第53話 全てが上手くいくぜ
…条件ってなんだ?…
「まず手始めに、この山林の麓にある街の総合病院に行ってもらう。そして、そこのケースワーカーをしている榊圭佑を始末してくるんだ」
…榊圭佑?…ん?ちょっと待て!榊だと!?…
「ああ、そうだ。約100年前に、この村を壊滅状態にした、あの榊一族の末裔だよ。そして俺は同族、恐里一族のやっかみが原因で殺された。俺はその両族を許せねぇのさ」
…ちょっと待て!お前が恐里一族に恨みを持つのは分かるが、なぜ榊一族を恨む必要がある?…
「ん〜ん。そうだな。確かにその通りだ。強いて言えば、榊の連中は目障りだって事かな」
…目障りだと?…
「天上天下、唯我独尊。俺は唯一無二の存在を目指している。一等賞だ!分かるか?俺と肩を並べてる存在なんて、この世にも、あの世にもあっちゃあーならねぇんだよ」
…つまり榊の連中に、そんな奴がいる…と?…
「そういう事だ。この何十年で榊の連中を全て片付けた。残るは都会へ逃げて行った榊圭佑とその娘の友美だけだ」
銀次はそう言うとクロスに組んだ足を解き、テーブルに両肘をついて、顎の下で両手を組んだ。そして、凍てつくような眼差しを下座の私に向け、こう続けた。
「なぁ香織…。お前も恐里の生き残りに両親とともに殺された。いわば俺たちはシャーマン一族という共通の復讐相手を持つ、似た者同士ってわけさ。この地に根強く残ってるシャーマンの血統に終止符を打ってやろうじゃないか」
…本当に協力したら、望みを叶えてくれるんだろうな?…
「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる。領主となるはずだったシャーマンだぜ。お前らとは次元が違うんだよ」
銀次はあざ笑うように私を見た。
(本当にこいつを信じていいのだろうか?だが他に方法が思い当たらない)
「それと…榊友美には用心しろよ」
…榊友美?娘の方か?…
「ああ。圭佑の一人娘だ。奴は父親以上にシャーマンの気質がある。当の本人は、まだその事に気付いてないがな。だが、その実力が開花した時、お前なんか足元にも及ばなくなるだろうぜ」
…銀次、貴様ぁ、私を侮辱する気か!そんな小娘に負けるわけないだろうがぁ!…
「おいおい、熱くなるなよ。助言してやってるんだ。それにお前の大好きな父親の魂は榊友美の中に閉じ込められている。助けたいだろ?」
…閉じ込められている…だと…
「ああ。俺に協力したら、全てが上手くいくぜ」
(…アランと佐和子…二人に会いたい…)
目を伏せた。それでスイッチが入り、はるか昔…生前の、幼き自分に起こった悲劇が蘇る。
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「ここは危険です。裏の非常口から避難して下さい。おい、キヨシ!ハル!」
バトラーは近くにいる二人を呼びつけた。
「キヨシはご主人様を、ハルはお嬢様の側につき全力でお守りを!ヴァレットとハウスキーパーはお二人を先導しなさい!」
使用人達に促され、キッチンに入る。
私は、その時初めて、そこにある隠し通路の存在を知った。
「バトラーさんは?」
「バトラーは私達が、もっとも信頼しているチームリーダーです。彼の指示はいつも的確です。何も心配する事はありません」
大食堂に残ったバトラーの事を気にかける私に、ヴァレットは笑みを浮かべて言った。
「そう…」
私は、それでも一抹の不安を抱えながら再度、大食堂の方を見た。
「さぁ、お嬢様。参りましょう」
ハルが私の背中に優しく手のひらを添えて、脚立のステップに促した。
隠し扉を開いた先には、レンガ造りの少し傾斜のある階段が現れた。踊り場には、壁掛け式の携帯用の石油ランプが幾つか備え付けられている。キヨシとハルがそれぞれに火を灯し、私達にひとつずつ渡してくれた。
石油ランプの不規則な揺らめきが、レンガの壁に私たちの影を巨大な怪物のように映し出す。
階段を下り始めた直後、ガタガタとキッチンへ雪崩れ込む複数人の足音が聞こえた。
「えっ!!」
私は先程と同様に声を荒げてしまった。と同時に、両手で自らの口を塞いだ。
(ひょっとして、さっきの私の声で、キッチンにいた事、気付かれちゃった…とか?…)
最後尾のヴァレットが、音のした方を振り向く。そして、こちら側に片腕を差し出した後、その人差し指を自身の口元へ当てた。
「しぃーっ!!」
彼は小声で呟いて、さっきまで私達のいたキッチンの動向を耳を澄ませた。
会話の内容から、キッチンには少なくとも7、8人はいそうだ。
「いないぞ」「どこへ行った?」「おい!バトラーをこっちに連れて来い!」村人達の怒号が聞こえる。
「貴様!香織はどこだ?どこに隠した?」
(やっぱり…わたしを探している…なんで!?)
「隠した?何の事です。いきなり入ってきて、この無礼者が!早々に立ち去りなさい!」
「しらを切りやがって。貴様ぁ!言え!言わないかぁー!」
「ガン!!」
「ぐあっ…」
鈍い殴打音と、執事らし人物の呻き声が聞こえた。
(あぁ、バトラーさん…)
私は恐怖と緊張で、心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい、激しく鼓動を感じていた。
「お父様、私…わたし…」
嗚咽を繰り返しながらアランを見た。
「大丈夫だ、香織。心配するな」
そう言うとアランはヴァレットに向かってこう続けた。
「ヴァレット!先に進むぞ!どうやらまだ奴らに、この隠し通路の存在はバレてないとみえる。バトラーが、身を挺して稼いだ時間を無駄にするな。
私もお前達同様、彼の判断に今まで一度も疑問を持った事がない。私も全幅の信頼を置いている。バトラーはお前達チームの最高のリーダーだ」
アランのその発言は士気が低下しかけていた私たちに一条の希望の光を灯してくれた。
ヴァレットはアランの発した言葉を受け、素早く背筋を伸ばし表情を引き締め、静かに「ヴェリー・グッド、サー」と言った。




