間違い
「あの方、私にすごく同情的になってくれて、それでお義姉様と自分の婚約を破棄するとまで言ってくれて」
「えー……それで、あなた責任感じているの?」
「私はあの家を出ても元の生活に戻るだけだけど、あの方は貴族としての生活をすべて手放さなければいけないかもしれない……それなのに、私に肩入れをしてくれている……ならば、私はあの方の気持ちに答えなければいけないんじゃないか、とそう思ったの」
リズの言葉にイリスとクレアは顔を見合わせる。
「えーと。貴族としての生活を手放さなければっていうのはー」
「だって、婚約って互いの家の利益が合ってするものでしょう。それを放棄するのだから、きっと彼は家を追い出されたりされかねないと思うの」
「ええ……その考えは間違ってないわね」
クレアはうなずきつつも、どう指摘したものかと悩んだ。
「私は、あの騎士様はそんなこと考えてないと思うわ」
「え?」
イリスがズバッと言った。
「多分、お義姉様と婚約を破棄しても、あなたと婚約を結べば家同士のつながりはそのまま残ると考えてると思うの」
「ええ? だって、私貴族の血なんて一滴も入ってないわよ」
「お義姉様とあなたが本当の姉妹だと勘違いしてると思うの」
「ええ!」
それだと話が変わってくるとリズが小声で言っている。本当にその通りだ。
リズは婚約を重く考えている上で受け止めているのに、相手はそうではないかもしれないのだ。
「ま、本当のところは確かめてみないとわからないけど」
「そ、そうよね!」
クレアの言葉にリズはほっとしたように表情を変える。
「それでも。この懸念が本当だったらどうする?」
クレアの問いかけにリズはしばし黙って考えた。
「正しいことだとは思えないけど、だからって間違いだからってそれを責めることもできない」
リズの言葉に、イリスとクレアはどうして? と首を傾げる。
「母が伯爵の愛人になったことがそもそもの間違い。だけど、私にそれを責めることはできない。母がそうしようと決めたのはきっと私のせいだから」
「それって」
「私は母が働いてここまで育ててくれたことを感謝している。だからこそ、早く働いて母に楽をさせてあげたかった。私が酒場で働くとを告げたその数日後には、母は伯爵家に行くことを決めた。私が働くこと、それが母のきっかけになってしまった」
「ああ、そうなのね……」
「夜に酒場で働くことを私は恥ずかしいとは思わない。母だってそうしてくれたのだから。でも、母にしてみればいろいろとこれまでの苦労が思い返された。それで、私を働かせまい、と決意を固めた」
リズの語りをイリスとクレアはしっかりと受け止める。
「誰でも、間違うことはある。そして、その間違いの理由が私。だから、間違いを理由に責めることは私には難しい」
「うん……」
そのリズの言葉を聞いたうえで、イリスとクレアは内心ではでもなあ……と思うのだった。
「ねえ、肖像画って本人そっくりに描くものよね?」
本日もイリスは社交があるので、リズとクレアは二人で会った。リズが出会ってすぐにそんなことを言う。
「そうねえ。まあ、描いてもらう側の要望で少し容姿を盛ったりすることはあると思うけど……」
クレアは持ち込まれたお見合い相手の釣り書きに添えられた姿絵がやけに美しすぎて、明らかに盛ってるなあと一目で気づかされたことを思い出しながら言った。
「そう……でも、特徴はそのままよね? 瞳の色とか、髪の色とかは本人と合わせるわよね……」
「? ええ、そうね。光の表現で、違う色味になったりすることはあるかもしれないけど……」
「表現……じゃあ、それなのかしら……」
クレアの言葉を聞いてリズは考え込む。




