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第25話 真の適合者

「リチャードって…アランのお父さん…?」


(状況が飲み込めない。何が起こってる!?)


「そうだ。そして、佐和子が奴を殺した」


(まさか!なんで佐和子さんが!)


「…って、えっ!ちょっと待って!その前に、なんでそんな昔の人が生きてんのよ!?まさか、この人もハイパー生命体じゃないでしょうね?」


「落ち着け、榊友美。俺の記憶をアーカイブしてるんだろ。まぁ、表面的な事しか分からんがな…」


「あっ!そうか!よし、分かった」


 私は佐和子を一瞥すると、目を伏せた。そして小さくひとつ、深呼吸をする。聖也の記憶から佐和子の記述を探り当てた。                                           


[生贄][地下施設][人体実験]…


 そして、最悪の中で差し込んだ一筋の希望の光。それは…[アランとの出会い]


「生贄…人体実験って…これ、本当にあったことなの?信じられない」


「もうそこまで、辿り着いたのか。さすがだな。俺の知ってる佐和子のルーツは、あくまでも表面化された情報だ。だが、リチャードとの関係を知るには十分だ」


 私はショックのあまり、その場にうなだれてしまった。当時の佐和子の心情を考えると、心臓が内側から締め付けられたような息苦しさを覚える。


 佐和子は、決して自ら望んで[ハイパー生命体]になったわけではなかったのだ。


「お前が榊友美か?」


(…えっ?)


 反応がワンテンポ遅れた。


 顔を上げた時には、すでにリチャードは私の目の前に高速移動していた。

 実際に触れたわけではないが、間近で見るリチャードの皮膚は、疑う余地なく生きている人間そのものだった。


「まずい!!」


 佐和子がリチャードを迎え討とうするが、それをアランが制した。


 …待て、佐和子。どうも様子が変だ。リチャードは友美さんの命を狙ってるわけでは、ないのかもしれない…


「…どういう意味?」


 佐和子の疑問に、私も同調した。するとリチャードが口を開く


「まさか、私の血筋がこの時代に残っていようとは…」


(私の血筋…って…どういう…)


「せっかく、『真の適合者』を育成できたのに、榊圭佑が、そのお前を連れて、この村を逃げ出すとはなぁ…」


(私が…真の適合者?…育成?)


「チッ…友美、どいてろ!!」


 聖也はそう言うと、私を庇うようにリチャードとの間に割って入った。


「おい!お前、何が目的だ。まさかとは思うが、この女じゃねぇだろうな…」


 彼は私の方へ顎をしゃくった。


「聖也か…。年配への口の聞き方が、なっていないな。ガキのくせに、随分生意気なやつだ」


「やかましい。大きなお世話だ。いいからとっとと質問に答えやがれ。返答によってはタダじゃおかない」


「ほう?なめた奴だ。たかが銀次…いや陽炎の鎧のコピーのくせしやがって」


「貴様っ!!!!」


 聖也はシルバーコードに貫かれている霊体から、先ほどと同じ大きさの霊球弾を、同時に二つ生成した。さらに両手を、リチャードに向けていっぱいに伸ばす。


「見下しやがって……。オリジナルにこんな芸当ができるかよっ!!」


「フン!くだらん」


「なめるなぁーっ!!!!」


 聖也は二発の霊球弾を時間差で放った。一発目はリチャードの頭上ギリギリをかすめ、背後に回ったところで急停止したかと思うと、即、バックスピンで逆回転。さらに回転しながら、瞬時に聖也本体と寸分違わぬ姿に変形する。


「あれは!!」


 私は咄嗟に佐和子を見た。彼女は真剣な眼差しで聖也のそれを直視している。少し驚いたのか目を丸くさせた。


 回転の終盤、その反動を利用し、擬態化した聖也の霊球弾は、背後から右足をムチのようにしならせ、リチャードの右側の首筋にヒットさせる。その凄まじい攻撃に、彼の首が左に弾け飛ぶように折れ曲がる。


 続いて放たれた霊球弾も、リチャードに直撃する寸前で、初弾と同様、同じ形態に擬態した。


 そして、その二人目の霊球弾の聖也が、折れ曲がったリチャードの反対側の首筋に、ピンポイントでカウンターの蹴りをぶち込む。


「グギッィィ!!」


 鈍い断裂音があたりに響いた。そしてリチャードの首は支える土台を失う。首の皮も腱も、耐えきれず断裂を繰り返し、結果的に彼の首は宙ぶらりんで、だらしなく胴体にぶら下がっただけの状態となった。


「…えっ?」


 私は、あまりにも怒涛の展開に言葉を失った。


 膝から崩れ落ちるリチャード。それと同時に二つの擬態化していた聖也の霊球弾が消滅する。


「時間切れか。しかし…フン!ざまあねえな。思い知ったか」


 だが、リチャードは倒れない。その状態を維持していた。


 聖也が意気揚々としている中、ひざまずき、微動だにしないリチャードを見て、アランが疑念を浮かべる。彼は浮遊してリチャードに近づいた。


 淡い青色の光は、彼の疑念の深さに比例して、紺色に近い発光色となる。


 …佐和子、妙だと思わないか?…


 佐和子はアランの問いの意味を理解していた。彼女もまた、その違和感をリチャードに対して持っていた。


「そうね、アラン。でも普通なら即死よ。けど、首の骨を折られたにも関わらず、奴からは生体反応がかすかだが感じられる」


「なんだと…?」


 佐和子の発言に聖也が反応した。そして、彼はさらにリチャードに意識を集中させる。するとリチャードの身体から、徐々に霊波が発せられ、それは瞬く間に全身に広がっていった。


「霊力だ!こいつ…リチャードの奴、いきなり霊力が上がり出しやがった!」


 すかさず、アランが何かを見つけたようだ。


 …聖也!リチャードの胸元だ。白衣の隙間に何か布が見える…


 彼は、アランの指摘でリチャードの胸元に目を凝らす。そこには,包帯の如く、全身に布がぐるぐる巻きに施してあった。


「あれは苧麻からむしか!!」


 …ああ。おそらくそうだ。そして、リチャードは苧麻を霊力の点火剤して利用している…


「なるほど。つまり生体反応というより、霊力が原動力というわけか。ならばアラン!すぐに下がりなさい!それ以上、リチャードに近づかないで!!」


 …佐和子、まさか…


「奴が動くわ」


(…動く?首の骨が折れている状態で!?)


 私は再度、倒れているリチャードの動向を注意深く窺ったが、そんな様子は感じられない。だが、アランは何かに気付いたようだった。彼は、佐和子の忠告通り後退する。


 そして…ほどなくしてリチャードは、おもむろに立ち上がった。


「えっ!マジかっ?立ち上がった」


 そんな私を嘲笑あざわらうように、リチャードは、運動前のストレッチでもするかの如く、自身の首を前後左右に振ったのである。宙ぶらりんになった彼の首は、まるで振り子のように時間差で身体の後を追っていた。


「チッ!気味が悪い光景だぜ」


 …なるほど。どうやら私たちは、とんでもない勘違いをしてたようだ…


「そうね。そもそも奴の肉体が、初めから機能していなかったとすれば、全ての辻褄が合うわ」


「…どういうこと?」


 私の疑問にアランが答えた。


 …つまり、リチャードは自らの魂で、とっくに死んでいる自分の身体に憑依している…もしくは、させられている可能性が高い…


「それは…死体に憑いたってこと?自分の…?」


「友美、奴の魂にシーカーズセンスをシンクロさせてみろ? そうすればわかるぜ。俺はすでに試みた。そうだろ?アラン」


 …ああ、私も今しがた聖也と同様、リチャードの魂に同調させようとした。だが、彼の魂は、すでに同じような能力で保護されていたんだ…


「同じような能力って、まさか…」


 私は、リチャードの方へ視線を移し目を閉じた。

 自身の意識を彼の魂に重ねてみる。だがそれを覆い尽くす強力な霊膜に弾かれた。


「これって…シーカーズ・センス!! えっ!?いったい、誰の…!?」


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