リズの不満
リズを交えて、三人のお茶会が始まる。主にリズの話を聞く場であった。
「それで、夜会などに連れ出されるようになったんですけど、着飾ってもらえても、マナーなど何も知らない状態で放り出されるわけですよ。周囲の目が明らかに冷たいというか、珍獣を眺めるようなものなんですよ。そんなの楽しめるわけもないじゃないですか」
「まあ……それはそれは」
リズには思う存分に愚痴を吐いてもらう。リズの話を聞くイリスの瞳がやけに輝いていた。リズには悪いが、イリスの好きそうな話だなとはクレアは最初から思っていた。
「積極的にお世話をしてくれる人もいないから、母とお互いを着付けしたりしてるんですよ」
「まああ!」
イリスの反応に促され、リズの話は弾む。
「メイド服を着て、必要なものを手に入れに行ったりとか」
「まあ! バレないんですの⁉」
「前髪を下ろして、化粧もほとんどなくして、そばかすなんか書き足したりして~」
「それでバレてないんですのね! 演技がお上手なのかしら」
「いやあ、私達に興味がないからあまり顔を認識してないんだと思いますよ」
クレアは二人の話を聞きながら相づちを打つのに集中した。そして、出てきた情報を脳内でまとめる。
リズの母とメイウェザー伯は街の酒場で出会った。身分を隠して酒場に現れた伯爵を酒席で接待したのが、リズの母。そこから伯爵はその酒場に通い詰めた。そして、メイウェザー伯爵夫人の訃報を聞かされ、屋敷に迎え入れられた。
その屋敷での生活は、平民の二人にとっては窮屈なもので、食事と衣服に困らないことだけが救いだと。その食事も満足に配膳してもらえないから二人はメイドに扮して自分で取りに行っている。その食事は、令嬢と一緒になると気まずいので、屋敷の食堂ではなく自分達の部屋でとっている。
そろそろ、リズにはなぜ伯爵夫人が亡くなっていないと感じたのかを語ってもらいたい。
「伯爵が宝石やお洋服を買ってくれようとなさるんですが、正直、ドレスなんかあっても来ていく場所なんてないんですよね。断っても断り切れないし。あんまり固辞し過ぎると伯爵のご機嫌が悪くなるんですよね」
だが、そう都合よくリズの話したいことがそこに向くとも限らない。だから、頃合いを見て水を向ける必要がある。
「今は母は伯爵のお気に入りのようですけど、いつ飽きられるかもわからないし、私達っていつ追い出されても文句は言えないわけじゃないですか。だから、持ち出しやすい宝石を中心に買ってるんですけど、それを見てお仕えしている人たちはくすくす笑ってるんですよ。平民が価値もわからず、やみくもに高いものを買っているように見えてるから嘲笑されてるんですよ。それはその通りなんですけど!」
リズは相当鬱憤を溜めていたらしく、中々彼女の愚痴は止まらなかった。これは、もっと好きなだけしゃべらせた方がいいだろうか、とクレアは思う。
「大きな宝石のアクセサリーを買おうとしたら、伯爵が亡くなった夫人の宝石を渡してこようとしたんですよね。さすがにそれはないでしょう。あの時のお嬢様の目線、本当に恐ろしかった……」
「うわあぁ……」
あんまりなエピソードに思わずクレアの口から声が漏れる。イリスなどは逆も声もなく目を丸くして、口を手で覆っていた。
「奥様の遺品ですから、ご令嬢が持っているのが一番筋が通ってますわねえ」
「伯爵は奥様を嫌ってらっしゃったんでしょうか? 自分の血を引く娘に対する扱いとは思えないです」
リズから見て、伯爵は実の娘を冷遇する極悪非道の人物である。だから、彼女は伯爵を疑っているのだろうか。もしかして、奥様を排したのは伯爵なのではないか、と。
「私、奥様は実は亡くなっていないんじゃないかと思うんです!」
リズの愚痴が言い切られた後、ようやく本題に入ることができた。
「じゃあ、お墓に行ってみましょうよ!」
イリスが即座にそんなことを言ったので、何故リズがそう思ったのかを聞くことはできなかった。




