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第10話 超えてはならない一線

 伽耶のセリフに全身が縮み上がる。


 そして私は、彼女に背後へ回り込まれ、瞬時に広げた左手のひらで口を塞がれた。その感触は、まるで氷の塊をじかに押し付けられているように痛かった。


 次に、右腕を腰に回され、グイッと引き寄せられる。伽耶の右頬が私の左頬に触れ、彼女の冷たい吐息が耳元にかかった。その瞬間、心臓が激しく脈を打つ。


 頭では分かっていても、身体が恐怖で硬くなる。指先一つも動かせない。まるで金縛りにあったみたいだ。


 不意に、時間が止まったんじゃないかと思うくらい視界に映る全てがスローモーションで流れ出す。


 死の予感がした。…と同時に急激に心が冷めていく感覚が芽生える。


(…これが死ぬ間際に起こる脳内の幻覚症状ってやつか…)


 そんな事を考えながら死を客観的に受け止められている自分自身が不思議だった。伽耶の変貌にショックを受け過ぎたせいかもしれない…。


(…いや、違うだろっ!!何考えてるんだ、私はっ

 !!)


 …ちいぃっ!!…


 硬直して、動くことができない私を見たアランが、自身を発光させる。そして火の玉のごとく真っ赤になった彼の魂が、無理やり二人の間に入り込み、その身を盾にした。


(えっ!?アラン…)


 直後、耳元に激しい破裂音が鳴り響く。それは、まるで内側に過剰な空気を送り込まれ、耐えきれず破裂した風船のようだった。


 破裂音はアランの霊魂の内部から聞こえる。その衝撃が幾度となく繰り返された。それと同時に表面に亀裂が入り瞬く間に全体に広がる。


「なっ!!」


 気が付くと、いつの間にか私の口元に覆い被さっていた伽耶の左手の人差し指がアランの人魂に突き刺さっている。彼女はそこから、通常のキャパシティを超える大量の霊気を注ぎ込んでいた。


「アランとか言ったな?…邪魔しにくる事は分かっていたよ。だから榊友美を囮に、わざと貴様を誘い込んだ」


「囮って、最初からそのつもりで…伽耶ちゃん、あなたっ!!」


「残念だったな。榊友美、お前のせいでアランは消滅するんだよ。まぁ、もっとも今さら、なに言ってもコイツの耳に届くことは叶わないがな」


「…消滅?冗談じゃないわっ!!そんなことは、させない!!」


「もう遅い!アランは消滅した。たった今!!榊友美…お前のせいでな」


「うるさい!!まだだっ、まだ!!そんなこと、許さない!!」


 アランの霊魂の表層が、一枚一枚、蒸気を出しながら、剥がれていく。


「アラン!!アラーン!!」


 呼びかけるが反応はない。剥がれてゆく霊魂をかき集めるようとしたが、両手はただ宙をいているだけで、触れることさえできなかった。


 一心不乱に、もがいた私は、気がつけば金縛りの呪縛から解放されていた。


「私の描いたビジョンを達成する為にも榊友美、お前の身体を五体満足で、銀次の所まで連れて行かなくてはならない。そんな大事な交渉材料を取り込むわけなかろう」


「はぁはぁ…はぁはぁ…。あなたのビジョン…?」


「そう。私の目的は…!.…えっ?なんだ?思い出せないぞ…なぜだっ!なぜ思い出せないっ!」


 伽耶はそう言うと、とてつもなく嫌悪感に満ちた表情をした。そして突如、発狂した。


「うわぁぁぁーっ!!なぜだぁーっ!!なぜ思いだせないっ!!なんでなんだぁぁーっ!!」


 伽耶は狂ったように自問自答を繰り返し、通路狭しと暴れ出した。まわりの壁という壁を損傷させ、とうとう書斎には引き返せないほどに破壊し、道を塞いでしまう。


 だが、その後は不気味なくらいクールダウンをした。項垂れた姿勢で今度は[静]の空気感を身に纏う。


「…まぁいい。榊友美、これでお前は、防御力のカケラもないただの人間に成り下がった。一緒に来てもらうぞ。時空の断層だ」


 そう言うと伽耶は私の腕を掴み、その時空の断層とやらを発現させた。今まで何度となく、この目で見てきた空間が捻じ曲がって終息する現象である。彼女は瞬時にこの場を離れ、銀次のいる場所に私を連れて行くつもりらしい。


 しかし…突然、捻じ曲がった時空の断層が強制的に止まった。何かが干渉したのだ。


「えっ!?」 


 伽耶の口から恐怖におののく声が漏れた。


 なんと目の前には、例えるなら、夜叉の如き形相へと変貌した佐和子が現れたのだ。伽耶は目を見開いた。佐和子は時空の断層に自身の身体をねじ込み、彼女の瞬間移動を阻止していた。


「さっ!佐和子ーっ!!」


 伽耶は佐和子の異常とまでの鬼気迫る行動力に、文字通り腰を抜かすと言う表現が一番適しているくらい取り乱した。


 佐和子は私の腕を掴み、反対の手の甲を伽耶の鼻梁に叩き込んだ。


「ぐわぁぁーっ!!」 


 伽耶が吹っ飛ぶ。


「佐和子さん!!」


 私は咄嗟に彼女の名前を呼んでみたが、逆に睨みつけられた。


「邪魔だ…ひっこんでろ」


 そう言うと佐和子は私を自身の背後に隠した。


 次の瞬間、佐和子の怒涛のラッシュが始まった。ハイブリッド生命体から進化を遂げ始めているはずの伽耶だったが、まるで赤子のように手も足も出せずに、一方的に佐和子の猛攻を受けている。


 そのさまは、もはや対等の戦いではなく、まるでサンドバッグ化した伽耶を容赦なく叩きまくる佐和子の姿があった。予想以上の攻撃力に、なす術のない伽耶。


「超えてはならない一線を超えたな。私の命より大切なアランに…なにしたか、分かっているのか、お前は」


 命より大切なアラン…私は、そのセリフを聞いて、あることを思った。


 本来ならロマンチックな響きのはずだが、なぜかそのセリフに凄く違和感を覚えのだ。なんていうか、凄く抽象的な感じがした。


 佐和子は伽耶のみぞおちに正拳を叩き込み、身体ごと通路の壁に叩きつけた。そのあまりにも激しい衝撃に彼女の身体が壁に食い込んだ。


「ぐえぇぇぇっ!!」


 伽耶は内臓を損傷したのか血反吐を吐く。


「ばっ、馬鹿な!私はハイブリッド生命体に進化したんじゃないのかっ!!それをこんなにも圧倒的に押され…」


「うるさい…もう死ね」


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