第56話 援軍
「貴様……あれ程までに雷属性ではワシにダメージすら与えられんと言っているのに何をしている? そろそろ余興は終わりにするぞ?」
ゼウスはタツミの刀に集まり続ける電流を見て苛立ち始めていた。しかしその状況下でも随時リバティや稲葉に向けて電撃を撃ち出して、手出しできない様に牽制を続けていた。
「やってみないと解らないだろう! 俺は諦めが悪い方だからな。」
「ならばそろそろ死ぬがいい、『ケラウノス』!」
ゼウスが先程までとは明らかに威力の違う電撃を撃ち出す。タツミは九頭龍の力で威力を減退させつつも、雷属性の『超反射』と火属性の『身体強化』、土・氷・雷の複合精霊術『超電導』を使って回避する。
当然の事ながら人間の限界を超える速度で肉体のダメージも十分に有った。それには火属性の『自己治癒強化』で被害を抑えつつの回避になった。
「小賢しい! 逃げるだけか!」
「うるせぇ! 逃げ回るハエも殺せねぇなんて本当に神かよ!」
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「ねぇ、クロ。タツミさんこのままだと危険なんだけど!」
「人の事を気にする暇あったら回避の邪魔しないでくれ!」
リバティは稲葉に腕を掴まれながらも『座標跳躍』で回避をくり返していた。しかし流石に攻撃の手数が増えすぎて困窮し始めた。
「あー! もう! クロ! ウサギの姿に戻りなさい! そしてフードに入ってそこから跳躍して頂戴! 昔に散々やったでしょ!」
「う……誰にも見られない事を祈るか……リバちゃん任せたからね。」
稲葉の声が急に若い青年の様な声に変わると、稲葉は黒ウサギの姿になってリバティの上着のフードの中へと跳躍して隠れる。
「タツミさんは何かやっている様だから私達もゼウスの気を逸らさせるよ!」
「了解!」
再びリバティが火焔翼を展開すると同時にクロの『座標跳躍』でケラウノスを回避しながら、翼から炎の羽『燐羽弾』を次々と撃ち出していくがその全てがゼウスが撃ち出したケラウノスの雷によって破壊された。
「いくら攻撃型では無い私達と言えども、特異能力者の攻撃がこうも届かないなんて……」
下手に近づいてもゼウス付近の雷の密度が高すぎてリバティの回復能力をもってしても無事では済まない事が容易に想像できた。
現状でゼウスに近づけるのはキャンセラー能力持ちのタツミだけなのは間違い無かった。しかしその力も万能では無い為、着実にダメージが蓄積しているのが確認できたのだった。
「クロ、一瞬だけで良いからスキを狙ってタツミさんの所に飛んで。私がタツミさんと同化して回復を担当するから。」
「え? リバちゃん。あの中にどのタイミングで入るのさ? 流石に移っている間に下手したらボクとヒジリちゃんが死んじゃうよ?」
「そこは何とかするのが仕事でしょうが。」
「そんな無茶な!」
二人が言い争っていると、そこにレン達が遠方から近づいて来たのだった。
「リバちゃん?! 人間界に出て来たって事はヒジリちゃんが召喚したの? ってあの雷の嵐は何なの?」
雷の射程外からリバティの姿を確認したユキが真っ先に驚きながら声を掛けるが、目の前に広がるゼウスの雷撃の危険性を瞬時に理解したのか下手にそれ以上近付く事はしなかった。
そしてリバティはクロの力で3人の側に転移すると、状況を手短に説明し始めた。
「アレは神霊って奴でモーシェよりも格上の存在よ。私達はスディレットの人達が避難完了までの足止め。そしてその後私達の撤退が目的よ。ただ、見ての通り雷の量が凄くてタツミさん以外は近づけない。」
「ナルホド、九頭龍のキャンセル能力で威力を下げつつ属性の耐性をフル活用して何とかって事か……ただ、削られているからリバちゃんが前の様に同化して回復を担当したいと言う事だな?」
レンは素早く現状を見て目的を理解した。そしてリバティの意図を汲み取ったが、問題はどうやるかと言う事だった。
「ちなみにこのウサギ……私のペットが空間跳躍をしてくれるからタイミングさえ分かればタツミさんに接触してすぐに退避も出来るわ。」
「え……何このウサギ。可愛いんだけど……後で撫でて良い?」
「ユキ、後にしなさい。何でアンタは緊張感が無いのよ!」
ナギがユキを止めながらも、自分の役割を瞬時に理解したのかうっすらと冷や汗が止まらない様子だった。
「要するに、私の危機感知でそのタイミングを教えろって事だわよね?」
「話が早いわね。頼んだわよナギ。」
「あれだけ格上だと保証は無いけど……回復術をしっかり常時展開するのよ。」
ナギはパティスを呼び出して神経を集中させる。そして一瞬のスキを伺うのだった。
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「ふむ、小バエが増えた様だな……お、今度は少しは良い女が居るではないか。」
「本当にクソみたいなエロオヤジだな!」
「ふん、貴様は人間にしては確かに面白い奴だ。このワシにここまで手間を取らせる奴はおるまい。」
「それは終わってから言いやがれ!」
ゼウスは横目でナギやユキを確認したのか、楽しそうな表情を浮かべていた。そしてその顔に嫌悪する様に挑発して意識を向けさせようとするが、既にゼウスの意識はそちらに移っていた。
「やはり男と遊ぶのは趣味ではない。少しあちらの女子共と遊んで来るか。」
言葉の直後、一瞬だがゼウスの左腕に雷が集まり出した。
今までは溜めと言う行動が無くただ雷を垂れ流していると言う感じだったが、今度のは明らかに威力が桁違いに跳ね上がって行くのが確認できた。
その一瞬のスキにリバティがタツミの横に現れた。そして手を掴むと瞬時の炎となってタツミの体へと吸い込まれて行った。
直後にリバティの居た位置に出て来たヒジリはゼウスを睨み付けると、一瞬だけさらにゼウスの行動にためらいが発生する。
「な! 急にいい女に変わった?!」
「タツミ君は絶対に負けないから!
明らかに下らない内容でゼウスのスキが出来るとヒジリは一言残して瞬時に元のレン達の位置へと戻った。
直後ゼウスは左腕を振り下ろすと同時に大量の雷がタツミへと撃ち込まれた。
その威力はすさまじく、一時的にだが海を割り、付近の海水が煮立つようなニオイを上げていた。砂地の部分もあまりの高温にガラス質が溶け固まっていた。
「男の方は流石に消し飛んだか。そして先程の女子は無事か……口説く前に死なれたら夜も眠れんからな。」
ゼウスは目の前の光景から振り返ってレン達の方を見ると、ヒジリの姿を確認したのか安堵の息をついていた。
「勝手に消し飛ばすな。」
ゼウスは声に驚きの表情を浮かべて振り返ると、首筋に刀が横薙ぎに迫っている事に気付いた。
そして刀はそのまま首筋へと当たるが、まるで金属音の様な音を立てて弾かれた。その首には薄っすらとかすり傷が有り、血が少しだけ滲んでいた。
「コレが俺の全力状態だ! あの程度じゃ死なない!」
先程までリバティが纏っていた炎の翼がタツミの背中から生えており、先程までの雷撃によるダメージも全て回復している姿が有った。
「小僧……神たるワシに傷を付けおったな!」
ゼウスは刀の当たった首筋を触り、自身の血を見るとワナワナと震える様に表情を引きつらせていった。
(タツミさん! あんまり挑発しすぎないで! さっきの電撃も私の回復術が無かったら死んでるレベルだからね!)
タツミと同化したリバティが警告を促す。キャンセラー能力で威力減退させた後、リバティの超回復能力で大ケガを治し続けて耐えただけで、完全に回避したとか無効化した訳では無かった。
そしてこれからはゼウスも手加減をして来ないと考えるとより危険度は増す。しかしこちらに注意を引く為には仕方なかったとタツミは腹を括って刀を構えた。




