第58話 核撃爆裂弾
激しい轟音と共に目を開けられない様な雷が荒れ狂っていた。
「さて、待たせたな。コレがケラウノスを装備した姿だ。この神の姿を見て生きている事の方が希少なのだがな。」
ゼウスは雷の鎖帷子の様な鎧と手甲と具足に剣と盾を装備していた。その姿は昔話の挿絵に出て来る兵士の姿そのものだったが、纏う雷の力強さに一種の神々しさを感じる程だった。
「だろうな、立っているだけで電気が伝わって来るさ。耐性や俺のキャンセラー能力が無ければ一秒と待たずに消し炭になるんだろ?」
タツミは口から発せられる言葉にも攻撃性が有る事を瞬時に察知した。空気の振動にそのまま電気が伝わって来るのだ。
ゼウスもこの状況下でも軽口を叩くタツミの胆力に少し驚きを見せるが、黙ってうなずくと剣を振りかぶって脳天を狙って振り抜く。
瞬時に余波のダメージも考慮しながら余力を持って回避するが、耐性やキャンセラー能力を使用してもその余波は凄まじく、振り下ろした周囲2~3メートルは雷の嵐が荒れ狂っていた。
「威力を減退させてもこの有様かよ!」
「回復も既に入ってるからね! 今の避け方じゃジリ貧になる!」
リバティがもっと距離を取って回避しろと言うが、刀による格闘戦が主体のタツミにとっては攻撃が封じられる事に近い。
「クソ! リバちゃん。退避はまだか?」
「来る前に確認したけどまだ10分しか経過して無いわ!」
「あと30分か……」
タツミは次々とケラウノスの剣を振り回すゼウスの攻撃を避けながら同じく雷撃で反撃を試みるが、焼け石に水程度で追い詰められていった。
そして更に5分程過ぎた所で、ゼウスがピタリと足を止めた。
「何を企んでいる。土が操作できるなら絶縁体の塊で攻撃も出来るだろうに、足元の超電導を使う為の金属板で制御が一杯などと詰まらん事は言わんだろう?」
「ぜぇ、ぜぇ……おっと、休ませてくれるのは助かるが……本気でそれが精一杯だと言ったら信じるのか?」
足を止めたゼウスに連動する様に、タツミも足を止めて体に不足している酸素を取り込む。
その様子を見てゼウスは少し考えこむが、すぐにそれが些事であると気付いて首を横に振った。
「いや、何か企んだ所で貴様ごときがワシに対して足止め以外出来る訳が無いか。もはや遊びはこれまで、さっさと貴様を殺して女共と遊ぶ方が良い時間潰しになるわ。」
ゼウスはそう言ってヒジリ達の方へと視線を移して舌なめずりをすると、ケラウノスの出力を上げ始めた。
その一瞬の余所見をタツミは見逃さなかった。そして仕込んでいた罠を起動させる。
「土壌操作! 土よ囲め!」
一瞬のスキをついてゼウスを中心として絶縁体のガラスで厚く作られた壁がドーム状に包み始める。
ゼウスはその様子を見て鼻で笑うと雷の熱と衝撃で破壊しようとする。しかしガラスは雷の直撃で壊れる事は無く、内側から水蒸気が大量に発生し始めたのだった。
「これはガラスを冷やした水で覆う事で、熱と衝撃を緩和しているのか? しかしこの程度では足止めにもならんぞ!」
ドームが完成すると、中に居るゼウスはケラウノスの剣を構えてドームの壁へと近づく。それと同時に足元や空間から大量の気泡が立つ音が聞こえ始めた。
その音に気付いたゼウスは不思議がってタツミの方を向くと、そこにはティルに入れ替わった姿が有った。そしてその手には極大の爆裂弾が生成されていた。
「コレ一発撃ったら本気で終わりだからね!」
「行け! 今しかない!」
「クロ! 回収準備!」
「行け! 神を焼き殺す原初の炎! 『ニュークリア・エクスプロージョン』!」
3人の声が響くと同時に爆裂弾、いや、核撃爆裂弾が轟音と共に撃ち出される。
炎の質が危険と判断したのかゼウスは咄嗟にケラウノスの盾をかざして防ごうとするが、核撃爆裂弾がガラスの壁を砕いて中に入ると同時に内部が別口の大爆発を起こした。
水の電気分解による水素と酸素の過剰発生による大爆発だった。そしてそれは充分にゼウスの不意を突く事に成功した。
予想外の爆発に構えが一瞬だけ崩れると、次の瞬間には核撃爆裂弾が確実にゼウスの体を包むと同時に周囲を巻き込んだ大爆発を起こした。
その余波は凄まじく、タツミはホテル側に居たレン達の所まで一瞬で吹き飛ばされ、受け止めると同時にクロが『座標跳躍』を使って比較的安全な所まで退避した。
ホテルの窓は全て余波で砕け散りると同時に熱波で溶けた。上階の部分は爆発の揺れで亀裂が入り、こちらも熱の余波で塗装が溶ける様に落ちて行った。
また海面も遠方へと飛ばされ、戻る勢いで大きな津波が発生する事が余裕で予測できる程であった。
「全員光の盾の中に入って! このままじゃ放射能に汚染される!」
瞬時に放射能を察知したユキは光の壁を展開して遮断する結界を生成したが、爆心地から離れたが余波が酷く、持ちこたえるのが困難な表情をしていた。
そして全員が諦めかけていると、目の前に氷の壁が次々に発生してタツミ達を守りだした。その光景を見て振り返ると、そこにはリィムとエルが立っていた。
「この光は俺が何とかします! フラガラッハ! モード『応える者』!」
エルはフラガラッハを取り出すと、刀身を虹色の光へと変化させ、余波に向けて大剣を振り下ろす。すると不思議な現象が起きて何かが真っ二つに斬り裂かれたのが理解出来ると同時に全員を守った。
「事象を斬るとは言え……相変わらずエル君のフラガラッハはズルいですね。」
熱波や放射能の現象すら斬り裂いたのを確認したのか、リィムは呆れた様子で虹色の刀身を見ていた。
だが冷静に現状を見ていたユキはすぐに次の被害を想定して声を上げた。
「エル! ホテル付近の放射能汚染も何とか出来る? 避難者達の保護をお願い! レンとナギは吹き飛ばされた海水の津波の軽減に行かないと! リィムも氷の壁で被害を減らして!」
ユキの言葉に全員がすぐに頷くと各自が行動に移り出そうとしたが、すぐにその行動はゼウスの咆哮と共に中断させられた。
「小僧ぉぉぉぉぉぉぉ! ワシに恐怖を与えるとは! 許さん! 神罰を下してやる! どこだ!」
爆心地からおびただしい量の雷と共に荒れ狂うケラウノスが、寄せ返して来ていた津波を吹き飛ばし、さらには放射能物質までも吹き飛ばされたかのような余波を巻き起こすと、ホテルが完全に倒壊した。
避難している人達は地下の電車を利用しているので、電源さえ生きていれば大丈夫だろうが、逃げる事すら許されない雰囲気になったタツミ達はその場から動けなくなっていた。
ゼウスは周囲を見回してタツミの姿を確認すると、一歩づつ力強く大地を踏みしめながら近づいて来た。その距離はまだ1キロ以上は有ったが、余波で体中に痛みが走り出した事に全員が気付いた。
「神殺しは神を殺せると言う大衆の認知が無ければ無駄だ! 貴様らにワシを殺す事などできん!」
タツミは力を完全に使い果たして座りながらも体を起こすのが精一杯の様子だった。九頭龍のキャンセラー能力すら発動出来なくなっていた。
「やべぇ……近づかれただけ死ぬな。それに筋肉に変に電気が流れてるのか? 身動きが取れねぇ。」
レンは何とかしようとしているが大気から伝わる電気で思う様に動けない事に気付いた。そしてクロが諦めて退避しようと能力を使おうとした時だった。
「ふ~ん……神霊? いや、偽神ってとこか?」
不意に後方から声が響くと同時にゼウスの目が見開かれて怒りが加速しているのが見えた。
「誰だ! ワシを侮辱するのは!」
「怒るって事は事実なんだろ? だったらこの場で退場してもらう。」
ゼウスの怒りの咆哮を意に介さず、声の主はタツミ達の横を抜けてゼウスの方へと悠然と歩いて行く。その手には一本の日本刀が雷を纏いながら早く解放されたいと言わんばかりに荒ぶっていた。
「に、兄さん……レピスが連れて来たのか?」
タツミは声を振り絞る様に出すと、龍一は振り返らずに手を上げただけでそのままゼウスの方へと進んで行く。
「そうだ、レピスに感謝しておけ。最強の兄貴が援軍に来たんだからな。」
誰もか身動き取れない環境の中、最強と自称した兄はまるで散歩するかの如くゼウスへと近づいて行った。




