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第57話 絶望と希望

「よかろう、貴様には特別に絶望を味あわせてやる! 神に血を流させた罪を償うがいい! 『神装ケラウノス』!」


 ゼウスは手を天に掲げて叫ぶと今までとは比べ物にならない雷の嵐が巻き起こりゼウスへと集まる。


 レン達も危険と判断して更に後方へと下がるが余波に耐えきれないでいると、ユキがアラスティアを召喚して光の盾で何とか耐え凌ぎ始めた。


「何て力だ……先程から精霊力の探知が出来ないと思っていたが、こんな力をまともに探知してたら発狂してしまうな。」


 アラスティアの言葉に黙ってヒジリ以外のメンツは頷いた。余りの力の差に呆然とするしかない自分達と、それに立ち向かっているタツミの姿を見比べて歯がゆさを感じていた。


「クソ……俺は相性が悪いとはいえ、ここまで何も出来ない力の差なのか。」


「そんな事言ったら私もだわよ。すでに危機感知なんて全域に感じるからどうしようも無いわよ。」


 レンとナギの言葉の横で、先程戻って来たばかりのヒジリだけはクロを抱えながら真っ直ぐにタツミ達を見据えていた。


「大丈夫。ティルもリバちゃんもタツミ君に預けて来たから信じてあげて。私達は確実に生き延びる事だけを考えましょう。」


 ヒジリは一瞬だが近づいた事による電撃でのダメージを自身の独自精霊術である『豊穣《ハーベスト》』でクロと自身の治療をしていた。二人をよく見ると、かなりの火傷を負っていた。


 ヒジリの精霊術の『豊穣《ハーベスト》』はリバティの回復とは違い、対象者の生命力や体力を消費する回復術なので、被治療者は相応のリスクを負う必要が有る。


 リバティの精霊術『大いなる再生者(グランド・リバイバー)』の『再生の炎』の能力は術者の生命力や体力を消費する。つまり術者にしかリスクが無い。この場合はタツミの回復をリバティが保有している生命力分だけ補える。


「流石にリバティに可能な範囲で生命力を渡したから……無茶な自己回復は厳しいね。多分次は側に転移できても回復が間に合わない。」


 疲労の色が濃いヒジリを見て、レン達はタツミが自力でしか避難できない事を悟ると、焦りの色が隠せなかった。



―――――――――――――――――


「これはこれは、思ったよりやるじゃねえか。アンタらのリーダーは凄いな。」


 北見は遠目でゼウスとタツミの戦いを見ながら拍手していた。その様子をリィムとエルは不服そうにしながらも警戒を緩めることが出来なかった。


「ええ、だから私達が合流すれば勝機も見えて来る筈です。そこをどいてくれますか?」


「ふうん、本当にそう思っているのか? それに俺は仲間になるか捕縛されるかを選べと言った筈だが?」


 リィムが隙を見て北見の脇を抜けようと試みるが、すぐにラガスに切り替わると進路を塞いで迫って来たリィムの腕を掴むと空気投げの様に宙へと舞わせて元の位置へと放り投げた。


「くっ、私も体術はそれなりに出来る筈なのに!」


「リィムさん、落ち着いて下さい。焦って平常心を無くすほど体術戦は不利になります!」


 エルが自制を促すとリィムは黙って頷いて深呼吸をして気持ちを落ち着けようとした。


「さぁさぁ、どうする? 時間切れまではあんまり時間が無いようだが?」


 北見は不安を煽る言い方で選択を迫る。当然の事ながら潜伏しているであろう味方を臭わせる様な視線や動きを忘れていなかった。前回に全く探知出来なかったオーエンの事を考慮すれば警戒を解ける筈も無かった。この点は慎重な二人の欠点とも言えた。


 その性格を見抜いているかの様に北見は見た目の戦力では不利にもかかわらず二人を勧誘しつつも足止めをしていた。


 そしてその均衡を破る声が不意に北見の後方の茂みの方から聞こえて来た。


「あらあら~ハッタリが上手ね~。二人はもう少し探知力を鍛えないと~肝心な時に後悔するわよ~?」


 3人の視線が後方へ向くと同時に、リィムの影から男が急に現れて漆黒の刀を北見に向けて斬りつける。


「仲間だと!?」


 声と同時に北見はラガスと切り替わっていたので、瞬のスキを使った不意打ちはわずか薄皮一枚を斬った所で止まっていた。


 ラガスは瞬時に反撃に移ると素早い体術で男を追い詰めようとするが、逆に漆黒の刀に逸らし、受け流されて斬撃を受けるが、男は斬れないと判断すると刀による打撃の連打を浴び始めた。


「ヤレヤレ基礎がなって無いな。そんなんじゃ折角の精霊力の強さが台無しだな。」


 男は片膝をついたラガスを見下ろしながら切っ先を相手に向けて悠然と構えた。


「あなたは……ソウタさん!?」

「何でソウタさんがここに? って何で精霊術を使えるんですか?!」


 ソウタと呼ばれた男性はセンターパートの髪型で毛先をオレンジ色に染めた20代半ばの様に見えた。そしてユキのバイトの雇い主であり、精霊界で一緒に旅をした仲間でも有った。


「あ? レピスに連行された。龍一とルリも来てる。と言うか今回の危険を察知したのはレピスだから感謝しておけよ?」


「あらあら~私はもう精霊術が使えないから~戦いはみんな任せだけど~『聖龍の瞳(ディア・ラケシス)』は私の特異能力《セカンド・スキル》だからなのか~まだ使えたのよね~。」


 ラガスの後ろからショートボブの金髪で金眼の女性が姿を現した。ただ一点だけ違和感が有るとすれば左目だけが時折虹色に輝いているのが見えた。


「私達にまで黙ってたんですか?! と言うか精霊術は使えないのもウソですか?」


 リィムが怒り気味に問いただすが、レピスは気にする素振りも見せずに淡々と話を続ける。


「使えないわよ~これは本当~。でもね~私の情報収集力が有るから~今回の騒動の対策ができたのよ~? ねぇ、ラガス=プティア。北海道のあの時、私もコッソリと隠れて居たのよ~気付かなかったのかしら~?」


「え? どうやって居たんですか? 俺達の後を付けてた? と言うかどうやって潜伏していたんですか?」


 レピスの発言にエルは驚きを隠せない様子だったが、レピスは唇に指を当ててにっこりと笑った。


「敵の前で情報を渡すのは~ダメでしょ~? まずは~この子を捕まえちゃいましょうか~ルリ~お願いして良いかしら~?」


 そう言うとレピスはラガスを指差す。そして更に茂みの方から一人の細毛の茶色っぽい髪質のポニーテールの勝ち気な性格を表情に出した様な女性が現れた。


「よし、じゃあ拘束は私の方だね。来な! 『ルーリア=ミアレス』!」


 ルリと呼ばれた女性は霊装銃でこめかみを撃ち抜くと髪色がライトグレーへと変化していく。そして一気に気怠そうな表情へと変わって行った。


「働きたく無いんだよ……何で呼ぶんだよー。タツミっちにすら呼ぶなって断ってるのに酷いんだよ。」


「良いからちゃっちゃと働きな! コイツの封神縄で拘束するから『大地還元錬成《アース・ストレージ》』から取り出しておくれ。」


 内側からのルリの声に急かされて、やる気のない表情のままルーリアは地面から縄を取り出した。


「く、クソ……どう言う事だ、体が勝手に震えて力が入らん!」


 ラガスがダメージは大して無いのに体を震わせて動けなくなっている事に不思議そうにしていた。


 そして動けないラガスを捕まえようとした時だった。ラガスの足元の影が急に広がったかと思うと、そのまま闇の中へと引きづり込まれて行ったのだった。


「えっと……引っ込んで良い?」


 その様子を唖然として見ていたルーリアは一言しゃべるとルリと切り替わって裏に引っ込んだのであった。


「逃げられたけど……これも想定内かい?」


「当然よ~恐らくだけど~オーエンって子が回収したのでしょうね~。彼の精霊術は厄介そうね~。」


 そして敵が居なくなったのを確認したエルとリィムは慌ててゼウスの事を説明しようとして3人に駆け寄るが、3人はそそくさとカメラを準備し始めたのだった。


「これが耐精霊力用のカメラか。これならバッチリと録画できるな!」


「全く、何を作らせるかと思えば武器じゃ無くてカメラのパーツとはね。」


「あらあら~これも立派な武器になるんだから~。自信を持ちなさいな~。」


 和気あいあいとしながら三脚を立ててタツミとゼウスの戦いの録画を始め出したのだ。その様子を見て二人は唖然としながら抗議した。


「早く行かないと! タツミさんとは言えどもあんなバケモノに単独で勝てる訳が有りませんよ!」


「そうです! 俺達も早く……」


「行った所で~邪魔になるわよ~。それにタツミちゃんだけじゃ無くて~リバちゃんと~ティルちゃんも居るでしょ~? それにあの人がもうすぐ参戦するわよ~。」


 レピスはエルの言葉を遮る様に言うと指をさして黙って見ていろと表情で伝えたのだった。

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