第20話 なに勝手に決めてやがる!!
「アラン、お願いがあるの」
…どうした?友美さん…
私は伽耶を抱き抱えながら、アランに声をかけた。
彼は、こちらに向けて自身を発光させる。
伽耶がその光に反応した。
だが霊感のない彼女に、アランの声はおろか、魂も認識できるはずがなかった。
「…なに?…今の…」
伽耶は眩しそうに目を細める。だが、彼女は光によって鮮明に映し出された視野の片隅に''義理の弟''の姿を見つけていた。
「…聖也?…」
「姉さん、気がついたんだね。良かったぁ、心配したよ」
聖也の手には懐中電灯が握られている。彼はその光を、何気にアランの霊魂に向けて、互いの放つ光を中和させた。
…ほう…
アランが感心をした。
(ひょっとして、誤魔化してくれた…とか?)
…どうやら、そのようだ。…この男、なかなか頭の回転が早そうだ…
伽耶は、私と聖也の顔を交互に見ては、さらに不思議そうな表情を浮かべる。
「どうして先輩と聖也が一緒に…。えっ!私たち三人だけ?」
「そうだよ。えっ!まさか、覚えてないの?姉さんが肝試ししたいって言い出したんじゃないか?」
「友美さん、なんだ、コイツは?」
先ほどとは明らかに違う聖也の態度に、佐和子は苛立ちを露わにした。
「えっ?」
その声に驚いたようすで、伽耶が声のした方を振り返る。
「あれ?誰もいない…」
つい今しがたまで実体化していた佐和子の肉体は、一瞬にして姿を消した。
…霊力を極限まで下げたわ。これで彼女には私の声も姿も認識できない…この方が都合がいいでしょ?…
(うん。…ありがとう、佐和子さん)
…ところで、友美さん、お願いってなんだい?…
(あっ、そうそう!アラン、今すぐ伽耶ちゃんの魂をシーカーズセンスで守ってくれないかな?聖也に気付かれないように…)
…気づかれないように?…
(ごめん、アラン。やっぱり、まだ聖也を完全に信じきることはできない)
彼は、思考を巡らせているみたいだった。私のセリフを吟味して、さらに意図を想定したようだ。
…分かった。私も同感だ…
「友美さん、何の話ですか?」
聖也が私の目を直視する。
「…何が?」
そう言いながら一瞬、目を背けてしまった。私は、泳ぎそうになる瞳を必死にこらえた。
「いや、別に…」
「あっ、そうだ!姉さん、今、友美さんと話してたんだけど、この先にある階段を降ったとこに、この洋館の地下室があるみたいなんだ。行ってみないか?」
「なっ!!」
(聖也…何を言っている!?)
「…洋館?…洋館って、どこの?」
「どこって…昭和ロードにある洋館に決まってるだろ?姉さん、ずっと行きたがってたじゃないか。ねぇ、本当に覚えてないの?」
「…昭和ロード?…今そこにいるの?」
(おい!お前っ!!…いい加減にしろ。地下には銀次がいる。どういうつもりだ?…それに、ここは寒村だ。適当なことを言うな)
佐和子が霊的センサーを使って、聖也に話しかけた。その内容が私とアランにも共有される。
(佐和子!忘れたのか?銀次の結界を破るには、生きた人間の肉体が必要なんだぜ?)
(聖也、お前こそ忘れてやしないか?結界破りのための人間はひとりでいいはずだ。なぜ伽耶さんを)
(そうよ!私が佐和子さんと一緒に…)
(フン!これは俺の問題だ。お前らには関係ない。そして…榊友美、もちろんお前はそうするしかないが、それじゃあ、この娘は、この洋館から出ることは出来ねぇぜ)
そう言いながら、聖也は、書斎へ続くギミック式の本棚があった方を指差した。先ほどの新生命体との激闘で、通路の壁が崩れて塞がれている。
(確かに。だが、私にはシーカーズセンスがある)
(無理だな、アラン。お前は今、その能力をこの娘に使っているだろ。魂の保護と霊的ソナーの同時発動はできない)
(魂の保護だと?気付いていたのか)
(当たり前だ、佐和子。さっきのお前らのやり取りは滑稽だったぜ。そして、俺もシーカーズセンスを持ってる。つまりそれは、この能力の強みはもちろん、弱点も把握しているってことだ。それに)
(仮に、それで書斎に戻れたとしても、そもそも銀次の結界を解けなければ、この洋館からは脱出できないってことか…)
(その通りだ,榊友美)
(そういうことなら、やはり、答えは同じだ)
私は、佐和子のオーラが浮遊している地点に目を向けた。どんなに彼女が霊力を下げようとも、私には関係なかった。彼女の位置は手に取るように分かる。
佐和子が頷く。彼女も私と同じ事を考えているみたいだ。
(私と友美さん、二人で行くわ)
(なんだと!…おい、お前ら、俺の話を聞いてなかったのか?)
(ちゃんとみんな聞いてたわよ。だから佐和子さんと二人で行くんじゃない)
(おいおい!気は確かか?相手はあの銀次だぞ)
(アランはここで待ってて。伽耶ちゃんのこと、お願いね)
(分かった。彼女は私が全力で守る。任せてくれ)
「貴様ら…なに勝手に決めてやがる!!」
聖也は、霊的センサーを無視して地声で叫んだ。
伽耶は、突然、真横で声を荒げる彼の変貌ぶりに驚き、一体、何が起こったのかと目を丸くする。
聖也の全身が、じわじわと自身が発した光に包まれる。さらにその輝きが急激に彼の胸元に収束した。
(なんだ!?)
それが「キィィィーン」という、甲高い金属音を立てたかと思うと、鋭い光の楔となり、伽耶の胸元に吸い込まれてるように消えていった。
「なっ!!なにいぃーっ!!」
「ゲッ…ゲホッッ!!」 肺が圧迫されたのか、伽耶がむせた。
「伽耶ちゃん!!」
その時、彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに焦点が合わなくなり、そのまま目を閉じる。
「聖也っ!伽耶ちゃんに何をしたっ!!」
「再度、俺の幽体をその娘の中に潜ませた。…ったく、自由意志を尊重してやろうと思ったんたんだがな。こうもやりにくいとは…」
「性懲りもなく、またアストラル・プロジェクションだと?…無駄だ!お前の姉は意識を取り戻した」
…佐和子の言う通りだ。聖也!お前のやってることは意味をなさない…
「そうかな…」
聖也は不敵な笑みを浮かべた。
次の瞬間、伽耶の身体が聖也に向かって走り出す。彼女は聖也の隣で急停止し、こちらを振り向いた。
聖也と伽耶の間には、薄っすら揺れているシルバーコードが確認できた。
彼女の瞳には、先ほどと違って生気を感じられなかった。無理矢理、聖也に操られているのが分かる。
「こうなったら、強制的にこの娘を連れて行く。そのためには莫大な霊力を使うが、そんなことは言っておれん!コイツが、目覚めていようが、いまいが関係ない」
聖也は、こちらに背を向け、地下施設への階段に足をかけた。
(…まずい!聖也は力技で伽耶ちゃんを銀次のとこまで、つれていくつもりだ)
「待て!!聖也ぁーっ!!」
腹の底から声が出た。その大きさに発した私自身も驚いたが、アランや佐和子、そして聖也までもがこちらに振り返る。
心の奥底から込み上げるこの破壊的な衝動…。たまに自分自身、怖くなる事がある。この感情…。私も、やはり榊大成の血を引いているという事か。
「分かったわ。あなたの言う通りにする。…だから伽耶ちゃんの身体をそれ以上、傷つけないで。お願い。じゃないと…聖也、わたし…」
自身の目尻が吊り上がっていく。私の中に、まるで違う人格の生き物がいるような感覚に陥入る。
「…あなたのこと、殺しちゃうかも…」




