第24話 おっ…お前は…まさかっ!!
休憩所を出て左方向に目を向けた。間仕切り壁で仕切られた、いくつかの部屋のまわりでうごめく霊体が、先ほどよりも明らかに多くなっている。
「え!!ちょっと…待って!かなり、増えてるんだけど…」
私はその数の多さに圧倒されて、思わず足を止めてしまった。…が、その脇を聖也が颯爽と歩を進める。
「聖也!!」
私の呼び掛けに、彼は一瞬、こちらに視線を向けたが、歩を止める事をしなかった。
…我々の霊圧に反応したか、どんどん増えているぞ…
「アラン、友美さん…私の後ろに隠れて」
…どうするんだ、佐和子…
「霊体離脱の武器転換…。いざとなったら、この技で三下の霊体群なんざ、一網打尽にしてやる」
…エーテル・マニピュレーションか…
「ん?アラン、今なんて…」
…ん?あぁ…。直訳すると、霊的物質の操作って意味だよ。友美さん…
「へぇー、いいわね。そのネーミング。使わせてもらっていい?」
…もちろんだ。佐和子。気に入ってもらって嬉しいよ…
「はっ!そう言えば聖也はっ!!」
私の叫びとほぼ同時に、聖也の声が霊体の群衆の中で反響した。
「…アストラル・プロジェクション…」
「えっ!!」
聖也が、技名を発した直後、群衆の中を縦横無尽に飛行するシルバー・コードが見えた。それは大気の摩擦で発光を繰り返し、まるで雪の蛇…スノースネイクのようだ。
「おい、佐和子…お前の出番なんかないぞ。一網打尽にするのは、この俺だ。お前は、そこで指でもしゃぶってやがれ」
聖也の幽体は次から次へと霊体を貫通してシルバーコードに繋いでいく。例えるなら、一本の糸に幾つものビーズを通していくみたいだ。
そのあまりの速さに、まるでスノースネイクが次々と霊体を飲み込んでいるような錯覚に陥る。そして、そのほとんどが、霧のように白い半透明の霊体だ。
「凄い…」
スノースネイクが舞い踊る幻想的なビジュアルに、一瞬、現状を忘れ魅入ってしまった。
「なるほど。数珠繋ぎの要領か。しかもアストラル・プロジェクション…奴め、考えたな」
「佐和子さん、どういうこと?」
…まぁ、見てれば分かる…
「アラン…」
聖也の幽体はシルバーコードは、数にして、ざっと2〜30の霊体を貫いて、上空へと舞い上がる。その様は、天日干しした洗濯物のように大気になびいていた。
大半の霊体は、シルバーコードに綺麗に貫かれているのだが、まだ下には無数の霊体がうごめいていた。その数、半透明の霊体とほぼ同数。
その霊体たちは三下の霊体とは違い、どこか怨念めいた特別な感情に支配されているようだ。
発光しているカラーも薄い白ではなく、漆黒の黒色だったり、にごった赤だったりして、どこか異様だった。
…さすがに強固な怨念が宿った霊体には通じんか…
私はアストラル・プロジェクションの記載があるアーカイブを紐解いた。
「そもそも聖也のこの技は、操られる媒体側に、明確な意思がない場合にだけ発動される。逆に、霊体に怨念がある場合には、その限りではない…ってことか…」
「外野の分際で…うるさいぞ、お前ら」
「 聖也!でもっ!!」
(でも…どうすんのよ?…)
「いいか、榊友美…これから俺がやることをよく見ておけ!これが俺のシーカーズ・センスだ。戦闘の経験値と霊力の応用で、アストラル・プロジェクションは、まだまだ進化するぜ」
聖也は数珠繋ぎしてある霊体から、手前にある三体を横にスライドさせ、シルバーコードから引き離す。さらにそいつを混ぜ合わせ、直径1メートルくらいのひとつの霊球に変形させた。
「佐和子!この技がお前だけの専売特許だと思うなよ。このくらいの芸当、ハイパー生命体じゃなくてもできるってことを覚えておくんだな」
「聖也は、いったい何を…。佐和子さん!!」
「フッ、猿真似が…」
…彼は…聖也はエーテル・マニピュレーションを再現するつもりだ…
「再現!…だってシルバーコードから相手を離したら、聖也の幽体で操れないのに…」
…残留思念だ…
「残留…思念?」
…そうだ。友美さん。聖也は相手の霊体に対して、ある一定数の霊気を残したんだ…それで数秒から数十秒、相手を自由に操れる…
「…これが、アストラル・プロジェクションの進化…」
私は聖也の発想と戦術への落とし込みに、心が奪われた。
霊球の大きさは、佐和子のソフトボール級のそれに対して、かなり大きく、とてもつかめる状態ではない。
だが聖也は、その霊球に対して手のひらを並行にかざし、その状態から一気に五指を閉じた。すると、目の前の霊球はまるで握り潰されたように、真ん中を軸として両側が膨れ上がる。
「あっ!佐和子さんと同じ!!」
握り潰された霊球は、元の球体に戻ろうと反発を繰り返す。その迫力は、直径1メートル級の大きさということもあり、佐和子のそれとは比較にならないほどの迫力があった。
「どうだ、佐和子。よく見てろよ。これが俺の霊球弾!!」
「チッ…あの野郎…」
聖也は突き出した握り拳を、怨霊が渦を巻くドス黒く発光を繰り返す、霊体の群れに向ける。
「同士討ちだ。行け!!」
彼はそう言い放つと、思いっきり五指を開いた。
すると霊球は、さも長年の呪縛から解き放たれたかのような、歓喜のダンスを踊り出す。
霊球は激しい残像と脈動を伴い、悪霊の群れに突っ込んでいく。それは、あたかもその巨大な霊気を多重に分身させたかのように、残像を残し、あっという間に私の視界を埋め尽くした。
霊球の残像が、物理法則を超えた霊的破壊力で、悪霊群にダメージを与え、渦の中で消滅する。
その際、魂を揺るがす、悪霊たちの金切り声にも似た悲鳴が鳴り響き、その衝撃波が地響きのように、地下施設内を揺るがす。
私は、あまりもの嫌悪感に、眉間をしかめた。
衝撃波が収まり、大気中に舞い上がっていた砂埃が落ち着く。視界が晴れると、あれだけいた悪霊が三割ほど減っていたことに気付く。残った七割の悪霊も、消滅こそ免れたが、その大半がかなりのダメージを受けている。
「やはり、一発では全滅させるには程遠いか…。雑魚の霊体集めた程度じゃあ、そんなに大した結果は望めなかったってことだな」
聖也は、既に先の三体から二体多い五体を、シルバーコードから引き離し、第二弾の霊球弾を用意していた。
霊球の大きさは、霊体の数に比例しているのか、先ほどの倍近くになっていた。
「デカくなっただけだと思うなよ。その分だけ、そのキャパに残留思念を残せるんだぜ」
そういうと、聖也は残党の悪霊に握り拳を向け、それを一気に解放した。
放たれた特上級の霊球弾は、残党たちを一気に飲み込み、断末魔の叫びと共に霧散し消滅した。
…やったか?…
アランが、状況を見極めようと淡い青色を発光する。
「ひとり…いや、ひとつだけ…異常な霊体反応を感知した…」
佐和子の霊的センサーが、煙の中に霊体反応を感知したようだ。
煙が収まり、そのなにかの片鱗が露わになっていく。それは霊体とは比べものにならないほど濃密な質量で、実体と見紛うばかりの肉体を持つ。そして、確かな足取りでこちらに向かっていた。
「えっ!?人間…いや、そんなはずは…」
私が目を凝らして注視するその脇で、佐和子が驚きの表情をしてみせた。
「おっ…お前は…まさかっ!!」
「久しぶりだな、佐和子 。アランも元気そうじゃないか…。ん?お前は、彼女と違って人型にはなれないのか?」
…そんな…馬鹿な…あなたは、あの時…
「…そうだ。お前は、確かに私が…」
「殺したとでもいうのか?ああ、その通りだよ。佐和子。私はお前に殺されたんだ」
(佐和子さんに…殺されたって?)
「アラン…誰なの?」
…そ、それは…
ことの成り行きを眺めていた聖也が口を開いた。
「俺が教えてやる。榊友美、こいつはリチャード…リチャード・エヴァンス。この地下施設の建造者だ」
「…えっ…」




