第27話 導入方法は違えど、結果は同じ
聖也の、脇腹に突き刺さった霊気のソードが、残像と共に消えた。彼の脱力した身体は支えを失い、その場に倒れ込む。
…聖也!…
アランの魂が彼に近づき、傷口を照らした。
すると、まともに貫かれたと思ったそれは、わずか数ミリの差で臓器への直撃を避け、ギリギリの角度で脇腹を抉っただけだった。
気を失っていたのか、動かなかった聖也が、いきなり息を吹き返す。
「…ごほっ…ごほっ…」
…気が付いたか?…あの土壇場で、無意識に体勢をコントロールしたか。それにしても、一瞬で急所を外させるとは、さすがだな…
「タフな奴だ。聖也!お前は、そこで死んだふりでもしてろ。それにしても、アラン…一旦リチャードから距離をとった方が賢明ね」
…その通りだ。正攻法では埒があかない。そして、佐和子、友美さんを頼む…
「了解よ」
そういうと、佐和子は片腕をリチャードの方向へ差し出し、エーテル・マニピュレーションを発動。音速の霊球が、リチャードの直前で霊体佐和子へと瞬時にトランス!
その時である。リチャードが私の耳元で囁いた。
「榊友美……父親に会いたくないか?」
(…えっ…?)
佐和子に姿を模した霊体は、その勢いのまま、リチャードの側頭部に正拳を叩き込んだ。
その尋常じゃないスピードに度肝を抜かれる。体感としては、まるで、キーボードのデリートボタンをタッチしたかのように、つい今し方、私の胸ぐらを掴んでいたリチャードが、視界から一瞬で消えたのだ。
「ち、ちょっと待って!」
(なに、今、なんていったの…?)
私は、咄嗟に佐和子の放った、トランス状態の霊体エネルギーが過ぎ去った方を見た。
(いた!!リチャードだ…)
彼は一瞬で100メートルくらい吹き飛ばされていた。だか、頭部がおかしな方向に向いている。しかもよく見ると、こめかみあたりから上が、吹き飛んでいた。
「げっ!マジか…」
(さっきの攻撃を喰らって、なくなったってこと…?)
…友美さん、聞いてた?聖也は無事よ。そして一旦、この場を離脱する。こっちよ…
佐和子が、私を誘導しながら、自身の霊体を通して話しかけてきた。
「待って!リチャードはどうするの?」
…今は放っておく。この隙にさっきいた隠し通路に避難するわよ…
実体化している佐和子の前まで戻った私に、彼女はこう続けた。
「さぁ!友美さんも早く私に捕まって!時空の断層を発動する!」
「待って!佐和子さん。なんか様子が変なの」
私は再度リチャードの方を見た。佐和子も私の視線に促され、そちらに目を向ける。彼女もリチャードが、間仕切り壁で仕切られている部屋に入っていく姿を確認した。
「変って、リチャードのこと?」
「そう。多分だけど、しばらくは襲ってこないと思う」
…友美さん、それは、どういうことかな?…
アランが問いた。そして私たちは、一旦、先ほどの『休憩所』に戻った。
リチャードはもちろんのこと、彼とアランや佐和子の関係ついて聞きたいことは山積みだった。
「ねぇ、アラン。リチャードって、あなたの父親なんだよね?なんで、そんな昔の人が圭佑のことを知ってるのよ?」
…なにか、いわれたのか?…
「ええ、さっき押さえつけられた時。父親に会いたくないかってね。あれはどういう意味よ。アラン、あなた、何か知ってるわよね?」
アランの球体の発光色が薄暗くなっていく。それを見た私は、あからさまに困惑している彼が手に取るように分かって、思わず失笑してしまった。
(わかりやすい人…)
…どうしたんだい?友美さん…
「いや、ごめんなさい。アラン、何もあなたを責めているわけじゃないわ」
(あぁ、この人は、本当に誠実な人なんだなぁ。いつだって、ちゃんと向き合って真剣に考えてくれる。彼を問い詰めるなんて…私、どうかしてたわ)
「ところで聖也は?」
「大丈夫よ。まったくしぶとい奴だわ。…でも、友美さん、彼があなたにアドバイスしてたことは、癪だけど説得力あるわ。なにせ、聖也自身がそれを自ら実践してるからね。生意気なガキだけど、決していい加減な奴じゃないわ」
「驚いた。まさか佐和子さんが聖也のことを、そんな風に思っていたなんて…」
「あら、そう?でも友美さん、あなた聖也のこと、ハイブリッド生命体、もしくはハイパー生命体のどっちかと思ってるでしょ?」
「えっ!違うんですか?」
…彼のベースは生身の人間だ。ただ、生まれる前に脳細胞に、陽炎の鎧の記憶と能力が霊的にトレースされている…
(そう言えば、佐和子さんは、さっき、聖也のことを特殊な人間だって言ってた。それに…)
「…アラン、霊的にトレースって、まさか、聖也のアーカイブにあった200人以上の妊婦への憑依!?」
「その通りだ」
(えっ?)
声のする方へ振り向くと、仰向けでベンチに寝かされていた聖也が、意識を取り戻していた。
「聖也!大丈夫なの!?」
私は聖也の元へ駆け寄った。彼は上半身を起こすことなく、仰向けの状態で目だけを開いていた。
「くたばりぞこねたか…。相変わらず悪運は強いな」
先ほど、聖也を賞賛したばかりの佐和子が、毒舌を吐く。その皮肉さ加減に、私は思わず笑みを浮かべた。
「チッ!油断しただけだ」
そう言いながら、彼は私に視線を向けた。
「それから…友美、リチャードのつまらんフックに引っかかるなよ」
「それ、どういう意味よ?聖也…っていうか、気絶してたのに、なんで知ってんの?」
「マヌケか?俺の頭には、陽炎の鎧の全記憶が網羅されてるんだぜ?その程度のことで騒ぐなと言っているんだ。いいか!榊圭佑は、とっくに死んでいる。それなのに、奴はお前に、父親に会いたいかって、聞いてきたんだろ?…つまり、それが、どういうことか分からんわけではないだろう!?」
「罠…って言いたいの?」
「その可能性は十分に高い」
「聖也。リチャードの身体、お前はどう思う?」
佐和子はそう言うと、さらに霊力を上げて、今にも戦闘に移行できるほど具現化させた。
「おいおい。落ち着けよ。戦闘体制に入るのは早過ぎるぜ。まずは作戦会議だ」
…いいだろう…では、佐和子の代わりに改めて聞こう… リチャードの超人的能力は、聖也、お前のそれと、同じ理屈じゃないのか?…
聖也の表情が変わる。彼は両肘をついて上半身を起こした。
「そうだ。リチャード…奴も俺と同じで、陽炎の鎧から記憶とスペックを霊的な手段で移植されている可能性が高い」
…霊的手段で移植…?…
聖也が頷いた。
「その通りだ、アラン。導入方法は違えど、結果は同じ。移植されるのが、五体満足の新生児の身体か、それとも身体の機能が全停止した死体かの違いだ。ほかはなにも変わらん」
「つまり、リチャードの身体はゾンビ化されているから、両手をもがれようが、頭部を吹っ飛ばされそうが関係ない…ってことか」
「そうだ、佐和子!…だが、少し語弊がある」
「語弊?」
「ああ、俺への移植は脳細胞だが、リチャードの場合は、おそらく魂への移植だ」
…なるほど、一般的なゾンビのイメージは頭部を吹っ飛ばせば終わりだけど、リチャードの場合、それだけでは機能は停止しなかった…
「その通りだ。つまり…」
「彼の魂を保護しているシーカーズ・センスの能力者を特定することが鍵になるってことね」
「ほう!友美、ずいぶん頭の回転が速いじゃないか」
私のセリフに、聖也が満足そうな笑みを浮かべた。
「聖也、あなたねぇ、人を馬鹿にするのもいい加減にしてよね。…でも…」
「どうしたの?友美さん」
「佐和子さん、リチャードがこのまま、襲ってこないって可能性もあるんじゃないかな?そしたら、無視して先に進んでもいいんじゃない…と思って…」
「それは考えにくいわ。奴はあなたを最高の被験者として見ている。あの時の私のように…」
佐和子は当時のこと思い出したのか、そう言うと目を伏せた。
「甘いな、友美。そして、奴は必ず仕掛けてくるぞ」
「そっか…。そうだよね。分かった!リチャードを保護するシーカーズを特定して、その機能を停止させることが最優先ね」
(わたし、なに弱気になってたんだ。そうだ!守りに入っちゃ駄目だ。そして、これが今回の最重要ミッション!!)




