降霊会
「塔が示すのは、トラブルや事故、強制的な変革、秘めた恋の発露など……カードの見た印象のとおり、よくないことを示唆している。
次いで、正義の逆位置、これは本来公平に判断すべき事柄が逆になる……つまり、私心から不公平な判断をしている、偏った見方から価値観を押し付けている。
そして死神の逆位置。死神のカードはその物騒な名前から悪い意味にとられがちだが、死とは普遍的なもの。必ずしも悪い意味とは限らない。だが、逆位置だ。これは、他のカードと組み合わせて考える必要がある……」
父は立て板に水の如くすらすらと出たカードの意味を語った後、一旦口を閉じた。出たカードの意味を彼なりに咀嚼しているのだ。
「ふむ。君の恋心、そのまま突っ走るのは危険だね。一旦冷静になれと示しているよ。恋心からあらゆる出来事への判断が視野狭窄になっている。今夜みたいにね」
とんとんと逆位置の正義のカードを指で叩く。
「事態が動く、そんな瀬戸際に君は立っている。ここで判断を誤ると大破局を迎えるだろう……そういう警告だ」
逆位置の死神を指した後、塔のカードを彼の方に押しやった。
「何を……そんな占いで脅すつもりか」
「そう。所詮占い。この占いを真に受けるも信じないも君次第」
「……」
男は反論しかけたが、その語調は弱く、次いで語られた父の言葉に黙り込んでしまった。
「お題は結構。お帰り願おう」
「なっ! 勝手に占っておいて!」
「そう。勝手に占ったからこそ、お代は結構、と。実は私の占いは、結構いい値段がするんだよ。サービスしてあげたんだから、わかるね?」
目元を隠しているので、にっこりと笑っても口元だけが見えていて、不気味な圧を発した笑顔になっている。
「客人のお帰りだ!」
父はパンパンと手を叩くと、扉が開かれ、複数人の従者が現れて、騎士服の男を外へと連れだしていった。男はなにやら反抗するような言葉を吐いていたが、問答無用で外に出される。
「いやあ。危ないところだったね。君ももっとうまいあしらい方を身につけないとね」
「お助けありがとうございます。お父様が来てくださったこと、嬉しく思いますわ。でも、元はと言えば私をこんな夜中に一人で置いてることが問題なのではありませんこと⁉」
「……受付の人増やそうかな」
「隠し通路があるからって、一人で置かないでくださいませ。お父様も引退するにはまだお早いでしょう。お父様をご指名する人もいらっしゃるんですから、お父様も最初からここにいてくだされば」
「はいはいはい。お客様が来るまでに心を落ち着かせようね、クレア」
怒りで早口で詰問する娘を父はどうにかいなそうとする。親子の宵はぼちぼちと更けていくのだった。
数日後。クレアは、その夜はいつもの屋敷から外に出ていた。今夜はとある貴族家に呼ばれている。個人宅の夜会で降霊会をしたいと招待されたのだ。故人に縁のある人を呼ぶので、共に故人を偲びたいとのことである。
脳裏には、あの騎士風の男の脅迫が思い出されたが、それで行かないという選択をとることはない。信用商売なのだ。一度行くと約束したからには、よほどのことがない限り反故にはしない。
ごく近しい人を集めた夜会なのか、想像よりこじんまりとした会であった。
「亡くなった母を今一度呼んで、もう一度話をしたいのです」
はらはらと涙を流しながら語るのは、この家の惣領娘である。その娘の両脇に立った男が口々に慰めの言葉を発している。
そして、その娘と離れた位置に憮然とした表情の娘がいて、泣く娘をただ見ている。その娘に気遣うように寄り添うのが、あの騎士服の男だった。
惣領娘とこちらの娘、共に歳が近そうであるが、姉妹にしては似てもいない。
服装も、泣く娘はしめやかな会にふさわしい落ち着いたものである一方、憮然とした娘の方はやけに華やかでかわいらしい、一般的な夜会ならば浮きはしなかったであろう、そんな服装をしていた。 服と会の趣が合っていないのは元より、娘の表情とも合っていない。そして、この主催の家の格からしても、どこか安っぽく見える、そんなどこまでもちぐはぐな印象になってしまっていた。
あまりにもちぐはぐなので、ウィザーズことクレアはすっかりその場違いさに居心地悪そうにしている娘にばかり注目してしまいそうになる。
だが、あまり彼女ばかりを見ていると横の男からにらまれてしまうのでそれも控える必要があった。




