をしているマルクの姿が光輝の目に映る。自殺に近い行動をしたはずの人間がケロッとしているというこの展開に増々光輝の頭はついていくことができなかった。
「安心しろ、俺は火傷なんかしてねぇから。それに見てみろ。」
押し付けていたタバコを離して、押し付けた部分をパパっとマルクは掃った。
「…!!」
掃った服の部分を見てみると、タバコによって服が焼けて穴が空いた形跡は一切なく、焦げによって服が黒くなった形跡もなかった。
「…隠していたが俺が着ている服は店長が作った魔法服だ。ちなみに魔法服っていうのは、タバコの火を押し付けるようなことをしたとしても繊維にダメージすら与えることができないように、特殊な魔力を用いて頑丈に作られている。
物理に対するダメージは更に強く無効化することができる。この服を着ていれば、モンスターの串刺し攻撃・切り裂き攻撃といった攻撃を受けたとしても、鎧と同様に自分の身体に危害を加えられないようにすることができるようになる。
ただ弱点もあって、魔法を無効化するような攻撃を受ければ簡単に魔法服は使い物にならなくなるし、物理攻撃による衝撃をあまり減らすことはできない。だがメリットは鎧や普通の服よりも断然に軽い。そして鎧の『重い』や『装備するのが大変』といっためんどくさいことも考える必要が無くなるということだ。」
「…!!」
マルクの説明を受けて、ここまでマルクが起こした行動に意味があるということを光輝はようやく理解することができた。少し光輝が落ち着いたところで、マルクは煙草を口に戻すと
「…坊主、この店の魔法服は全て店長が自らプロデュースして作っている。安い魔法服だろうが高い魔道服だろうとも全て一級品だ。どんな魔道服だろうと品質は俺が保証してやる。どうだ?ちょっとは興味が湧いたか?」
と言って、ニヤリと笑った。
「…。」
自分の素早さが更に上がることだけでなく、魔法服の凄さを目の前で見せられ、店にある服に絶対の自信があると態度を見せられた光輝は
「魔法服、見せてください。」
と即座に答えた。
「…分かった。ついてこい。飛び切りいいのを見せてやるよ…!」
こうして光輝は鎧を元の位置に戻して、マルクに案内されて魔法服売り場へ移動した。
「…さて、ここが魔法服売り場だ。じっくり見ていけ。」
「…。」
魔法服売り場についたものの、光輝の目の前には想像以上の魔法服があり、光輝はどれを選べばいいのか分からず、言葉を失うのであった。




