第60話 偽神
龍一がゼウスを跡形も無く消し炭にするのを確認すると、タツミ達は龍一の元へと近づいた。
その表情は皆が信じられない物を見たと言ったところだ。誰もが近づけない程の力を持っていたゼウスを単独であっと言う間に倒したのだから当然ではあった。
「全員無事か? 治療が必要ならリバちゃんがいるうちに治して貰え。」
近付いて来るメンツを確認しながら龍一は全員の治療を促すと、リバティはヒジリの方へと戻って全員の治療を開始し始めた。
しかしリバティの疲労も酷く、各自が不自由なく動ける程度に回復するのが限度で、レン達もニュークリア・エクスプロージョンの余波と、ゼウスのダメージフィールドの影響で地道に削られていた。
「でも……サード・スキラーを倒すなんて……余計に人間離れして来てない?」
「いや、アイツは既にティルちゃんのニュークリア・エクスプロージョンで半分以上削られていたからな。怒りで精霊力を外部に向けすぎたせいで防御が弱くなっていた。だから俺の攻撃も通じたのさ。」
治療しながらリバティが龍一に話しかけると、謙遜なのかよく解らない返事が返って来た。
「普通はその外部に出された精霊力で近付けすらしないんだが? 俺が九頭龍を使ってもあんな接近戦は出来ないぞ。」
タツミは簡単に言っている兄を睨みながら文句を付ける。実際に万全の状態の時ですらゼウスのダメージフィールドを完全には無効化出来ていなかったからだ。
「さて、この封神具を破壊するか。良いな? レピス。」
「そうね~物騒だから~破壊しちゃっていいわよ~。ねぇ司令官様~?」
龍一は黄玉の封神具に雷帝刀を突きつける。レピスはさらに後ろを振り替えるとそこには黒兎から戻った稲葉の姿が有った。
先程の火傷の影響も有るのか、その姿はいつもの制服が所々焼け焦げており、至る所に負傷が見えた。
「ああ、構わん。下手に神霊が復活しても厄介だ。それに我々が目指すのは人の世界だ。神が人の世界に実在してはいけない。」
稲葉が頷くと同時に雷帝刀・白雷の一閃は黄玉を真っ二つに斬り裂くと、同時に何か怨念みたいな黒い感情の塊とハッキリと認識出来るものが飛び出した。
その塊は断末魔の様な声を上げると共に上空へ逃げるが、雷帝刀・白雷から撃ち出された雷撃によって粉々に霧散したのだった。
「あれが……ゼウスの精神体か?」
「いや……何か本体と言うよりは、残留思念の塊の様に感じたわ。」
「確かに、あれに生物的なニオイは無かったわよ。」
レンが呟くと、ユキとナギがそれぞれの見解を示す。特にナギは水面月華を一度見ているので、それとは違うと言う事を瞬時に察知した様だった。
「そうね~残留思念と言うか……移し替えた後の封神具と言った方が正しいわね~。残りカスの力を利用して~疑似的な『偽神ゼウス』を作り出したって所かしら~。」
「だから兄さんが偽神と言ったのか……って本物のゼウスってアレよりも?」
レピスの説明にタツミが偽物と言うか残りカスであれ程の強さと言う事を考えると、本物のゼウスだったらと背筋が寒くなるのを覚えた。
「強いに決まっているだろ? だから俺でも殺せた。本物ならば『神殺し』の神器か能力が必要になる。」
「神を殺せると認知された武器か……」
龍一は雷帝刀・白雷を持ち替えながら全員に見せるようにした。
「今、この場でゼウスを殺した認識がお前達には有るなら、雷帝刀・白雷は『神殺し』の力を得る。ただし、その認知の力はごく僅かだ。より強大な神と言う認知を受けた本物には通じない。認知の巨大さがある程度『神殺し』には必要なんだ。」
説明が終わると刀は霧散する様に消える。それと同時に全員が周囲の精霊力が通常に戻り始めている事に気付いた。
「む、奴が居なくなったせいか精霊力が安定して来たな。」
稲葉はアゴに手を当てながら何やら納得した様に呟いていた。そしてその言葉を聞いたレンは瞬時に今回の旅行の意図を察した。
「おい、今回のってさっきの門が本題じゃ無くて偽神ゼウスの討伐が最初からの目的だったんじゃねぇのか?」
レンの言葉にナギとユキも全てが繋がった様な表情になると稲葉を3人で取り囲み始めた。
「い、いや? ほら。ワシもまさか本当に『偽神』レベルの危険な物が原因だったとは思わなかったんだよ。精々ExTendedクラスの封神具が原因で精霊力が濃くなっているんだと思ったんだ。」
稲葉は凄味の効いた3人に気圧されて困った様な表情で弁明する。するとレピスが助け舟を出した。
「そう言わないの~だから私が『聖龍の瞳』を使って皆の危険を察知して~龍一を連れて来たんじゃないの~。」
「と言うか……『聖龍の瞳』が使える理由は先程聞きましたが。何でそれを黙っていたのです? それに稲葉さんとレピスはどう言う関係ですか? 返答次第では考えがありますよ?」
レピスの言葉に疑問を思い出したリィムが詰め寄る様に確認する。事と返答次第ではスディレットへの協力を全面拒否すると言った覚悟もうかがえる程だった。
「ぐ……いえ、元々スディレットには~帰還者の保護を昔からお願いしていたから~そこそこ面識が有るのよね~。だから~今回も~コッソリとは皆の警護をお願いしていたのよ~。」
「どうやって精霊界に居た筈のレピスがスディレットと連絡を取れていたのです? 門は人間の神器持ちしか開けれませんし、それこそ次元を超える事ができる存在でも居なければ無理でしょう?」
「そ、それはね~。機密事項だから~ちょっとここでは言えないわね~。」
リィムの指摘にたどたどしい返事を返すが、レピスも『ここでは』と念をす様に言った事で、この場での追及は諦めたと言った雰囲気になった。
そんな張りつめた空気が緩んだかと思うと、ソウタとルリがカメラを持って合流して来たのだった。
「お待たせっと、しっかりと戦闘の記録が撮れたぜ。基地に戻って詳細を見てみようか。」
「そうだね、私も早く見てみたいね。私の作った耐精霊力のカメラが機能するのか興味も有るしね。」
二人の登場にタツミ達は一瞬驚いたが、そもそも龍一が来ている時点でこの二人が来ている事は想定外とも言えなかったからだ。
「ソウタさん……急にバイト休みになったと言っておいて。実は知ってたのかしら? と言うか、ルリさんとデートしてたの?」
ユキだけは二人で登場したソウタに対して不服を申し立てていたが、ルリの方はソウタの持っているカメラにだけ興味が有る様で、二人の距離感は全くと言っていい程その様な様子は無かった。
だがユキだけは直感と言うか、何か嫌な物を感じているのか二人が近づいている事に危機感の様な物を覚えている様だった。
「お前な……ルリには仕事を依頼しただけだ。それに浮気みたいに言うな。別に俺はユキと付き合っている訳でも何でもないだろうが?」
「そうだね。それにソウタがユキと付き合ったら完全に犯罪じゃないかい?」
ソウタはウンザリしながら言い返す。ルリもいつもの流れの様に茶化しながら言うと、ソウタもユキもムキになってルリに喰って掛かり始めた。
「ヤレヤレ……騒がしくなったな。取りあえず避難先の人員の確認をしてくる。みんなはレピさ……ゴホン。レピスさんに付いて秘匿支部の方へと移動してくれ。」
「「「秘匿支部?」」」
稲葉の言葉にタツミ達は首をかしげる。
「私達はね~極秘協力者という感じで~スディレットにも登録されてない状態なのよね~だから~秘密基地でしか会議をしないのよ~。」
レピスの説明を聞いて、その場の全員が妙に納得した様子で頷く。
そして疲弊しきったタツミ達はレピスの案内で少し離れた茂みの中に有った、地下への階段から施設へと移動を開始したのであった。




