第61話 デウム・ルクスリア
タツミ達は秘匿と言われた施設へと階段を降りて行くと、まるでシェルターの様な重厚な扉が目の前に現れた。
そして扉には開錠に必要そうな物が何もなく、一枚の壁の様になっていたがレピスが手を触れると何かに反応した様に横滑りに扉が開いた。
「生体認証ですか?」
「ふふふ~精霊力の波長認証よ~。」
ヒジリが不思議そうに尋ねると、より謎の多い返事が返って来た。しかしスディレットの秘匿性を考えれば、その様な技術が有ったとしても不思議では無かった。
全員が中に入ると、そこには恐ろしく粗末なテーブルとイス。ソファーが適当に並んでいるだけだった。
「ず、随分と質素な作りだわね……」
「秘匿重視だからじゃないか? あり過ぎると何で探知されるか解らないだろ?」
「確かに、下手な機械の電磁波とかでも見つかる可能性も有るわよね。」
ナギとレンが驚きながらも周囲を観察して意見を述べ合っている。
「で、実際は必要が無いから最低限のものしか置いていないんですよね?」
リィムが二人の考察を無視する様にレピスに尋ねる。
「そうね~ほぼ正解よ~。こんな大人数で来る事も~初めてだもの~。」
レピスの返答にレンとナギはガクッと肩を落とすと、深読みし過ぎたかと照れ臭そうにした。すると間もなくして扉が開いて稲葉が現れた。
「随分早すぎないか?」
「う~ん……まぁ次の行動の為に隠す必要が無くなったからね。」
タツミの皮肉めいた言葉に稲葉はクロの時の若い青年の様な声を出した。当然ながら知らなかったメンツの顔が驚きに包まれた。
「さて、レピさんが出て来てしまった以上、ボクも本当の姿を見せよう。」
稲葉は言葉と同時に黒兎の本来の姿に戻ると、ピョンピョンと跳ねてテーブルの上に乗って全員を見渡した。
「こ、コレって……さっきのリバちゃんのペットだわよね?!」
ナギが驚きながらも撫でようと手を伸ばすが、華麗にクロは前足で手を弾き飛ばして拒否の姿勢を見せた。
「一応コレでも上官だからね! 気安く撫でてもらっては困る!」
腕を組みながら足をダンダンと叩きつけて不快感を示していた。するとレピスが両手で持ち上げて抱くと、頭を撫でだした。
「この子の飼い主は私と~リバちゃんとミーちゃんですからね~。コレは飼い主の特権よ~。」
「レピさん! 折角威厳を見せようとしてたのに! ヒドイ!」
ピッピッと鼻息鳴らしながら抗議するが、抵抗する様子は微塵も感じられなかった。その光景を一部は羨ましそうに眺めていた。
「タツミ君とヒジリちゃん以外には初めましてだね。ボクは『旅する黒兎』のクロだ。二人はリバちゃんの過去を見た時にボクの事は知っている。」
クロの説明にレン達の視線がタツミとヒジリに集まると、タツミは気まずそうに答えた。
「あ~、一応スディレットがどんな組織かも解らなかったし……一応権限的には上官だからな……言わなかった訳じゃ無いんだぞ? 立場的に言えなかっただけだ。」
「ご、ゴメンね。ただ本当の事を話すとみんなにも危険が及ぶかもと思って言いだせなかったんだ。」
二人はそれぞれ言い訳を述べるが、複雑な事情だったのは理解出来たので敢えてそれ以上は何も言わなかった。
「で、話を続けるよ? ここはボクとレピさんだけの密会場所の一つさ。全国各地に適当に分散させているんだ。ボクの能力なら移動は自由だからね。」
「そう言えばリバちゃんが空間跳躍能力が有る様な事を言ってたわね。」
ナギが確認する様に言いながら撫でようとするが、抱かれながらも華麗に前足を出して手を払いのけた。
「ボクの能力は『座標跳躍』と言う空間跳躍だ。コレは視界に入っている場所か、事前に登録している場所へとその名の通り瞬時にワープする。ちなにみに一緒に飛べる事が出来るのはボクが触れている生物限定になる。」
「生物限定か、つまり物資輸送みたいな事は出来ないと言う事だな。」
タツミが尋ねるとクロの説明は続く。
「そうだね、ただし一緒にワープした人が身に付けていた物や、所持していた物は転移できるよ。でも触れているだけとかは無理だからね。」
「ナルホド、そしてクロの神器って何なんだ? レピスは眼自体が神器だし、リバちゃんは火焔翼が神器なんだろ? それらしき物が見えないが……レピスと同じで肉体と同一化している系なのか?」
「本当はあまり見せる物じゃ無いけど……ボクの神器はこの懐中時計さ。」
クロはレピスの手から離れると、テーブルの上に立ち上がって前足で懐毛から銀細工で作られている様な懐中時計を取り出した。
「な、なぁ……その……どうやって出した?」
レンが物理的に無理だろと言いたげな表情で問い詰める。
「神器なんだから出し入れ自由に決まってるだろ? バカなのかい? タツミ君の雷帝刀もリバちゃんの火焔翼も常時出していないだろ?」
「な、なぁ……タツミと話す時と違って言葉にトゲが有るんだが?」
辛辣な言葉で返すと、レンは少々不服そうにした。しかしクロは稲葉の時の紳士的な態度とは違って更なる辛口で口撃して来た。
「稲葉の時は立場もあって優しく言ったけど、君ら戦いにすらならない時点で弱過ぎだよ。焦っても逆効果だけど、あの場に居たのがタツミ君じゃ無かったらどうしたんだい? 偽神ですら、この場で戦えるのはタツミ君とヒジリちゃんとクリューエル位だ。次に遭遇した時はどうするつもりだい?」
結果論になる内容だが、レン達は急に自分達の実力不足を責められると返す言葉も出なかった。
「神器を持てとは言わない。だけどそれに準じる力を得なければ君達は全員足手まといになる。『デウム・ルクスリア』は既に偽神の起動段階まで来た。あのレベルとはこれから遭遇率が上がるし、本当に神霊が出てきたらお手上げだ。」
クロの説教が続いていると、長くなりそうなのを察した龍一が前に出て説明を変わる。
「いいか、属性相性も有るが、まずは基礎力が低い。お前達には生き残る為にも修行をしてもらおうと思う。」
龍一の言葉を聞いたタツミとレンとナギは一気に顔から血の気が引いて行くのが見えた。そして大雑把にも内容を聞いていたヒジリとユキは不安そうな表情になる。
タツミ達は龍一からの稽古と言う名の修行を受けた事が有るので、そのスパルタぶりに過去の恐怖が思い出されていた。
「あらあら~そんなに怖がらなくても大丈夫よ~。コレで死ぬ位なら~ここからは生きていた方が地獄を見るわよ~?」
「どっちの発言も怖いですよ! レピスは私達に何をやらせる気ですか!」
レピスの追撃にリィムが絶叫を上げて抗議するが二人は涼しそうな表情のまま、今度はクロが懐から一枚の印刷された紙を取り出して広げた。
「これを見て欲しい。コレはスディレット各支部へと送られて来たメッセージだ。」
その紙をタツミ達は覗き込むように読みだした。
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世界の平穏を維持していると勘違いしているスディレット諸君。
貴様たちの裏側からの支配は我々『神への情熱』が
責任を持って終焉に導かせてもらう。
小手調べに日本に我らが復活させた神霊を送らせて貰おう。
その力を見て服従するか、滅びるかを選びたまえ。
尚、私達は神への信奉の復活も目的だ。
一般人への被害を出さないと思わない事だ。
我らは神霊の復活に成功した。
かの力を見て神への不敬を悔やむがいい。
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「えっと……今回の襲撃の予告が来てたって事か?」
「ああ、そうだよ。ただどうやって送り込むかが不明だったからね。なので門が開きそうなこの場所を封じに来たんだが……まさか封神具とはね。予想外だったよ。」
タツミの質問に軽く返事をするクロだったが、一歩間違えばレン達は自分達が遭遇したかも知れないと理解すると鳥肌が立ち始めた。
「俺達が失敗して、門から現れてたらどうするつもりだったんだ?」
「すぐに逃げれる様にする為にボクが付いて行ったんだろ? バカなの?」
クロの辛辣な言葉は止まる事は無く、話しは更に深刻な方向へと続いて行く。




