第9話 宿屋
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
こうして光輝は剣を使って戦う剣士として冒険者なると決めた。
そして武器を決めた時にちょうどライセンスの発行が終わったらしく、武器を元の場所に戻してルルシアと共に先ほどの受付のテーブルに戻ってきた。ルルシアが裏で最終的な作業をして完成したライセンスを光輝は受け取った。
ライセンスは車の免許書と同じくらいの大きさで顔写真が車の免許書とは逆の左側に張られていた。そして右側に上からレクラルク語(英語)で『Tukikume Kouki』と自分の名前が書かれていた。そして少し下に『Job:Swordsman』と自分が選んだ職業が書いてあり、その下には大きく『Lv.1』と書かれていた。
光輝はライセンスを受けとり、ルルシアはライセンスの説明を始めた。
「ではライセンスについて簡単に説明します。このライセンスは簡単に言うとあなたが冒険者であるという証です。このライセンスがあればこのギルドにあるクエスト依頼掲示板からクエストを受理して、その依頼を達成することが出来ればクエストの報酬を受け取ることが出来るようになります。ですのでこのライセンスは紛失するとクエストの受理・報酬の受け取りが不可能となりますので絶対に紛失しないでください。紛失した場合はこの受付で50000クルフ支払えば再発行できますが、新たに発行したライセンスにペナルティマークが付きます。そして三年以内に三回紛失した場合はペナルティとして一年間ライセンスの発行ができなくなります。一年後すれば再発行はできますが、これを紛失した場合は二度と冒険者になることはできなくなります。ですが戦闘による事故など仕方ない場合はペナルティの対象にならないこともあります。これらの点をわきまえてこのライセンスの扱いには十分に気を付けてください。」
「はい。」
「『Job』と書かれている場所には先ほど光輝さんが選択した職業である剣士がレクラルク語(英語)で書かれています。光輝さんは剣士を選んだため『Swordsman』と『Job』の隣に書かれています。この部分は職業によって変わるため双剣使いだと『Cross Saver』、弓使いだと『Archer』、魔導士だと『Magician』とここに表記されます。そして大きく書かれている『Lv』という文字があります。これはあなたの現在のレベルがここに反映しているものです。」
「レベル?」
「レベルは現在のあなたの強さを表しています。モンスターと戦えばこのレベルの数字は上がっていきます。レベルが高いと受けられるクエストや報酬が多くなり、冒険できる場所も増えてきます。そしてモンスターを倒してレベルが上がるたびに身体能力も向上します。また強くなれば稀にですが名声を貰えることもあります。」
「なるほど…。」
「このライセンスは他にも様々なことに使えます。例えば一部宿屋での宿泊料の割引、一部ショップでの冒険に役に立つアイテムの無料提供、冒険に行く際に必要な費用の援助が受けられるようになります。ですがこれらが適用される条件として一つは冒険者になって七日が経過していること、もう一つは最後にクエストを受けて21日以上が経過していないということです。20日以内にクエストに行かない場合はこのライセンスのお得な機能は使ええなくなります。この機能はクエスト受けて、クエストの依頼を達成できればまたお得な機能を使えるようになります。」
(プレミアム会員の証みたいなもんか…。まあ、少し不便だけど仕方ないか…。)
「また一度でもクエストを受けて7日以上経過しているならこのライセンスは身元証明書の代わりに変化します。もしも冒険者が嫌になったらこのライセンスを利用すれば一部の職業を紹介できるようになります。光輝さんもし冒険者がきついとか思ったのであれば七日後にもう一度ここに来てください。光輝さんに会う職業を紹介しますので。」
「あ、ありがとうございます…。」
「では裏から防具と武器を取ってきますので少し待ってください。」
「はい。」
ルルシアは優しく対応してくれたが、光輝は何だかあまり嬉しくなかった。何故嬉しくないのか考える暇もなくルルシアはすぐに戻ってきた。
「お待たせしました。こちらは光輝さんの身体に合った防具となります。こちらの袋に入れてあります。少し重いので持つ際は気を付けてください。」
「ありがとうございます。」
「そしてこちらは武器となる剣と腰に剣を付けておく為のソードベルトとなります。ズボンにベルトを着けてからさやの部分に剣を入れてみて下さい。」
光輝は言われた通りに腰にソードベルトを着用して剣を抜きやすいようにさやを左側にして剣を入れた。
(こんなことをするなんて思わなかったな…。腰に違和感があるのは仕方ないな…。あれ…、そういえば)
「あの、剣とか腰につけたまま街の中とか歩いてもいいんですか?」
「冒険者ライセンスがあれば、武器は持っていても兵に捕まることはありません。まあ、武器を振り回して人の迷惑をかける場合は別ですが。」
(なるほど、昔の日本でいう侍みたいなものか。)
「それと最後にこちらをどうぞ。」
そう言うとルルシアは光輝に小さな革製の袋を渡した。
「これは…?」
「こちらは先ほど説明した特別手当の100,000クルフとなります。中には1クルフ銅貨・10クルフ銀貨・100クルフ金貨・1,000クルフ紙幣・10,000クルフ紙幣がそれぞれ入っております。少しバラバラに入ってますけどどうかご了承ください」
「…ありがとうございます。」
「光輝さん、宿屋の場所とか分かりますか?」
「いえ…。」
「でしたらこちらの紙に冒険者専用の宿屋の地図を描きましたので、この地図の通りに行ってください。意外と近いですのですぐ分かると思いますよ。」
「はい…。」
光輝はルルシアから地図を受け取った。だがここまでしてもらうと自分が少し情けなく見えてしまった。
「あの、本当にありがとうございます…。ここまでしてもらって…。」
「いえいえ。これくらい当然ですから。」
「おこがましいと思うんですけど、今の俺にできることってありますか…?」
「…そうですね。それなら明日の10時までに先ほど渡した防具を着てギルドに来てください。」
「明日…?」
「明日は初心者の冒険者の為の講習会のようなものがあります。それに参加して一日でもいいので冒険してみて下さい。」
「…はい!!」
「ではまた明日。待っています。」
こうして心のモヤが晴れた光輝は気持ちを切り替えてギルドを後にした。
少し重い防具を持ち、ルルシアに貰った地図を参考にしながら光輝は宿屋に着いた。
「ここか…。」
宿屋は予想していたよりも大きく、大きなホテルにも見えた。光輝は宿屋の名前を確認してから入っていった。宿屋に入っていくとホテルと同じように受付が見えてきた。
「お、いらっしゃい!!」
受付にいたのは40代前半の女性で、おばちゃんと呼べるような人だった。
「あの…、ここにしばらく宿泊したいのですが…。」
「はい、ちょっとまってね。」
受付のおばちゃんはルルシアが出した画面のようなものを出して、空き部屋がないか調べ始めた。
「…ふむふむ。ちょうど一部屋空いてるよ。」
「では、宿泊できますか?」
「ああ、もちろん!!…とその前に冒険者ライセンスを少し見せてもらいたいけど、いいかね?」
「はい。」
光輝は制服の胸ポケットからライセンスを出して、受付のおばちゃんに渡した。
「…確かに本物だね。はいありがとね。」
「ところで部屋はどちらになりますか?」
「部屋なんだけどね、確かに空いているといったんだけどね…。実はというとこの部屋は二人部屋なんだよ…。料金は少し高くなるけどそれでもいいかい?」
「いくらになりますか?」
「一泊すると10,000クルフだね。だけどあんた見たところまだ駆け出しの冒険者だろ?」
「はい、そうですが…。」
「なら本来1泊が10,000クルフのところ、7泊で5,000クルフという駆け出し冒険者専用のサービスがあるけどどうするかい?」
「7泊も…!?いいんですか…?」
「ああ。駆け出しの冒険者は色々と大変だからね。特別サービスさ。どうだい?宿泊するかい?」
「じゃあ7泊で。」
「ありがとね。八日目から1泊ごとに10,000クルフになるから覚えておくんだよ。」
光輝は財布から1,000クルフ紙幣を5枚出して宿泊代を支払った。
「はいこれが部屋のカードキーね。カードには部屋の番号が書いてあるから間違ってでも紛失はしないようにしてね。ちなみにアンタの部屋は4階にあるからそこのエレベーターを使うといいよ。ベッドのシーツとかは各階にシーツ室があるから自分で取り換えること。それとこの1階には売店やレストランとかいろいろとあるから必要になったら利用するといいよ。」
「ありがとうございます。」
「いいって!!いろいろ疲れただろ?今日はゆっくり休んでしっかり明日へ備えな!!」
「は、はい。」
元気な宿屋のおばちゃんに押されながらも光輝はとりあえず部屋へ向かうことにした。そしてエレベーターに近づいた時
「あの、月攻匁 光輝様でしょうか?」
と宿屋の従業員に足を止められた。
「は、はい。そうですが…?」
「ウィルト・ラムフォルティスという方からこちらが届いておりますが間違いないでしょうか…?」
「…?」
宿屋の従業員が持っていたのはとても大きなキャリーバックだった。キャリーバック自体に見覚えは無いものの、ウィルトがわざわざと届けてくれたとなるとこのまま受け取らないわけにはいかないと思ったので
「…はい。そうです。」
と答えた。
「そうですか。ではお受け取り下さい。」
従業員は光輝に大きなキャリーバックをその場で渡し
「それでは失礼します。」
と一言礼をしてその場を立ち去った。
大きなキャリーバックを動かして、光輝はエレベーターに乗り込んで4階へ向かった。様々の人とすれ違いながら部屋に到着した。
「429号室…、ここか。」
カードキーをドアノブにかざして『ガチャ』という音がしたのでドアを押して部屋に入った。
「おお…。」
二人部屋ということもあって部屋は広く広がっていた。空調もしっかり効いていて、綺麗に整備されたベッドはとても清潔感があり、テレビや冷蔵庫といった日常品もしっかり管理されていた。普通に宿泊しても日本なら1泊50,000円近くある部屋を7泊で5,000クルフととても安く宿泊できるのはかなり嬉しいと感じていた。
慣れない事が連続で起こったせいか、部屋に着いてから急に疲れがドッと出てきてベッドに腰を下ろした。肺に溜まった重い空気を吐いて少し気分を落ち着かせて先ほど受け取ったキャリーバックに目を向けた。
(ウィルトさんが差出人と聞いたから受けとったが、どうも信用できないな…。でも本当にウィルトさんが届けてくれたのであるなら…。)
『大丈夫ですよ。そのキャリーバックは神ウィルトがあなたの為に届けてくれたものです。』
「うおっ!?」
突然とノルスが話しかけたので、光輝は驚いてしまった。
(な…、なんだノルスか…。)
心を落ち着かせてノルスと会話を再開することにした。
(なんでこのキャリーバックがウィルトさんが届けてくれたって分かったんだ?)
『先ほど勝手ながらこのキャリーバックをスキャンしました。その結果このキャリーバックは天界で使われていることが判明して、そして神ウィルトが転送術によってこの宿の従業人に渡したことも判明したのでこのキャリーバックは神ウィルトから光輝さんに届けられたものと言っても過言ではないでしょう。』
(なるほど…、ところで中身はなんなんだ…?)
『中身はスキャンしておりませんので、光輝さん自身が確認してみて下さい。』
ウィルトが渡したものとノルスのおかげで分かったので、光輝はベッドから腰を上げてキャリーバックを少し広いスペースに移動させて中身を確認することにした。
(何が入っているんだ…?)
恐る恐るキャリーバックを開けると
「これって…。」
そこには光輝が日本にいた時服や靴と言ったいつも当たり前に身に着けていた衣類が綺麗に入っていた。
その中に一枚の紙が入っていたので光輝はその紙を広げた。それは日本語で書かれたウィルトの手紙だった。
月攻匁 光輝さんへ
いきなり異世界で衣服がないのは大変だろうと思い、あなたが着ていた服の一部をそちらのキャリーバックに入れさせてもらいました。
日本にあるあなたの衣服をそのままこちらの世界に送ると様々な問題があるためこれらの衣服は全てコピー品です。
コピーではありますが問題なく普段通りに着ることが出来ます。またこれらの衣服はこの異世界で着ても若者の普段着として認識されるのであまり気にしないで着てください。
なおこのキャリーバックは48時間後自動的に中身ごと天界に戻されますので早めに衣服を別の場所に移してください。
それでは、良き人生を。
転生の神 ウィルト・ラムフォルティスより
(わざわざこんなことまで…。)
素直に嬉しかった。ここまでしてくれるなんて思わなかった。
(俺は恵まれてるな…。)
そう思った時、あの時一生懸命生きると言ったことを忘れてはならないと強く思った。
(…よし。)
自分はこの世界の人間じゃない。
(ノルスちょっといいか?)
だから何も知らないし、出来ないことも多い
『はい。何でしょうか?』
だからこそこの世界の事を詳しく知って
(教えて欲しいことがあるんだ。)
この世界を自分の中に受け入れて生きていこう。
そう新たに自分に誓った光輝であった。