第12話 これが二度目
「ちいぃーっ!!」
伽耶は再度、時空の断層を発現させた。だが今度は私を銀次のところに連れて行くのを諦めたのか、自分だけがその裂け目に入る。
「あっ、伽耶ちゃんが!!」
しかし、私の叫びに佐和子は慌てた様子を、なにひとつ見せない。
「馬鹿め。逃げられると思うなよ…」
離脱していた佐和子の霊体が伽耶の後を追ってその場から消えた。その直後、瓦礫に埋もれていた回転ドアの奥の書斎から激しく物が崩れ落ちる音が響く。
「えっ!?なに?」
さらに今度は、その奥の廊下に移動したのか、そちらから衝撃音が聞こえた。
「ど…どういう事?」
「もはや敵わないと思って、あちこちに逃げ回ってるのさ。だが私の霊体が自動追尾して、奴を追い詰めている。どこへ逃げようと同じことだ」
「自動追尾って…あなたの霊魂が勝手に伽耶ちゃんのあとを追ってるっていうの?」
佐和子は頷き、瓦礫の向こう側に意識を集中した。
そしてだんだんと遠くに遠ざかって行った衝撃音が、今度はどんどん、こちらに近づいてくる。
思い起こせば、ついさっきまで視えることさえなかった私が、この短時間で普通に霊とコミュニケーションが取れるまでになっているのは、客観的にみて、かなり異常だ。
「友美さん、あなた、徐々に魂の強度が上がり始めてるみたいね。ひょっとしてアランから何か譲り受けたのかな?」
「そんな事…あっ、でも身体能力を上げてもらったって言うか…その力を使って逃げろって…」
「逃げろ?フフ…アランらしいわね。そう、なるほどね。でもその力のお陰で、あなたは私を確認できてるのよ」
「そっ、そうなんですか?でも…」
(それにしては完璧に実体化してる。…まるで生きている人間そのものだ)
「友美さん。ひょっとしてあなた今、自分のまわりが霊だらけなんじゃない?」
「!!なんでそれを…」
(そう、そうなのだ。さっき私は自分の死を素直に受け止められていた。実はあのあたりを境にして、人はおろか動物など色々な霊を感じ始めて…。やっぱり気のせいじゃなかったんだ)
「…でも、はっきり見えているわけじゃなくて、その…」
「感じるんでしょ?それで十分。友美さん、時間がないわ。協力して!
「ぐわぁぁああっ!!」
隣の書斎から、本が何冊か散乱して落ちる音と、叩きつけられ呻く伽耶の声が聞こえる。…と、同時に目の前にある瓦礫の山あたりの空間が歪み始めた。
「時間がないって…ひょっとしてまだ二人は!?」
「ええ、そうよ。だから奴を、私の霊魂に引きずり戻させた。これがラストチャンス!!」
「協力って、何をすれば…」
歪んだ空間に亀裂が現れた。時空の断層である。その大きくなった亀裂に霊魂の佐和子が身体を捩じ込んで現れた。片方の腕にはぐったりとした伽耶の身体を抱き抱えている。
「伽耶ちゃん!!」
「ようやく機能停止に追い込んだみたいだ。まったく…ハイブリッド生命体って奴はしぶとい」
「えっ!!殺したの!?」
私は一瞬だが佐和子に対して、目を見開き敵意を向けた。一気に心拍数が上がり、発した声が震えているのが分かる。
「まだ、死んではいない。だが忘れるな。こいつの姿形は伽耶さんだが、もうすぐ別人として生まれ変わることを。その前に二人の魂を保護する」
(そうだった…佐和子さんの一言で感情的になったりして…わたし、ちょっとのことで感情が浮き沈みしている。上手くコントロールできる様にならないと)
「…ごめんなさい。分かったわ。どうすればいいか教えて!!」
「シーカーズセンスよ。友美さん、アランはあなたにその能力を託したんだと思う。あの時と同じように…」
「あの時って?それに、シーカーズセンスって急に言われても、私にはそれが何なのか分からないのよ!!」
「大丈夫。あなたなら使いこなせる。あなたは幼い時、銀次から圭佑さんを救った事があるでしょ?」
「どうしてそれを…。もしかして、あの時って…」
「そう、19年前よ。アランはその時からあなたの守護霊だった。友美さんが彼からシーカーズ・センスを受け取ったのは、実はこれが二度目なの」
「…そんな…そんな事って…アラン…」
私の中で、核が熱を帯びていくのを感じた。
(アランは今まで私を守ってくれてたんだ。それにシーカーズセンス、言われてみれば日記を読んだ時の私とアランの思考はシンクロしていた。その感覚は今でもある)
「佐和子さん、私やってみるわ」
佐和子は頷き、こう続けた。
「友美さんは、真っ先に伽耶さんと香織の魂をシーカーズセンスで同調して、消滅しないよう保護してちょうだい。私がその隙に、新生命体の息の根を止める。そのあと活法で伽耶さんの身体を蘇生させる!!いい?」
「分かった!!」




