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第11話 もうひとりの佐和子

 佐和子は片腕をゆっくりと伽耶に向かって突き出した。


 五指をいっぱいに広げる。するとそこに霊気が収束し、ソフトボールほどの大きさの球体ができた。今度はそれを目一杯に握り潰す。ひょうたん型に変形した霊球は、握り拳の中で元の球体に戻ろうと反発して踊り狂っている。


 佐和子はその反動を利用して伽耶に向かって狙いを定め、再度、手のひらを扇のようにぱっと開いた。するとその霊球は追撃ミサイルのようにうねりを纏い、変則的な動きで伽耶に突進してゆく。その軌道はまるで飛行機雲の如く、幻影を後に残しながら伽耶に直撃した。


 大爆音と共に砂埃が舞う。伽耶の身体が埋め込まれていた壁が「ガラガラ」と音を立てて崩れ落ちる。


 白く濁った視界の奥から、かすかに伽耶の声が聞こえた。


「…せっ…せんぱい…たすけ…て…」


「かっ、伽耶ちゃん!!」


 私は伽耶の言葉に吸い寄せられ、声のする方へ歩き出す。


「待て!」 


 佐和子が私の肩に手を添え制した。


「だって伽耶ちゃんが…」


「声色変えてるだけって、まだ分からんかぁーっ!」


 ビクッっと、背筋に戦慄が走る。佐和子に対して初めて恐怖心を感じた。


 だが私の表現を見て、彼女は少しバツが悪そうに目を伏せた。


「…ひっこんでろと言ったはずだ」


 私は思った。この人は本当に幽霊なんだろうか…と。いや、幽霊には間違いないと思うが、それだけでは消化できない思いが私の中に芽生えた。


「がっ…がはぁぁーっ」 


 先ほどまで瓦礫に埋もれていた伽耶が、血反吐を吐き項垂うなだれる。


「ちっ、畜生めがぁぁぁーっ!!」


「ほう?あの攻撃で死なぬか。さすがはハイブリッドってところか…」


 私は、佐和子が伽耶に放ったセリフを、呆然と聞きながら、彼女に肩を触られた感触を思い出していた。


 初めて霊に触れられた気がするが、その感触は暖かく生々しかった。

 霊体なのに生きている人間と何も変わらないくらいに自身を実体化できている…


(実体化できるって、ひょっとしてハイブリッド以上の能力なのでは…もしかして彼女は…)


 佐和子は、荒れ狂う伽耶をたしなめるように彼女の視線を誘導した。


「自分の目の前をよく見てみろ」


「なっ!?」


 伽耶が目を見開いた。


 なんと目の前には、実体化している佐和子とは別に、もうひとりの佐和子が立っていたのだ。


「なんだと!?」


「驚いたか?それは先ほど、お前に命中させた私の霊球を、視覚的に認識できる姿に変えたものだ」


 瓦礫の山に跪いている伽耶。目線を上げたその先には、浮遊している佐和子の霊が、腕を組み、威圧的な態度で彼女を見下ろしている。


 伽耶は目の前の霊と、さらに後方にいる実体化している佐和子を見比べてた。


「これは、いったい…」


 そういいながら、私はアランの言葉を思いだした。


 ハイブリッド生命体をも超えてしまう存在……その可能性…。 


(これがアランの言っていた霊体離脱の武器転換…。もしかして、佐和子さんはすでに新生命体なのでは…)


 実体の佐和子はゆっくり伽耶に向かって歩き出しす。


「そう言えば昔、リチャードが言ってたな。ハイブリッド生命体の先があるって事を…」


 佐和子がマウントを取りながら、さらに伽耶を追い詰める。


「銀次もお前に言ってなかったか?ハイパー生命体の存在を!!」


「ハイパー生命体だと?…まさか、貴様が!!」


 実体化した佐和子から離脱した幽体が半身の構えを取る。


「そのまさかだ。残念だったな。少し寿命が延びただけだ。次は仕留める。覚悟しろよ…」


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