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第26話 思わぬ発見だ

「リチャードの魂が、シーカーズ・センスで守られているって…まさか、銀次っ!!」


「いや、それはあり得ない。俺の中にある陽炎の鎧のコピーデータは全て把握している。奴にシーカーズ・センスの能力はない」


 聖也のシルバーコードから、彼のデータは全てアーカイブ化されている。私も陽炎の鎧のデータを検索してみた。だが、聖也の言うとおり、奴にシーカーズ・センスの能力はなかった。


(だが…仮に、それが、聖也がコピーとして誕生した以降に発現していたら…)


 リチャードが自身の首を、両手を添え、支えるようにしてこちらに歩いてくる。するとものの数秒で胴体と繋ぎ合わされたのか頭部が安定した。


 骨と肉が強引に噛み合い、死したはずの頸椎けいついが異様な音を立てて固定されたのだ。


 その不気味さに、私の意識は目の前のリチャードに強制的にシフトさせられた。


「…マジか…?くっついたってこと?」


 私はいったい何を見せられているのか、分からなかった。まるで映画の特撮シーンを観ている感覚だ。


「…友美、ディバイン・ファランクスって分かるか?」


「…はぁ?イキナリなによ?」


 唐突な聖也の発言に、思わず苛立った。


「お前がまだ幼い頃に、銀次に仕掛けた技だ。覚えていないか?」


「こんな時に何いってるの?…今はそれどころじゃ…」


「いいから答えろ!!覚えているのか!いないのかっ!!」


 聖也の気迫に圧倒され、その瞬間、私の心拍数が跳ね上がった。思わず身体が硬直して、喉が詰まる。


「覚えているもなにも……」


 そのシチュエーションこそが私のトラウマである。

 さらに、今朝の銀次のセリフが頭をよぎる。

 その時、奴は[俺のことを覚えてなさそうだな]と言った。


(あの幼いころの心霊現象は……)


「……やっぱり、銀次の仕業だったんだ。でも、本当に私が銀次を…!?」


「…やはり、覚えてないか。どうやら極限状態の中、無自覚に発現したらしいな。だが自覚し、そして認識しろ。能力のコントロールは、そこから始まる」


「私が無自覚に発現って…それが…」


「そうだ。ディバイン・ファランクスだ。友美、お前には、この技を意のままに操れるようになってもらう」


「聖也。でもなぜ、あなたがあの日のことを…」


「忘れたか!それは全て銀次…陽炎の鎧の記憶だ」


「なるほど、神聖な力による絶対的な防御または攻撃…か」


「えっ?」


 私は声のする方へ振り向いた。


「銀次を追い払うとは、大したスキルだ。榊友美…やはりお前は天性の素材だ。私の研究材料に最もふさわしい」


「リチャード!貴様っ!!」


 聖也が臨戦体制を取り、霊球弾を生成しょうとするが、シルバーコードに貫かれている霊体は残りひとつになっていた。


「ちっ!これだけじゃあ…」


 その時だった。佐和子の周りに異常なほどの霊気が放射された。


 …さ、佐和子っ…


 アランは彼女とは反対に、薄暗く、不安を帯びた、今にも消えそうな光を身に纏う。


「また、お前は性懲りもなく、実験の被験者探しか…」


 …佐和子、お前…


「おい、聖也。私の援護をしろ!このイカれ狂ったサイコ野郎の息の根を止める。お前はそのチンケな霊球弾とやらで弾幕を作れ。私がその隙をついてリチャードを破壊してやる。いいなっ!!」


「なんだと貴様!ふざけやがって!俺を侮辱する気かっ!!」


「猿真似は、所詮…猿真似。本家との違いをそこで堪能してろ」


 佐和子は、霊魂を音速でリチャードに放ち、エーテル・マニピュレーションを発動するかと思いきや、なんと実体化したその姿で突っ込んでいった。


 彼女は[時空の断層]を発動!一瞬で距離を縮めると同時に、霊力で硬化させた手でリチャードの手首を掴み、それを捻り上げる。さらに肘を支点としたテコの原理の応用で、奴の二の腕をめがけ、超速のアッパーカットを打ち込んだ。


 するとリチャードの片腕はメキメキと鈍い音を立てて、関節とは真逆の方向へ折れ曲がる。そしてその勢いのまま、佐和子は手刀に霊力を一点集中させ、リチャードの腕の腱と筋を切り落とす。そして彼女は、間髪入れずに、もう片方の腕も同様に切断。


 そして、切断された二本の腕を、両手でそれぞれ掴むと聖也に向けて投げた。


「蒸発させろ」


 聖也はそれを受けて、霊球弾を放つ。霊球弾は彼の残留思念の命めいを受け、まるで意志を持つかのように数十発の霊弾に姿を変えた。そして投げられた二本の腕に集中砲火を浴びせ、その高い熱量でそれぞれ蒸発させる。


「佐和子!貴様っ!弾幕を張るんじゃなかったのかよっ!!」


自惚うぬぼれるな。まさか一体の霊体で弾幕が張れると思ったか」


「なんだと!!」


「落ち着け!リチャードを侮るなよ。自我があり、処理能力に長ける知性派のゾンビだ。つまり、奴にはわざとフェイクな情報を与えたんだ。敵を騙すには、まず味方からだ」


「佐和子…お前…」


 …どうした、聖也。顔が赤いぞ…


「やかましい。アラン、余計なことだ」


「凄い…。佐和子さん、こんな状況下でも冷静にいられるなんて…」


「さて、厄介な腕は排除した。これで、頭部を固定して首を本体に接続するなど、ふざけた行為はできないはずだ」


「…そうかな?」


 リチャードはそういうと、全身を発光させた。そして全身を包み込んだ光が、彼の両腕に集約されていく。

 さらに集約された光が、リチャードの切断された両腕として、瞬時に再生された。


 …ばっ…馬鹿な!!…


「なんなんだ、こいつ!両腕が再生しやがった」


 聖也が当惑する傍らで、佐和子が、冷静にその現象を見極める。


「…霊圧だ。身体全体の霊圧を上げて、そのエネルギーをピンポイントに腕に集中させたんだ。実際の肉体が再生したわけじゃない」


「ええっと、なんだっけ?…ああ、そうだ!」


 リチャードは独り言のように、それを呟いたあとに…「時空の断層!!」と叫んだ。


 少し離れた場所にいたはずの彼が、再度、私との距離を詰めてきた。目の前に現れたリチャードの腕は、薄黒くて半透明だったが、明らかに腕の形をしていた。


「榊友美、私と一緒にこい。そうすれば、他の奴らには危害を与えない」


「ふざけないで!!…それより、あなたのその腕って…」


「リチャードの野郎!」


 聖也が迎撃に向かう。


 リチャードは、その片方の腕で私の胸ぐらを掴んだ。見た目は半透明なくせして、掴まれた感触や質感は、まさに生身の人間そのものである。


「ぐっ…。苦しい…」


「時空の断層…お前らが付けたネーミングか…。とりあえず意識して声で発したら、発動したぞ。念じるより声に出した方が発動しやすかったな。思わぬ発見だ」


「くそおぉーっ!!」


 リチャードに向かって飛び出した聖也に対し、奴は自身の左手の親指と小指以外の指を、同じく自身の右手に握らせ、迎撃の準備に入った。


 聖也がリチャードの間合いに入った瞬間、彼は右手で握った左手首ごと抜き取り、誠也の前に突き出した。そのさまはまるで西洋のサーベルの取手を握っているようである。


「伸びろ…」


 リチャードが呟いた。すると切り離された彼の左手首の根本から霊気で固められたソードが聖也めがけて、一気に伸びた。


「なっ、なにぃーっ!!」


 具現化した霊気のソードが聖也の横っ腹に突き刺さる。


「ぐっ…ぐほぉ…っ!!」


 聖也が血反吐を吐いた。


「聖也ぁーっ!!」


 私は…思わず叫んでいた。


(えっ!聖也が…やられた…の!?)


 目の前で起きている出来事が突然すぎて、思考がまったく追いつかなかった。だが、これが最悪な事態を招くことは感覚として理解できた。


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