リズの疑問
「……ごめんなさい。ちょっと私情を乗せ過ぎました」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
「ええと。それで、伯爵に今日から一緒に住もうと言われまして、お宅に連れていかれたんです。そしたら、そこには私と歳の変わらないお嬢様がいらっしゃったんですよ」
語るリズの表情が怒りから無に変わり、すん、としたものになった。
「もう、気持ち悪くってぇ……」
その言い方が真に迫っていて、本心からの言葉だと伝わってくる。
「愛人の娘と自分の娘を同居させる神経が本当にわからない……」
「そうですねえ……」
腕をさすって呟くリズにクレアも同意する。
「ああ、すいません。また私情に走ってしまった……それで、伯爵には父と呼ぶように言われ、お嬢様のことを姉と呼ぶようにと言われました……」
そこまで話してから、リズは首を傾げた。その迷子のような表情から、自分の説明が本当に本題に沿っているのか、説明しなくてもいいようなことまで語ってないか、最早ただの愚痴になってないか、などと考えているらしいのが読み取れた。
「ええと、本題はですねえ、伯爵は奥様が亡くなったと言っていて、お嬢様もそのような言動をなさってはいるんですけど。私は何かおかしいなと感じてるんです」
「はあ」
「私、あの家の奥様、お義姉様のお母様は本当は亡くなってないんじゃないかと思うんです」
リズの言葉に、クレアはフードの下で目を瞬かせていた。
「えーと……つまり、奥様が死んでいるか生きているかを確かめたいと」
「ええ! そうです!」
「……」
クレアはそれを聞いて、あごに手をやり、しばし考えこんでしまった。
「それは……私の力では確かめようがございませんねえ」
「え……」
「私は霊を呼び出して会話することができますが、霊がいないことを証明するのは……また別の話と言いますか……」
「そうですか……そうですよね……」
リズはクレアの言葉を理解すると、目に見えて消沈した。
「私では、お力になることはできないんですが」
「はい……」
「人を紹介することはできますよ」
「え?」
クレアとイリス・ミーガンは評判のカフェでお茶をすることを約束していた。約束通り、二人は出会い、カフェの茶と菓子を堪能する。
「あなた、この間最近はやりの劇の題材について語ってたでしょう」
「ああ。ドアマットヒロイン。ある日血のつながらない妹ができて、姉が不遇な目に遭うやつ」
「そうそれ」
クレアの言葉に、イリスがぱちぱちと目を瞬かせた後、ぐっと身を乗り出した。
「今度は何に首を突っ込んでるの? それとも巻き込まれたの?」
「私、自分から突っ込んでる気はないんですけど、依頼があれば突っ込まざるを得ないのよ」
「断ろうと思えばできるでしょうに」
イリスはくすくすと笑う。その表情が本当に楽しそうで、喜ばせるつもりではなかったとクレアの方は口を引き結ぶ。
「それで、ドアマットヒロインを助けるの?」
「助けるのはドアマットヒロインじゃないのよ。妹の方」
「え! どういうこと⁉」
イリスがぐいっと食いつく。
「あなたにお手伝いして欲しいのよ。今日は紹介しようと思って呼んであるの」
「まあ! 直接会えるのね! 楽しみだわ!」
イリスはわくわくそわそわと体を揺らした。クレアはやれやれと息を吐き、茶を一口飲む。
「ごめんなさい。遅くなりました!」
リズは約束の時間から少しばかり遅れてやってきた。
「もしかして、また徒歩で来たの?」
「ええ……帰りはさすがに辻馬車を使うわ」
「送るわよ」
貴族屋敷に横付けする辻馬車を想像して、クレアはより一層の危機感を募らせた。クレア自身は辻馬車を利用したことはないので、その安全性が想像できず、悪い想像ばかりが大きくなるのだ。
「リズ。こちら私の友人のイリス・ミーガン子爵令嬢よ」
「初めまして。リズです」
リズはクレアの紹介にはっとなり、イリスに対して礼をとった。見様見真似のそれはどこかがくがくとしてぎこちないものではあった。
「……ごめんなさい。私、マナーというものをまだ習っていないの」
「いえ。お気になさらず」
イリスは鷹揚に笑う。その笑顔に裏の意味はないようだとクレアは受け取る。イリスはリズのことを好意的に見てくれたようだ。クレアはそのことに内心で安堵する。




