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新たな依頼

「お願いします。母と会わせてください!」

「はい。始めます」

 泣く娘に熱っぽく懇願され、クレアはあっさりと儀式を始める。先祖から受け継いだ何か謂れのあるらしい石のついたネックレスを握り、真摯に呼びかけ……




「……失敗しました」




 あーあーあー。失敗しちゃったよ。

 クレアは失意のまま、帰路に就く。お代を逃したことは元より、失われた信用を想い、気は重く、のそのそと馬車に向かう。

「待って!」

 そんなクレアの背に声がかかった。もう夜も更けている。しっかりと暗い夜の闇の中、その闇を切るような明瞭な声だった。

「あの! 私もあなたに依頼、できますか?」

 声をかけてきたのは、あの憮然としていた娘だ。今、こうしてクレアと対峙した彼女の表情からはその憮然さがすっかりと消えていた。懐っこい猫のようにくりっとした目が輝き、彼女が実にかわいらしい少女なのだということがはっきりとわかる。


「ええ。もちろん。できますよ」

「じゃあ、こちらからお邪魔します!」

 二人で話していると、屋敷の方から「リズ!」と彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。


「あ、あの長い話になるかも……」

「明後日なら、私の予定は開いておりますがいかがですか?」

「では、その日にお願いします」

 手短に予定を詰めていく。場所を教えると、彼女はにこっと笑い

「ありがとう!」

 と結構大きな声で礼を言った。


「リズ! そこにいるのか?」

 彼女を呼ぶ声は恐らくあの騎士である。

「やだ。こっちに来ちゃう。ごめんなさい。もう行きます! それじゃあ、また!」

「ええ。お待ちしております」

 快活な声で別れを告げると、彼女は颯爽と走り去っていった。令嬢に似つかわしくない行動ではあるが、彼女の笑顔に今夜の失敗を慰められた気のするクレアは悪い印象を持たなかった。



 それから、日は過ぎて約束の当日。彼女は供もつけずに一人で来た。それも徒歩である。これはさすがに危ないとクレアは思った。

「家の人に送ってもらえなかったのですか?」

「私、あの家の人間というより、ただの居候のようなものなのです」

「ええ……?」

「ええと。まず、私の事情からお話しした方がいいんでしょうか。それとも、依頼の話を先にした方がいいんでしょうか」

「えーと、依頼の話とあなたの事情が関係あるんでしょうか」

「多分」

 二人の間に妙な沈黙の時間が過ぎる。


「私、本当のことを知りたいんです」

「はあ」



 娘は自分の名をリズと名乗った。

「リズ様。愛称か何かですか」

「ただのリズよ。私、貴族の娘ではないの。ただの平民よ」

「あら。メイウェザー家のお嬢様かと思ってました」

「メイウェザー家のお嬢様はお義姉様お一人だけ。私は、メイウェザー伯の愛人の娘」

「あら……」

 あっさりと話された家庭の醜聞にクレアはどう反応をしていいか惑う。


「私達親子は、ある日母がメイウェザー伯に見初められてしまって、囲われることになったんですけど」

「はい」

 基本依頼人には自由に話をしてもらうことにしているので、クレアはなるべく余計な口を挟まない。

「それが、奥様が亡くなられたからと伯爵の本邸に住むようにと言われて」

 リズの語る口調、表情が険しい。望んでのことではないと物語っている。

「正直、伯爵のしたいことが理解できないんですけど。愛人の存在って秘すのが普通なんじゃないですかね。それを、ご自分の住んでる家に住まわせるってどういうことなんでしょう。弱み丸出しになるようなもんじゃないですか。でも、こっちはお貴族様の言うことに逆らえるものでもないし!」

「そうですねえ」

 クレアはリズの熱弁にうんうんとうなずく。クレアは聞きながら、どこかで似た話を聞いたなあと思っていた。


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