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医師の話

「次は、夫人の死を知っていそうな別の方を尋ねましょうか」

 別日、再びイリスと落ち合う。

「どなたか、心当たりはございません?」

「ええと、夫人の死を診断されたお医者様と、当時在宅されていたお義姉様の家庭教師のお二人でしょうか」

「では、その二人にお話を聞きましょう。お名前はわかります?」

「……わからないです」

「では、お名前を調べましょう」

 ドンと構えているイリスに対し、リズの方は不安げである。

「私が尋ねても、教えてくれるでしょうか」

 リズはメイウェザー家の使用人達の不親切さを懸念している。

「大丈夫よ。私達も一緒に聞きに行きましょう」

「ええ……?」

 イリスの一緒にという提案にリズだけでなくクレアもどういうこと? と疑問に思った。



「熱っぽい気がするの! 喉もなんだかいがらっぽいわ! この家の侍医を呼んでちょうだい!」

 リズがメイドに向かって居丈高に命じる。そのリズの後ろに控えるのは、メイド服姿のクレアとイリスだ。そっと俯きがちになり、腰は低めに手は前で組む。クレアは大丈夫かと疑問に思いつつ、イリスは乗り乗り且つ自信満々だ。

 リズの台詞の監修はイリスである。

「まあ! 寝ていれば治るんじゃないですか?」

「平民の分際で、貴族の医師を使おうと思わないで下さる⁉」

 メイウェザー家のメイド達は中々辛辣だ。

「この家のメイドは本当に使えない人達ばかり! 侍医の一人も呼べないなんて!」

「なんですって⁉」

 こう言われたらこう返そうとシミュレーションしていたので、リズはそれに従って台詞を言う。若干声が緊張で上ずっているのだが、メイドたちはそれに気づいてはいないようだ。


「いいから医師を呼びなさい!」

「ご自分の足で医師の元に行かれては⁉」

「ロドニー医師は平民を診れるほどお暇な方ではなくってよ!」

 メイドたちとのやり合いでようやく医師の名前が出てきた。イリスが良し! と横のクレアに目配せする。


「もういいわ! あなた達には頼まない!」

 リズは怒ったふりをして切り上げて、メイドたちに背を向けた。クレアとイリスもリズに従ってその場を去る。



「こんな感じで良かった?」

「ばっちりよ!」

「上出来だったわね」

 リズの演技をイリスとクレアはそれぞれ褒める。

「それにしても案外、バレないものね。私達が本来は屋敷にいないメイドだってわからないのかしら」

「伯爵がリズ達のために新たに雇った人材だと思ってるんじゃない」

「なるほど……」

「それに、みんなやってみたかったんでしょうよ。ドアマットヒロインを虐げる理不尽な偽の家族からドアマットヒロインを庇うメイド役を、ね」

 なにはともあれ、医師の名前がわかったので彼を訪ねることにしたのだった。



「お嬢さん、あなた一体何を疑ってるんだね。私が嘘の診断をしたとでも?」

 ロドニー医師は案外あっさりと会ってくれた。

「いえ、私は彼の方がどう亡くなったのかをまったく知らないのです」

「……お嬢さん。伯爵を疑ってるのかい? 彼が自分の奥方を殺したのではないかって」

「え、いえ……」

 ロドニー医師が鋭い目つきで指摘する。リズは厳しそうなロドニー医師の雰囲気にびくりと身構える。

「あの男はそういう大それたことができる人物ではないよ。小人物だからこそ、奥方が亡くなったからあなたたち家族を迎え入れたんだ」

「はあ……」

「奥方の死因は、薬だ。奥方は心臓に病を持ってらした。その病に対応するための薬を飲むタイミングを間違えたんだ。本来は発作が起きたタイミングで飲む薬だが、それを症状がしっかりと出る前に飲んでしまったんだろう。そのせいで、体に悪い作用が出てしまい、倒れられたんだ」

「そうなんですね……」

 ロドニー医師の解説にリズは神妙に受け取る。


「お嬢さん。これは、爺さんのお節介だがね。あなたは無理してあの屋敷に留まる必要はないと思うよ。慣れない環境に無理に適応しようとするのも健康には良くない。貴族に成りきろうとがんばる必要もない。あなたにはそれをする義務などないんだから。あなたはあなたの人生を生きるべきだ」

「……はい」

 予想外にロドニー医師から優しい声をかけられ、リズは声を詰まらせながらうなずいたのだった。



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