第45話 上には上がいるんだよ
大成の指が切断された光景と聖也の告白が、私の暴走し始めた意識を、強烈なショックで引き戻した。
気がつくと、周囲に放っていた真空のカッター(かまいたち)は完全に収束していた。
「大成……」
一瞬、虹色のオーラが収まり、冷静になっていくのが分かる。
「ご…ごめん。あなたを傷つけるつもりは……」
「フン…分かったんならいい。その殺戮技は、銀次に向けて使え。お前がそのクソ科学者の道具に成り下がるかどうかは、銀次を倒した後、俺が見極めてやる」
大成は、失った指の痛みよりも、私の自我が戻ったことに安堵したようだった。
…大成…お前、さっき私を守るために,盾になって…
「…知らんな。覚えはない」
「…ったく。大成、お前見た目はガキなのに、友美のことを孫って言ってみたり、アランみたいに悟ったようなことも言うし、調子狂うぜ」
…聖也、それは仕方がない。私もそうだが、大成も生前よりも死んでからの期間の方が圧倒的に長いんだ。魂も年季を重ねるんだ…
「なるほどな。霊体の香織が口が悪かったのは、そのせいか…」
「香織さん…か…」
…友美さん、どうかしたか?…
「アラン、ごめん。私、いろんな大事にしなきゃいけないことを忘れてた」
険しい顔つきで私を直視していた大成が、初めて穏やかな表情を見せた。
「心配掛けさせやがって…バカ孫が。どうやら、クソ科学者の精神をコントロールできるようになったか…」
笑みを浮かべ、深く頷いた。そして、自我とリチャードの 知識を統合させた、真の究極のハイパーとして、最終決戦の号令を発する。
「役割は変わらない。アラン、大成の腕の修復に集中して。銀次の隠し球に備えながら、私たちが勝機を掴つかむためのバックアップをお願い」
…分かった…任せてくれ…
私は頷くと聖也に視線を移す。
「聖也、あなたは私と一緒に来て!銀次本体に仕掛けてくるであろう全ての不確定要素を、あなたのシルバーコードで牽制して!」
「了解だ!」
「行くわよ!」
統合された自我の元、白金の翼をさらに大きく広げた。その霊圧は、苧麻の怨念と霊体粒子で強化されたウッドチッパーカーテンの構造を完全に支配下に置いていた。
「来な!愚かなコピーどもめ…」
カーテンの奥から、銀次の、それでもまだ余裕をみせた声が響く。
私はデコイが戻ったルート、すなわち銀次本体へと繋がる霊的導線を、正確に解析していた。そして、その導線に向け、収束された霊力を放った。
それは、破壊ではなく、霊的分子構造を解析した上での、霊的粒子の結合を断つための、精密なパルス攻撃だった。
「シュンッ……」
音もなく、カーテンの中心に、私と聖也が通過できるだけの完璧な円形の穴が開いた。
「マジかよ……!科学というより、もはや神業だぜ…」
「行くわよ、聖也!」
友美と聖也は、その円形の穴を通り抜け、カーテンの奥にある広大な空間へと飛び出した。
そこは、巨大な鍾乳洞のような空間であり、中心には黒曜石のオーラを全身に纏った銀次の本体が、実体化して立っていた。
彼の背後と周囲には、巨大なシルバーコードが、いつでも発動できるように唸りを上げ、空間そのものを捻じ曲げている。
「よく来たな、榊友美。まさか、こうもあっさり防壁カーテンを潜り抜けるとはな…」
「銀次か…どうやら本物らしいな。デコイとか、もうウンザリだ」
「おい、友美。どういうことだ。銀次の野郎、あれって、完全に生身の身体じゃないのか!?」
「いや、銀次が怨霊である以上、それはない。あれは、霊気を具現化して霊体に纏っているだけだ」
「じゃあ、なんであんなに…」
「聖也、まだ分かんねぇのか…てめぇと俺じゃあ、天と地ほどの実力の差があるからに決まってんじゃねぇか」
「フン!その割には、人質までとって用意周到じゃないか。銀次さんよぉ…」
「何の話だ?」
「とぼけんじゃねぇぞっ!姉貴を…伽耶をどこに隠しやがった!!」
「姉貴だと?クックック…聖也、てめぇ…榊友美に近づき過ぎて、つまらん情にでもほだされたか?」
「なんだとぉ…」
「力ずくで聞いてみたらどうだ?」
銀次のその言葉に反応したのは、聖也ではなく私のほうだった。
「では、そうしよう」
そう言うと私は自身の霊気を圧縮し、それをエナジーに変え、瞬時に突発性のサイクロンを引き起こした。
私の目の前で渦巻く高エネルギー反応に、銀次の表情から一瞬にして余裕が消えた。
「銀次…お前さぁ、どんだけ長い間、自分のこと最強だと思ってたのか知らないけど…」
「きっ、貴様ぁーっ!榊友美ぃーっ!!」
「何が貴様だ。銀次、お前の時代は、たった今、終わった。もう気付いているんだろ?上には上がいるんだよ」
(聖也…聞こえるか?)
(友美…友美か?凄いな、お前っ!銀次に啖呵切るなんてよぉー)
(ああ…あれはハッタリだ)
(…はっ?…ハッタリだとぉ!?)
(だが、それでも銀次の表情から余裕が消えた。致命傷にならずとも、このサイクロンは奴にかなりの大打撃を与えると思う)
(じゃあ、なぜそうしない!)
(決まっているだろう!伽耶ちゃんを救い出すためだ!それに追い詰められた銀次は、必ず伽耶ちゃんを人質として前線に出すはずだ)
(そうか、まずは伽耶を安全に確保することが最優先事項ってことだな)
(そうだ。このまま銀次を葬り去ることは簡単だが、肝心の伽耶ちゃんの居場所が分からなくなる。
…頼まれてくれるか?)
(了解だ。まずは伽耶を安全に確保することが最優先事項!シルバーコードで銀次の周辺を探ってみるぜ…)
(頼む)
私は内心、安堵する。
(さてと、ここからだな…)
そして、さらに銀次に向かって挑発をした。
「銀次、お前の最強伝説は,たった今,終わった。究極のハイパーである私が爆誕したからだ!」
「大きく出やがって…ふざけるなよ、榊友美。てめぇはピエロだ。俺の完成形には、リチャードの人体実験も、てめぇの被験者的立場も、全て必要不可欠な媒体なんだよ。その分際のくせに,調子こきやがって…」
「私がピエロ…だと?」
「そうだ!究極のハイパーの真の適合者は、この俺だ。そして、俺の能力を貴様らごときコピー共が凌駕するなど、あっちゃいけねぇんだよ」
銀次は、両手を広げ、全てを飲み込む漆黒の霊力を解き放った。その霊圧は、地下施設全体を揺るがすほどの、巨大なものだった。
「だが、所詮、その程度か…」
「その程度だと?…随分、舐めたことを言ってくれるじゃねぇか…」
「いいや、銀次。本当のことだ。お前は、この狂気と進化の世界では、もはや過去の一齣にすぎない」
わたしは、そう言いながら、ディバイン・ファランクスの翼を極限まで温存する。さらに、そのサイクロンの気流を高速回転させ、自分を起点に銀次のいる方角へ狙いを定めた。
「シュン!シュン!シュン!シュン!」
激しく渦巻く気流が、大気を飲み込み、辺りに空気を切り裂く音をランダムで響かせる。
「ジタバタするなよ…。一瞬で消滅させてやる」
「榊友美!てめぇぇぇぇッ!!」




