第55話 認知の力
ゼウスが近づいて来るとその姿が認識できる様になって来た。
「恐らくだが精霊力の適性の低い人間からは何かの自然現象にしか見えていない。そしてこの精霊力の歪みでは精霊界へ飛ばされてもおかしくは無いな。」
稲葉がボソリと呟くと、先程まで他の人達が落雷を見ているだけに見えたのはそう言う事なのかとタツミは腑に落ちた気持ちになった。
「ナルホドね……だから稲葉さんが放送を掛けるまで誰も動かなかったのか。」
「アンタ達は随分と余裕ね、私は出来ればさっさと逃げたいんだけど?」
「またまた、リバちゃんが誰かを見殺しになんて出来る筈無いだろ? そこは信じてるんだからね?」
「調子の良い事ばっかり言うな!」
タツミとの真面目な会話もすぐにいつもの流れに戻るが、リバティ的に緊張しすぎない様にと言ってるのが伺えた。
「ほう、女もおるか……だがまだ幼いな。もう少し大人になって美しければ相手をしてやっても良かったものを。」
白髪の長いウェーブが掛かった髪を無造作になびかせながら、逞しい体つきで白い布の服を纏った男の姿が視認出来た。
そして開口一番にどこかで聞いた事の有る様なセリフが出て来たのだった。
「そう言えば……ゼウスって女たらしで有名な神様だったな。奥さんのヘラ以外の女性との不倫やら隠し子やら沢山いたよな。」
タツミの言葉にリバティは心底嫌悪した顔をしていた。稲葉も流石に知ってはいたのだろうが、敢えて口には出して無い様だった。
「だったら絶対にヒジリは表に出せないようね。」
リバティが炎の翼『火焔翼』を展開する。そして手の平に大きな火球を作り始めた。
「タツミさん! クロ!」
「「おう!」」
掛け声と共にリバティが悠然と構えているゼウスに向けて、耳をつんざく発射音と共に火球を撃ち出すと同時に稲葉とタツミの姿はそれぞれ消えた様に見えた。
「コロナ・エクスプロージョン!」
「ふむ、中々の力だが……所詮は子供の遊びだな。」
エクスプロージョンがゼウスに直撃し、砂と海水を巻き上げる大爆発を起こす。
しかしすぐに大量の雷が落ちると、辺り一帯を雷が焼き払いながら無傷のゼウスの姿が現れた。ゼウスは受け止めたであろう左手のマジマジと見ると、少しだけ赤くなっているのが見えた。
「ふむ、少々手が痛んだぞ。」
悠然と語るゼウスに、一方向から雷を消滅させながら一直線にタツミが雷帝刀・鳳雷を振り上げて斬りかかる。
「ケラウノス。」
ゼウスは左手をそのまま横薙ぎに振るうと雷の刃が繰り出されてる。タツミは咄嗟に雷刃に向けて刀を振り下ろしたのだが。
「ぐ!? け、消しきれない! それにこの威力は?!」
そのまま後方へと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると同時に爆発した。そこへ間を置かずに落雷が次々と撃ちこまれるが、舞い上がった砂煙が落ち着くとそこには誰の姿も無かった。
「む?」
「こっちだ! ゼロ距離で喰らえ! 鳳雷斬!」
稲葉に腕を掴まれたタツミの姿がゼウスの後ろに現れた瞬間、雷帝刀から巨大な雷鳥が撃ち出されてゼウスの腹部へと鋭いクチバシを刺し込む様に突進した。
二人は精霊術を撃ち出すと同時に再びリバティの隣へと瞬時に移動したのだった。
「どうだ?」
「バカ! 発声したら位置がバレるでしょ!」
「いや、神霊クラスの探知力ならすぐばれると思うが?」
3人は話しながらもすぐに位置を変えて突発的な攻撃に対処しながらゼウスの様子を確認すると、何とゼウスはその場で鳳雷斬を立ったままで受け止めていた。
「こそばゆいな。雷属性でワシに攻撃と言う事自体が間違えておる。」
ゼウスは左手で雷鳥の頭を掴むと軽く握り潰して、その霧散した雷を息で吸い込んで吸収したのだった。
「これって雷帝刀じゃ勝負にすらないらないな。」
「コロナ・エクスプロージョンでもダメージ無いようだし……クロの『座標跳躍』で不意を突けても効果的な攻撃手段が無いようだね。」
タツミ達はコレは防戦一方になるのを予想すると同時に、ゼウスは手をこちらへ向けて大量の雷を撃ち出して来た。
「クソが! 九頭龍・無効化領域展開! って強すぎて貫通して来る!」
「危ない! 火焔翼で弾くから後ろに下がって!」
雷帝刀から妙な空間が展開されると雷の威力は明らかに落ちたが、それでも充分に殺傷力の高いのが伺える雷が襲い掛かって来た。
それをリバティは火焔翼で打ち払う様にガードするが、段々と物量に押され始めるのに時間は掛からなかった。
「二人とも! 『座標跳躍』で飛ぶぞ!」
稲葉は二人の腕を掴んで瞬間移動する。そして今度は海を背にしてゼウスを見据える位置に移動した。間違っても避難中のホテル側への攻撃を防ぐ為だった。
「貴様等……『神への情熱』の幹部たちが警戒に値すると言うだけは有るな。だが多少のワシの攻撃を凌げても戦いにはならんな。」
「全力ならさっさと出せ。ワシはケラウノスの力の半分も使っておらんのだからな。」
「仕方ない……モードチェンジ、月虹丸。ストック全開放!」
ゼウスの挑発の言葉と同時に雷帝刀は月虹丸に姿を戻すとその刀身は虹色に輝きだした。すると同時に有り得ない現象が起こり始める。
「全員俺に力を貸してくれ! 長い時間は持たないがアイツを止める為にやってみる!」
タツミの体まで虹色の光の様な物が包みだした。月虹丸にストックしていた八属性の精霊力を同時に最大限まで開放させたのだった。
「ほう、それが貴様の真の力か。少しは楽しめそうかな?」
ゼウスはその姿を見ても動じる事無く拳を構えると一瞬で間合いを詰めて雷を纏った拳を撃ち出して来た。
「それは只の雷だろ。さっきまでのケラウノスと言った奴とは全然違う。」
タツミは先程のまでの雷と違うと言いながら、全ての雷を消滅させてその拳を手の平で受け止めた。しかし雷が無くてもゼウスの膂力は常軌を逸していたのか物凄い衝撃波がタツミの手を通して体の中へと伝わる。
「ぐ……『自己治癒強化』……そして『身体強化』に『反射強化』、『疑似水上歩行』に『風感知』発動!」
口から血を吐きながらもすぐに傷を火属性の自己治癒強化で治療する。そして他属性の精霊術を使用して砂の上を滑る様に移動しながらゼウスの動きを風で予測して流れる様な足捌きで回り込んで月虹丸で斬りかかる。
「先程までとは随分と違うな。だが!」
ゼウスが左手の人差し指と中指でつまむ様に月虹丸を受け止める。タツミはその光景に動じる事も無くすぐに次の行動へと移る。
「想定内だ! エクスプロージョン!」
受け止められた切っ先に火球を発生させて爆裂弾を撃ち込むと、ゼウスの顔面で爆発した。タツミはすぐに後方に下がりながら爆発の煙と砂塵を風を操作して晴らすと、そこには無傷のゼウスの姿が有った。
「人間如きが神に勝てると思うか? 人では勝てないのが神だ。人間は無意識にそう認知しているのだ。大衆が思えば思う程ワシの力は強くなる! 脆弱な人間どもはワシに力を与える道具で良いのじゃよ!」
ゼウスは叫ぶように言葉を発すると同時に距離を一気に詰めて雷を直接打ち込もうと突進して来た。
「土壌操作! そして急速冷凍!」
タツミの靴裏に妙な金属板がくっ付いたと思ったら、そこから段々と電気が溜まっていくの見えた。そして気が付くとゼウスから離れた位置へとタツミの姿が瞬時に移動してた。
「ほう……『超電導』か。」
「クソ、制御がムズイな。」
(それに体の負担がヤバイ! リニアカーの原理でやってみたが体への負担が想像以上だ。多用は出来ない…確実な一撃を決めないと!)
タツミの足元は地面に少しだけ浮いており、そして月虹丸の刀身には超電導による『永久電流』がチャージされ続けていた。




