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家庭教師の実家

「お医者様に話を聞きましたわね。次は家庭教師ですか。どのような特徴の方だったかわかります?」

「小麦色の髪に眼鏡をかけてらして、控えめな鷲鼻に薄っすらとそばかすがあって、髪型は目が隠れそうな厚めの前髪に高い位置でお団子を作ってらして、服はかっちりと首元の詰まった落ち着いた色合いのワンピースを着てらして……」

「うーん。割とよくある家庭教師像にぴったりと当てはまる方ですわね」

 特徴を聞いても、イリスは特定ができないらしい。

「でも、具体的な特徴を知ってるのね。直接会ったの?」

「ええ。私、マナーがおぼつかないので教えて欲しいとお願いしたかったのだけど、すげなく断られたの。そして、お願いした翌日にはその先生は屋敷をお出になられたわ」

 その時のことを思い出してか、リズは小さくため息を吐く。

「私のような平民に教えるなど、貴族の令嬢を相手に教える先生にしてみれば侮るなと思われたんでしょう」

 リズの言葉に、イリスとクレアは顔を見合わせる。リズの気持ちは痛いほどわかるが、家庭教師の反応も無理はないと思えたからだ。


「屋敷の執事にもう一度尋ねてみます。あの方に教えを請いたいと聞いてみます」

「教えてもらえるかしら。別の人を紹介されるのではない?」

「でも名前だけでも聞きだせればイリス様はお分かりになるんでしょう」

「ええ。大分絞り込めるわね」

「がんばる!」

 リズはぐっと拳を握ってみせた。



「レイルズ女史はあなたの教師になることはあり得ません」

「そこをなんとかお願いします!」

 リズが執事に質問する後方でクレアは先日と同じくメイド姿で控えている。イリスはこの日は社交の予定があるので不在だ。

 リズが義姉と同じ家庭教師に習いたいと執事に懇願すると、執事はあっさりとその名を口にしたのだった。


「あなたは貴族女性としてのふるまいを求められておりません。故に、無理に習う必要などないのですよ」

「やるだけ無駄ということですか」

「時間をかければ習得も可能でしょうがね。そんなに時間とお金をかける必要がどこにありますか?」



「あの執事、言い方はきついけど要はロドニー医師と同じことを言いたいのではないかしら」

「そうなの……?」

 執事の言葉に落ち込むリズに、クレアは思ったことを言う。

「とにかく、これで家庭教師の名前もわかったわね。イリスなら、どこの誰だかすぐに思い出してくれるわ」

 リズとクレアは社交終わりのイリスを待つために移動する。



「娘はまだ我が家には戻っておりませんねえ」

 義姉の家庭教師の実家のレイルズ家を訪れた三人は、彼女の両親に出迎えてもらえた。だが、そこに家庭教師の姿はなかったのだった。

 レイルズ家は一人娘の嫁ぎ先を見つけられなかった。そのため、親類に爵位を譲り、両親はこじんまりとした屋敷で隠居生活を送っていた。小さいながらよく手入れされたきれいな庭園に、屋敷の内装はあたたかな印象のしつらえで、老夫婦二人が快適な生活を送っていると推測された。


「勤め先を辞するときなどはいつでもうちに連絡をしてくれて、すぐに次の勤め先が決まったときでも、一度は我が家に顔を出してくれるんですがねえ」

「うちに手紙の一つも届いてませんので、休暇をとっているのかもしれませんね。それでも、うちに顔を出すものですが……」

 レイルズ夫妻はリズからの話を聞いて、怪訝そうな顔をしている。彼らの娘はまめに連絡を取り、よく顔を合わせるなど、実家とも関係は良好だったのだという。


「うちの娘は、それは熱心な教師でありますから、あなたのようなやる気のあるお嬢さんに是非にと望まれれば、喜んで教えたがると思います」

「そうなんですか……」

「ええ。学は誰でも得るべきと語っておりましたから」

「そうなんですね……」

 夫妻の語る女史の人物像はリズが実際に出会った人物像とは合わず、横で聞いていたクレアも心の内で疑問符を浮かべていた。リズの相づちも弱々しく、彼女も疑問に感じているのがわかる。


「娘が戻りましたら、あなたに請われていたと必ずお伝えしましょう」

 夫妻は親切で、リズを平民だからと見下すこともなかった。この二人の娘ならば、同様にリズに偏見を持たないだろうと思わされる。夫婦二人して丁寧に見送りに出てきてもらい、リズは低頭しながらレイルズ家を辞した。



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