夜間の珍客
頭がくらくらする。寝不足なのだ。令嬢が夜間に睡眠を十分にとれないなんて間違っている、と彼女は常々思っている。
こめかみをそっと撫でる。
昼寝したのに、と溜息をそっと吐く。この仕事そのものが嫌いなわけではないが、夜は存分に寝たい。それが彼女の望みである。
今日は来客の予定なので、眠くてもここにいなければならない。しかし、時間は十分にある。ならば、仮眠をとっても許されるだろうか。
そんな葛藤を脳内で繰り広げていると、表の方が何やら騒がしい。急な来客だろうか、それを断るか否かでもめているのかもしれない。
令嬢一人で営業するわけにもいかないので、受付を担当する従者はいる。主が若い女だと思うと侮ってくる人間もいるので、受付には壮年を超えた男性が担当している。
「お待ちください!」
ええー。突破されたー?
霊媒師ウィザーズことクレアは内心戸惑いつつ、事態の進行をそのまま静かに受け止める。
乱暴に大きな音がたてられて扉が開く。
「貴様が霊媒師ウィザーズか!」
不躾な呼びかけを受けた。夜に不似合いな大声である。あいさつも無しに入ってきたのは騎士服の男だった。
「あら。ご立派な騎士様ですね」
騎士道に似つかわしくない行動を揶揄する気持ちを込めつつ、クレアは言った。
「金さえ積めば霊を自在に呼び出すなどとうたっている怪しい霊媒師め!」
「自在には呼び出せませんわ。きちんと応えていただくよう、心は込めます」
何言ってんだこいつ。思いつつ、クレアは静かに言葉を紡ぐ。
「妄言により人を惑わせる悪女め! 貴様、近日中にある伯爵家に呼ばれているであろう!」
「私を召していただける貴族家は幾らもありますが……」
どこの家のことだよと問い返す。
「ふん。どこにでも出向かう尻軽だな。この売女め」
わあ。最悪のワードセンス。
クレアは呆れて侮蔑の言葉も出ない。この男、どうしてくれよう。クレアは男をやり込める方法を考える。
男が舌打ちとともに、クレアに向かって手を伸ばしてきた。おっとりと座っている場合ではない。クレアはその手を避けようと身をのけぞる。
「がっ!」
男が奇声を発するとともに動きを止めた。胸ぐらをつかもうとしたのか、クレアの眼前で手が止まっている。
「はい。それ以上はいけない。騎士が正当な理由も無しに暴力をふるうものではないな」
「……師匠!」
クレアは、父と呼び掛けたのを留めた。男を背後から止めたのはクレアの父、先代ウィザーズである。父は目元が相手に見られないよう顔を隠したウィザーズとしての衣装を身につけていた。
父は騎士の腕をつかむと同時に、彼の首をしまるように服をきつく掴んでいた。
「相手は女性。その女性と一対一。しかも夜。騎士としてふさわしい行動か、今一度考えていただこう」
父は淡々と諭しながら、彼を拘束したまま後ろに下がらせる。十分に距離をとったところで、彼を放した。すかさずクレアの前に立ち、盾になる。
「……貴様!」
男はしばらくむせた後、それをなんとか収めながらこちらをにらむ。
「貴族によく呼ばれるということは、つまりどういうことかわかるかね。私達の身に危険が及ぶと動いてくれる人はそれなりにいるのだよ」
「……」
男は、父の言葉に顔色を変える。
「忠告がてら、君の身を占ってあげよう」
「何を……⁉」
男が戸惑うのも構わず、父は傍らにあったサイドテーブルを引き寄せてそこにカードを撒く。
ぐるぐるとカードを混ぜた後、3枚をピックアップすると順にめくっていく。
「ふむ。塔の正位置に正義の逆位置に死神の逆位置か」
出てきたカードが軒並み不穏に感じて、クレアは内心でうわあと慄く。




