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第52話 私の生涯は9年である

 私の生涯は9年である 。100年前……魔女狩りのように糾弾きゅうだんされたのだ。その結果、集団暴行を受け、父のアラン・エヴァンスと一緒に屋敷で殺された。


 アランは、イギリスの貿易商人だ。エヴァンス家は、祖父のリチャードの代に事業を拡大する為に来日した。


 使用人のうち、フットマンのキヨシとキッチンメイドのハルは、現地で雇った日本人だ。


 この二人は使用人の中でも特に私と歳が近い事もあって、大の仲良しだ。まぁ近いと言ってもキヨシお兄ちゃんは19歳でハルお姉ちゃんは18歳だから、私とは倍以上離れているわけだけど…。 


 そして、これは私達三人だけの秘密であるが、この二人、実は将来を誓い合った仲だったりする。大好きな二人なので、そうなってくれたら本当に嬉しいと思った。


 私が生前住んでいたこの屋敷は、リチャードによって建てられたものだ。なんでも自身の莫大な財力を費やして1883年に、実に8年の年月を掛けて完成させたらしい。


 当時、東北のしかも山奥にある寒村に建てられたこの屋敷は、村の人々から見て、とても異形な存在だったのは間違いないと思う。


 そしてそれから42年後の1925年、そこは、私たち親子が殺された惨劇の舞台になったのである。


 母の佐和子は恐里家の優秀な巫女だ。ハーフである私の瞳は青い。理不尽だが、それが糾弾された理由である。


 アランと佐和子の関係が、村人から歓迎されることはなかった。佐和子は恐里の生家に隔離され、一緒に暮らすことはできなかったが、それでも隙を見つけて、ちょくちょく会いに来てくれた。


 当然、屋敷が建っているこの寒村地域は、アランの持つ財の恩恵を少なからず受けていたため、その存在に不満はあるものの、あからさまに無碍むげにもできない現状だった。


 だが、榊家に突如現れた『無法者』の進撃を契機として、その秩序は呆気なく崩壊した。


 その男は、とても常人とはかけ離れたパワーで、村を壊滅状態まで追い込んだのだ。傍若無人ぼうじゃくぶじんに暴れ回るその姿は、まるで得体の知れない『なにか』に取り憑かれているみたいだったという。


 のちに、その『なにか』の正体が分かった。


 私が殺される40年前の1885年当時のことである。総合的な実力の側面からみても、恐里一族次期28代当主に最も近い存在だと言われていた『恐里銀次』という男がいた。だが、同族のやっかみを受けて殺されたのだ。


 つまり、『なにか』とは、その銀次の屍から誕生した怨霊だったのである。


 銀次の、他者の追随ついずいを許さない圧倒的な霊力に嫉妬した者たちが、歴代当主は女性でなければならないという閉鎖的な考え方の影響もあり、この男に集団暴行を行い殺害したのだ。


 …そして数日後、悲劇の運命がドアノッカーの音とともに訪れた。私達は、暴徒化した村の人達の襲撃を受けることとなる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ー2020年 秋。東北地方寒村地域、洋館大食堂内ー


「なるほど。つまりお前さんは、そのとばっちりで殺されたってわけだ」


 恐里銀次は、レフェクトリーテーブルの上座で、大きなアームチェアに腰を深く沈めている。足をクロスに組み、右手の人差し指を眉間にあてながら、下座のサイドチェアに腰掛けている私を直視していた。


 …ああ、そうだ。あれから95年か…。霊になってからの方が、生前に比べて10倍以上生きてるぜ…


「おいおい!お化けのくせしやがって、生きてるはないだろ」


 銀次は呆れたように両手を広げ、首を振る。そして「だがお化け歴で言うなら、俺の方がお前さんより40年も長く生きてる事になるぜ?」と続けた。


 …ちっ!…


 私は舌打ちをした。銀次は、何かにつけてマウントを取りたがる、いけすかない野郎だ。


「ところで、香織。お前、今頃になって生前の話をするなんざ、どういう風の吹き回しだ?今まで、喋った事なんてねえじゃねえか。何か思い出したのか?」


 …銀次、お前のその身体って、生前のお前の姿だろ?どうやって再現してるんだ?…


「あぁ!?いきなり何言ってやがる」


 …どうやって、再現しているのかって聞いてるんだ!!教えてくれ!!…


 銀次は眉間に添えていた指を、私に向かって差した。


「おい、香織。なぜ貴様如きに教えなきゃならない。そんな事して、何か俺にメリットがあるのか?それと、それが人に物を頼む態度か?まったく世間知らずのお嬢様は、これだからタチが悪い」


 …なんだと!!…


 私は思わず椅子から立ち上がった…


 その様子を見て銀次は、私を小馬鹿にしたように「ぷっ!」と吹き出した。


「香織。お前さぁ、さっきから霊体のくせして椅子に座ったり、立ったりしてるけど、なんかその行為に意味あんの?そもそも幽霊なんだから、椅子になんか座ることなんかできねーよなぁ?」


 銀次の言うことは、もっともだ。そんなこと分かっている。だが、最初はただの霊球だった私だったが、最近では、それを薄っすら生前の身体の輪郭にすることができるようになったのだ。


「霊球から霊体に昇格して、欲が出たか?」


 銀次は、またしても人を小馬鹿にした。


 …だから、お前みたいに椅子に座れるようになる方法を聞いてるんじゃねえかよ!!私の両親と一緒になぁ…


「お前の両親だと?……なるほど。そう言うことか」


 銀次の目が一瞬、輝いたように見えた


 私と父アラン・エヴァンスは、95年前、この屋敷で村人に殺された。その数日後、母の佐和子もまた、同じように村人から暴行を受けて死んだ。


 私の望みは、当時、叶わなかった親子三人での現世での生活。だが死んでしまって肉体のない私達には現実問題、到底不可能な話である。だが、生前の姿を再生できる銀次なら……。


 …銀次…お前にメリットがあれば、教えてくれるのか?…


「ほう…そう来たか」


 銀次はそう言うと、私の頭のてっぺんから足の先まで舐め回すように品定めをし出した。


「いいだろう。教えてやるよ」


 …本当か?…


「ただし!条件がある。それがクリアになれば、お前の願いを叶えてやる」


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