第54話 サード・スキラー
その異変は浜辺に居たタツミ達にもすぐに察知できた。いや、認識させられたと言う方が正しいだろう。
「タ、タツミ君! こ、これって!?」
「ああ、何かヤバそうな雰囲気だな。」
タツミとヒジリは落雷と共に沖合に見える小さな人影から発する精霊力を感じると、すぐに霊装銃を準備した。しかし今この場においてはそれが不要と言う異常な光景を目の当たりにした。
ヒジリの姿がリバティに切り替わっていたのだ。流石にこれにはタツミも驚きを隠せなかった。
「タツミさん。ちょっとアレはヤバいわ……すぐに避難する事を考えて頂戴。」
「リバちゃん?! いや、何だこの精霊力の濃さは?」
タツミはすぐに周囲の精霊力の濃さが異常になっている事に気付いた。そしていつも不敵で強気なリバティが不安そうな表情をしている事に驚いた。
「どう言う事だ? 俺達でも勝てない相手って事か?」
「そうね……この威圧感は間違いなく『神霊』よ。私達が『特異能力者』と呼ばれているのと対比するならアレは『超越能力者』と言った方が良いかしら。」
リバティの説明にタツミは唾を飲み込んだ。
何度も言うが契約精霊を犠牲にして武具化する事で超常的な力を得たのが神器であり、さらに自信の存在を神器に重ねて精神体として2個分の神器の力を手に入れたのが『特異能力者』だ。
神器持ちとセカンドスキラーの力の差は歴然としており、余程特殊な能力や強さでも無い限り勝てる要素は無かった。
リバティもセカンドスキラーであるが、その本人が『超越能力者』と呼ぶのだ。どう考えても普通の精霊使いや神器使いでは手に負えない事が容易に想像できた。
「なぁ、リバちゃん。余裕が有るならサードスキラーの定義とか有るなら教えて欲しいんだが?」
「単純よ……セカンドスキラーで現実の肉体を手に入れ、尚且つ人々から大量の信仰心や畏怖なんかの様々な感情や認知を抱かせる事によってまさに神の様な存在として崇められている。それが奴らよ。」
説明しながらもリバティはタツミの手を掴んで急いでホテルの方へと駆け出して行く。海上は晴天にもかかわらず雷鳴が轟くと言う謎な現象が続いている。
他の観光に来ているスディレットの隊員と思わしき人達や、スタッフの人達はただ茫然と雷鳴の方を面白そうに眺めているだけだった。
<<各員! 至急このエリアから離脱! くり返す……>>
稲葉の声が無線機から大音量で流れ出すと、人々は何事かと首をかしげながらも移動を始めた。
「他の人達は気付いてないのか?」
「違うわ、次元が違い過ぎて感覚が麻痺してるだけ! まともにこの精霊力を感じたら一瞬で死んじゃうから!」
リバティも冷や汗をかきながらも移動を続ける。そんな中だがタツミは他の仲間たちの安否の方が気になっていた。
仲間内で最強のリバティが素直に逃げを選択する程にヤバい相手が現れたのだ、誰かが残っていれば犠牲になる可能性はかなり高かった。
「居たなタツミ君……とリバちゃん?」
ホテルに近づくと稲葉が避難誘導していた。すぐにタツミ達に気付くと駆け寄って来た。一緒にいた晴香はその際に一緒に避難する様に指示されてホテルへと去って行った。
恐らくそのまま地下の新幹線を使って脱出する予定なのだろう。
「すまない! 皆が避難するまでの足止めに付き合ってくれ。」
稲葉がゆっくりと近づいて来る人影に向かい合う様に一歩前に出た。その膝は微妙だが、確実に震えているのが見えた。
「クロ! アンタじゃ無理! あんな精霊力で攻撃されたら私でも再生は無理なんだからね!」
「でもね、リバちゃん。ボクは守る側になったんだ。最悪退避だけならボクの力で何とかなる。少しだけ時間を稼ぐ手伝いをお願いしちゃダメかな?」
稲葉はウサギのクロの声でリバティに頼み込む。その覚悟を決めている表情にリバティは呆れつつも両頬を叩いて気合を入れ直した。
「分かったわよ! ヒジリ! 聞こえてるでしょ? 全力で行くからティルも含めて死にそうになったらすぐに言いなさい。クロが逃がしてくれるから!」
「わわ、わ、分かったよ! 私も全力で頑張るから!」
「了解、了解。私達の能力も預けるから存分に使いなさい。」
ヒジリとティルの声が響くとリバティも覚悟を決めた様に精霊力を強めて行く。
「タツミさん! あなたも力を貸して、『九頭龍』の力でどこまでアイツの精霊術を無効化出来るか解らないけど、無いよりは絶対にマシな筈だから!」
「無いよりマシなレベルかよ……いや、それ位と覚悟しないとダメそうだな。」
タツミもブレスレットから月虹丸を取り出して構えると、すぐに雷帝刀・鳳雷を重ねて具現化させる。
強い力を纏った雷が刀身から放出されるが、遠くから見えている雷の力には遠く及ばない事がその場で理解でた。
「コイツは本気で絶望的だな……あと何分持たせる必要が有る?」
「おおよそ40分は必要だ、その間にレン君達の帰還を待って合流後に退避する必要が有る。」
「つまりは40分ホテルを守り切って、尚且つ全員生存してレン達とも合流して稲葉……いや、クロの能力で逃げるって事か。」
「そうだ……って、他の人の前では絶対にクロと呼ぶなよ?」
稲葉はタツミの精一杯の気休めの皮肉を引きつった笑いで返す。強まる緊張感と同時に、確実に壊滅的な力を持った神霊が近づいて来ていた。
「後500メートル程……」
一秒が何分にも感じる威圧を受けながら、うっすらと人の顔が見えて来たかと思ったその時だった。
一筋の雷が一直線に3人の正面へと撃ち出された。
「ヤバイ! 『座標跳躍』!」
稲葉が叫ぶと同時に二人の手を掴むと、3人は20メートル程横の位置へと瞬間移動して雷撃を回避した。
そして雷撃は後ろの砂浜に落ちると、まさに爆弾を落としたかのような大爆発を起こして辺り一帯が砂塵の雨に包まれた。
「クロ! 視界が悪い! すぐに移動して!」
「了解!」
砂の雨が落ちてくる前に再び3人は離れた位置へと瞬間移動した。そして相手を見失った神霊はゆっくりと見渡す様に周囲を索敵し始めた。
「我が『ケラウノス』を避けるとは不届きだな。そのまま焼き殺されるのが人の運命に相応しかろうに……」
数秒もしないうちに3人を感知したのか、すぐに体を向き直すと再び雷撃を放つ。その速度は同じ雷の筈なのにタツミのそれとは明らかに速度が違うのだった。
「くっ! 早い!」
稲葉が再び跳躍して回避するが、今度は回避先に数秒と待たずに次弾が撃ち込まれて来る。そして稲葉も負けじと跳躍をくり返して回避を続ける。
「ふむ、後は逃げ先はそこだけだな。」
「な! 誘導された!」
稲葉は安全地帯へと逃げていた影響か、段々と雷による火災や帯電などで安全地帯が意図的に減らされている事に気付くのが遅れた一瞬だった。気付いた時には目の前に雷撃が迫っていた。
「九頭龍展開! 雷帝刀・鳳雷斬!」
直撃の瞬間、タツミが雷帝刀を雷へと突き出して存在そのものを打ち消した。そしてそのまま突きながら剣先から大きな雷の鳥を具現化して撃ち出した。
雷鳥は勢い良く神霊に襲い掛かるが、手を振り上げた神霊はまるでハエを撃ち落とす様に海面へと雷鳥を叩き落としたのだった。
「神霊『ゼウス』にこんな雷が聞くと思ったか? 思い上がりも甚だしい。そして我が神雷を打ち消すとは……貴様には死が必要のようだな。」
「ゼウスだと? あのギリシャ神話の?」
タツミは神話でしか聞いた事の無い名前を聞いてリバティの説明を思い出した。
(人々から大量の信仰心や畏怖なんかの様々な感情や認知を抱かせる事によってまさに神の様な存在として崇められているって……本当の神様かよ!)
タツミは内心冗談だと言ってくれと思いながら刀を持つ手に力を込めるのだった。




