第59話 雷帝の兄
龍一は悠然と近づきながら肩を回して準備運動の仕草をしながらも、普段の人のよさそうな表情からは想像もつかない程に険しい目つきになっていた。
「さ~て、うちの大事で可愛い弟をイジメたお礼をしないといけないな。」
「ふん、さっきの奴よりは歯ごたえが有りそうだな。」
二人は3メートル程の間合いを取ってお互いに威圧を始めた。しかしお互いにそれに動じる様子も無かった。ゼウスは先程の攻撃で全身の至るところから火傷の焦げ臭さと出血が見られた。だが傷とは裏腹にその精霊力はさらに力を漲らせていた。
お互いの間に張りつめた空気が流れると、どの位の時間が経過したのだろうか? タツミ達はその緊張感から1秒がとても長く感じていた。
そして押し返して来た波が二人の足元に触れると同時に双方が動き出した。
「行くぞ! 雷帝刀・白雷!」
「砕けろ! ケラウノス!」
龍一は雷を纏った刀、雷帝刀・白雷を居合で斬りかかり、ゼウスも雷を纏った拳で殴りかかった。
ゼウスは刀身を身をよじりながら躱すと、龍一の顔面へと拳を叩き込もうとするが、龍一も身をよじりながら流れる様に回避して次の攻撃を繰り出す。
お互いが紙一重で避ける攻防が続くと、途中でタツミが違和感に気付いた。
「ゼウスは俺の攻撃は受けていたのに、兄さんの攻撃は回避している?」
「そ、そう言えば……アルセインの攻撃が効いたのかな?」
ヒジリも気付いて可能性を示唆するが、どう考えてもそういった類では無いように感じた。そしてその疑問に答える様にユキが答えた。
「単純に攻撃力が段違いなのよ。どう言う事? 龍一さんの纏っている精霊力がエルのフラガラッハよりも全然強いんですけど?」
「そうか、ユキの感知力はそっち方面だったな……」
レンが納得した様に頷いた。
先程の共闘でナギの探知は風を使ったニオイによる位置索敵と攻撃予測や危機感知で、レンの場合は水中をソナーの要領で位置探知。ユキの場合は精度は欠けるが相手の精霊力の強さを探知できるのだと理解していた。
「でもどうしてでしょうか? 神霊に近い力なんて……どうやって強くなったのでしょうか?」
リィムが疑問を口にすると同時にタツミが何かを思い出した様に呟いた。
「そう言えば……レピスと結婚して長年の夢が叶ったとか言ってたが……」
「まさか……お兄さんってその時の感情で神器を進化させたのかな?」
タツミの言葉にヒジリが呆れた表情で返すが、確かに精霊は契約主の感情を吸って成長するが、それが神器化して意識の無い精霊も対象なのかと疑問が浮かんだのだ。
しかし目の前の光景を見る限り、そうとしか言えない現実が目の前に広がっていた。ほんの数カ月前はタツミなら何とか互角に戦っていたのに、手も足も出なかったゼウスに対して互角以上に戦っているのだから。
「良い所だけど~少し違うわね~。」
後ろからレピスが姿を現すと、龍一から視線を逸らさずに見つめながら何と言ったら良いか悩んでいる様子だった。
「龍一の精霊『白雷』を具現化した時の感情はね~『家族を守る力をくれ』だったのよ~。」
「それって、昔話していたタツミ君とお兄さんが最初に精霊界に飛ばされた時の事ですよね?」
レピスの言葉にヒジリは確認する様にたずねると、レピスは黙って頷いた。
「そして~守る対象が増えたのと~決意が強くなったからかしらね~。」
そう言って微笑みながらお腹に手を当てると、その場の全員が意味を察したのか驚きに支配された。
「高校生でもう伯父さんになるのかよ!」
タツミの言葉が響くが、他の全員は混乱の表情をしていた。
そもそもレピスは元々は精霊であり、『特異能力者』であったが、精霊界でモーシェとの戦闘で一度は消滅した筈だった。しかしリバティの精霊術で人間界に転生に近い形で復活したので、区別が人間か精霊か不明のままだった。
なのでその二人の間に子供が出来ると言う事が想像できていなかったと言うのが正しい反応だった。
(恐らくだけど~私の仮説が正しいなら~やっぱり居るのよね『運命の筆記者』が~だとしたら~私やリィム達の辻褄合わせをしたのは~こいつらの背後なのかしら~?)
レピスは一人確定していないであろう疑問を胸に秘めながらも、その虹色に輝く左目で二人の戦いを見守っていた。
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「ク! 早く終わらせて女と遊ぶつもりが!」
「ハァ……浮気性の男は生理的に無理だな。死んでくれ。」
「ワシほどの神ならばそれが許されるのだよ!」
「人間相手に手こずっているのが神だと? 所詮お前の肉体も人間なんだよ!」
ゼウスはいつの間にかケラウノスを剣の形にして戦っていた。拳に纏った雷の余波で焼き殺そうとしたのだが、何故か龍一には雷が一切効かなかったからである。
そして違和感を覚えながらも刀と剣で鍔迫り合いになったとしてもダメージどころか感電している様子も無かった。
「何故に貴様は雷が効かぬ! ワシのケラウノスは周囲にダメージフィールドを張るのにそれすら効いておらん! 人間の神器如きが神の『超越能力者』の力を超える訳が無い!」
ゼウスは理解出来ないと言った表情で龍一と間合いを取り直して、声に電撃を乗せて大声を上げるが、タツミの時と違い、龍一は平然としながら刀を構え直した。
「教える義理も無いんだがな、俺の雷帝刀・白雷の能力はな『精霊殺し』だ。つまり精霊術を斬れるし、無効化も出来る。そして精霊に対して無類の強さを誇る。」
龍一は白雷を一振りすると、周囲の雷がまるで付き従うかの様に刀へと集まって行った。そのまま踏み込んでゼウスとの斬り合いを再開させる。
「先程の奴のキャンセラー能力とは違うのか!? いや、根本的な力そのものが違うと言うのか!」
「アイツの『九頭龍』は未完全だからな! 伸びしろは俺よりも高いぞ! なんせ自慢の弟だからなぁぁぁぁ!」
剣の応酬で押され始めたゼウスは盾を作り出して防ごうとするが、雷帝刀・白雷はケラウノスで出来た盾をキレイに真っ二つにしてそのまま右腕を縦に深く切り裂いた。
「ぐあぁぁぁ! 神の雷を斬っただと!」
「だからお前は神でも何でもない! 只の精霊に振り回されている人間だ!」
よろめいた隙を逃さずに流れる剣捌きでゼウスの左腕と両足腿を深く切り裂くと、その場で立っている事すら出来なくなって砂浜にうつ伏せで倒れ込んだ。
「バカな! ワシが深手を負うだと?! 神霊の力は『神殺し』の力でなければ殺せない筈なのに! コイツは何者なのだ!」
龍一は動けなくなって喚きながら雷を巻き散らしているゼウスに近づくと、払いのける様に雷帝刀・白雷で雷を一振りで消し去った。
そして顔の横に切っ先を突きつけて冷酷な表情で告げた。
「本当の神霊ならもっと手強い。貴様は大方レプリカの様な神霊の封神具を使っただけだろうな。お前なんかよりレピスの方がずっと強かった。」
「な! ワシを偽物呼ばわりすると……」
ゼウスの言葉が終わる前に、雷帝刀はゼウスの首を跳ねた。そして目にも止まらぬ神速で頭部を粉々に切り刻んだ後、雷で跡形もなく消し炭にした。
「頭を完全に潰せは復活も無いだろう……念の為だ。」
龍一は万が一にでも自爆や復活など変な事が起きない様に、次は残った体を粉々に切り裂き同じように雷で消し去って行く。
そして最後に掌大の黄色い雷を纏った玉がその場に残されたのだった。




