第43話 忘れたのか
私の強い決意を受け、リチャードは即座に融合プロセスを開始した。
「榊友美、首と両足首は自分で巻け!おい、聖也!お前は、こっちに来て彼女の両手首に、それぞれ巻き付けるんだ。急げ!」
聖也は、アランの側を通り過ぎがてら悪態をついた。
「アラン…リチャードの野郎、あれが人にものを頼む態度かっ!偉そうにしやがって…」
…何を言っている?聖也、お前と一緒ではないか…
「チッ!言ってろ」
舌打ちを鳴らしたあと、聖也はリチャードと向き合った。
「おい!リチャード、本当にお前に任せて大丈夫なんだろうな!」
「フン!そんなもん、やってみなきゃ分からん」
「なんだとぉーっ、お前、そんないい加減な気持ちで指示出しやがったのかっ!!」
「相変わらず、生意気な若造だ。いいか!探求の成果とは、確率とかの曖昧な数字では決して挙げられるものではない!!
現時点で、いくら確率が良くても、理想としている結果が、そう易々と出るとは限らん。そう!例え100パーセントでもだ!!」
「…100パーセントでも出ないだと?…チッ!言ってることが、すでに破綻しているな」
「聖也、大丈夫よ。私はリチャードのアーカイブを所持してるから分かるの。
この男…このリチャードって男は、倫理観のカケラもない最低のゲス野郎だけど、偏屈で異常とも言える探究心があるわ
そして、こと研究に関しては決していい加減な気持ちでやってるわけじゃない」
「随分なこと、言ってくれるじゃないか…榊友美。だが、褒め言葉として受け取っておこう」
「ケッ!このマッドサイエンティスト(狂気の科学者)が…」
そう言いながら。聖也は私の両手首に一本ずつ手拭いを巻き付ける。そのあと、彼は大成へ目を向けた。
大成は銀次のアバターに対して、斜に構えて威嚇していた。ウッドチッパーカーテンによって粉砕された片腕は、霊気によって徐々に回復はしてるものの、実体化してないため、全回復には、かなりの時間を要する。
「友美、大成の腕のダメージはどうなんだ?見るからに、完全再生にはかなりの時間がかかりそうだな。だがなぜ実体化しないんだ?」
「それは多分、大成が、今まで実体化してダメージを回復するという概念を持っていなかったからだと思う。今まで誰も彼に教えなかった…もしくは概念を持っていないために、知ろうとも思わなかった。つまり…」
「正真正銘の一匹狼ってわけか…」
私は、五枚全ての苧麻製の手拭いを、要所要所に巻き付けた。そこから血潮のような濃い霊気が滲み出し、私の魂を締め付け始める。
「うっ……!これは……!!」
「堪えろ、榊友美!…苧麻の怨念が、お前の霊力の導管となる!そして、私の核が、それを通じて制御回路を敷く!!」
私が激しい光と苦痛に包まれる中、銀次は好機と見て、巨大シルバーコードを動かした。
「茶番を!!究極のハイパーの真の適合者は、この俺だっていうことを教えてやるぜ!」
大蛇のようなコードが、唸りを上げながら大成から友美へとターゲットを変えた。
だが、大成は、一瞬の隙をついて、荒れ狂う大蛇の背後をとる。その先端に繋がっている銀次のアバターの首根っこを掴んだ。
「待て、銀次!貴様の相手は、この大成様だっ!!」
「むっ!!」
アバターは大成の腕を振り払うと、ゆっくり振り返る。そして、大成を視界に捉えると、不敵に口角を上げた。
「大成よ…。貴様も聖也と一緒で、哀れな俺のコピーだ。分け与えてやった俺の能力を、てめぇの実力だと勘違いしてやがる」
アバターは大成の砕け散った片腕に目をやった。霊力で徐々に回復をしているが、完全再生には程遠い。
「中途半端な再生能力だぜ。そりゃそうか!俺の超回復力までは、貴様らなんぞには与えてないからなぁ」
「そんなこと、百も承知だぜ。俺は不器用だからな。銀次!少しでも時間を稼がせてもらうぜ。孫のためによぉー!」
「孫のためだと?…フフッ、知ってるぜ、離脱した貴様が、俺じゃなく榊友美を攻撃したのは、奴の戦意を無くすためだったってことをなぁ」
「……………」
「どうした、図星か?…しかし、泣けるねぇ。つまり、それは榊友美を守るためだったんだろ?」
「…能力開花が終わるまで、お前を孫には近づけん!」
「究極のハイパーのことを言ってんのか?フン!無駄だ!そのための媒体は、ほとんど全部、エーテル・マニュピレーションに使わせてもらったからなぁ」
「関係ない。銀次!お前をこれ以上、進ませねぇ…」
「いいぞ、榊友美!あと数秒だ!この制御回路が完全に君の魂の深部に定着すれば……!!」
「うおおおおおぉぉぉーっっ!!」
苧麻が不足している分、私は自らの霊力を最大限に上げた。そして、ついにその時はやってきた。白金の翼とリチャードの霊体全体が虹色の光線を放つ!
瞬間、私を中心として、地下施設が強烈な光に包まれる。そして光の収束と共に、その脈動感が私の内に閉じ込められた。
「こっ、これはっ!!」
「友美の霊圧が…消えた!?」
…いや…聖也、違う!これは規格外すぎて、もはや観測できないレベルだ…
アランの脳内での戦慄が響く中、私は自身に収束した脈動を感じ取っていた。体中を駆け巡るリチャードの知識は、私の思考とは分離できず、一体化していた。
(これが、究極のハイパー……)
私の視界は、もはや世界を霊的な波長図として捉えていた。周囲に渦巻く黒曜石の霊気も、大成を締め付ける巨大なコードの粒子配列も、そして霊的カーテンの奥にいる銀次本体の霊魂の脈動も、すべて計算可能な攻略データとして解析できる。
ディバイン・ファランクスの翼が虹色の光を放つ。
その白金の翼を全開に広げたと同時に、一瞬で私の身体が銀次のアバターに肉薄する。
「な…なんだと…?」
アバターの顔色が変わった。
私は、五指を伸ばし、そっとアバターの胸部に突き立てた。そしてゆっくり押し込む。すると、まるで何にも干渉されていないように、すんなり手首までアバターの胸部に収まった。
「なっ…なにぃーっ!!」
アバターはその様を信じられない表情で見ている。
「…お…おい、榊友美。お前は一体、何をやっている?」
「物質の密度を同期させた。わたしにも理屈は分からん。文句があるなら、リチャードに言ってくれ…」
私は構わず、アバターの中に入っていった五本の指を、ゆっくり閉じた。そう、握り拳を作るみたいに。
すると突然、アバターが悶絶し始めた。
「ぐっわぁぁぁ…ぁぁああぁ…」
「どうだ、苦しいだろう?今、私はお前を形成する核を握り潰している最中だ」
「核…だとぉ!!」
「本来なら、これを握り潰せば、アバターであるお前は消滅し、カーテンの向こうにいる銀次本体も死ぬ。だが、そうはいかないことも知っている」
「なっ…何者だ…」
「忘れたのか?……榊友美だよ」
「きっ!貴様ぁぁーっっ!!!!」
「バカ孫が…やっと完成したか…」




