第53話 勧誘
「何でレピスさんが……いや、もうあの人の場合は何でもありと思うしかないか……。」
「レピスも何で人間界に来てまで何かしら動いてるのでしょうか?」
二人は頭を抱えながらうめく様に呟く。その様子を見ていたラガスは不思議そうにしながらも話を続けた。
「こちらでもある程度のレピスの行動は細心の注意を払って監視しているから、俺の知ってる限りでは間違いない。」
「で、神の代行者の件はどうやってアナタ達は知ったのですか? それこそ情報収集に特化した特異能力でも無い限り無理だと思いますよ?」
リィムがあまりに知り過ぎている事に疑問を持った。精霊界と人間界の情報を交換するならば行き来する必要が有るが、そんな簡単な事ではない。
つまりは遠隔でその現場を監視できる何かしらの超常的な能力、それこそ特異能力レベルを使用したか、自由に往復できる様なこれまた超常的な能力が必要と考えられた。
「それは教えられない。知りたいなら仲間になって信用される事だ。そしてお前達が思っている以上に俺達の組織は大きい。」
「言い方を変えればスディレットを潰せると言っているようにも聞こえますね。」
「自由に取れ。俺の様なSSSランクの精霊が使い走りをさせられていると思えば想像は容易に付く筈だ。」
ラガスの含みのある発言にエルは探りを入れる質問をぶつけるが、相手も下手な事を言わずに不安を煽る言い方に徹していた。
「交渉が上手いですよね。ウソは言っていませんがぼかした言い方で誤魔化す所は人間慣れしていますよね。」
「ウソを付く人間と比べれば良い方だ。それに今回の勧誘は警告も含めている。」
リィムが交渉が上手だと感心していると、一気に不穏な発言が出て来た。
「警告とは何ですか? 少なくともこの場で脅しを使うなら戦力差を考えた方が良いと思いますが?」
「自分達の仲間が勢揃いでSランクオーバー8人も居れば大丈夫と本気で思っているのか? うちの情報網を駆使すればどうなると思う?」
エルが強気で返すとラガスは更に意味深な事を言い始めた。そしてその意味にすぐに二人は気付いた。
「私達の各個撃破を狙うと言う事ですか? もしくは考えたく無いですが……ExTended以上はもちろん、特異能力者以上の戦力を有していると言いたげですねよね。」
ラガスは含み笑いを浮かべると思い出せと言わんばかりに、この前の出来事を話し始めた。
「佐々木は何を見たと言っていた?」
「確か彼は神を見たと言っていましたが……あれは精霊か精霊使いを見てそう言ったのではないのですか?」
「精霊使いを知っている筈の佐々木が精霊と神を見間違えるとでも?」
エルが思い出しながらも推論を言うが、ラガスはそれをすぐに否定した。その時点で二人の顔色が一気に悪くなるのが見えた。
「まさか……本当に『神霊』を見たと言うのですか!? 信じられませんよ。」
「そうです。神霊だとしたら、今の日本のスディレットなんて簡単に潰せた筈です! 何故にこんなゲリラ的な攻撃をするのです。」
二人が交互に質問を続ける。対照的にラガスは飽きたと言わんばかりの表情になり始めていた。
「俺は戦闘要員だ。別にそこら辺の小難しい事はオーエンや北見に任せている。俺は武人として強い奴と戦う事以外に興味はない。だからこの前のお前との戦いはとても楽しかったぞ。」
ラガスが肩や首を回して挑発する様な仕草を始めるが、そこには殺気も何も無い事に気付いて二人はそのまま言葉を続けた。
「ラガス、アナタは私達に警告と言いましたよね? 警告の内容を聞かせてもらえますか?」
「それにお前一人が出て来て俺達二人に捕縛される可能性を考慮しない訳が無いよな? と言う事はまだ仲間が来ているのだろう?」
「ハッハッハ! 相変わらずお前達は思考回路が凄いよな。大体当たりだ。そのお仲間がこれから襲撃する予定だ。お前達への警告と言うのは『仲間になるなら他の奴らの命は助けてやる』だ。返答はお仲間が死んでからじゃ間に合わないぜ。」
ラガスは高らかに笑いながら警告の内容を伝えると、二人は瞬時に頭脳をフル回転させて現状を把握しようとした。
(今の稲葉さんやタツミさんが居る状況なのに勝てると言う確信が有ると言う事ですか? ヒジリの『大いなる再生者』の力も使えるかどうか不明の中では重傷者が出るのは好ましくありません。)
(今の戦力に勝てると言う事は『神の代行者』クラスの神霊に近い存在の特異能力者か『神霊』クラスが来ると言う事か? だとしたら急いで戻らないと危険だ!)
二人は立ち上がり浜辺の方へと駆け出そうとすると、目の前に岩を脱ぎ捨てて身軽になった黒鉄色の肌を露出させたラガスが立ち塞がった。
「おっと、ここから立ち去ろうと言うなら話は別だ。その場合は悪いが戦闘になる。このまま黙って見届けるか、要求を受け入れるか、俺達に捕獲されるかを選ぶんだな。」
北見の声がラガスから聞こえると、二人は霊装銃をこめかみに当てる。しかし同時に沖の方に大きな雷がまさに青天の霹靂のごとく海面へと落ちたのだ。
「雲一つ無いのに雷?」
「いえ、エル君。アレは普通の雷じゃありませんよ。」
沖にたて続けに雷が落ち続けると、その一点から何やら遠目に人影みたいな物が見え始めたのだ。そして雷が落ちる度にその人物の精霊力が加速度的に肥大して行くのを感じた。
「バカな……何だあのデタラメな精霊力は……」
「この威圧感は……『神の代行者』の時と同等かそれ以上ですよ!」
二人はその存在を認識してから嫌な手汗を感じ、無意識に恐怖に近い感情を抱いている事に気が付いた。
「アレが俺達『神への情熱』の幹部の一人さ。まぁ組織と言っても集合体組織だからな。一枚岩じゃねぇがな。」
「デウム・ルクスリア? そんな事まで喋って良いのですか? 私達がスディレットに報告すれば捜査はかなり容易になり……」
北見の言葉にリィムが強気の態度を見せるが、表に出ているラガスの表情を見て言葉を詰まらせた。
ラガスも全身から冷や汗の様な物が噴き出しているのが見えたのだ。つまりはこの場に留まる事はラガスにとっても命懸けの行動なのではと思考がよぎる。
「アイツは一体何ですか? フラガラッハは警戒し過ぎて早く出せと叫んでいます! それにアイツは無差別に攻撃しようとしていませんか!?」
エルは震える腕を抑えながらゆっくりと近づいて来る人影に警戒心以上の何か……いや、確実に恐怖を覚えていた。
「おい! リィム! 何だこの精霊力の濃さは!?」
「ハッキネン?! 霊装銃も無いのに?」
「アイツの影響さ……尋常じゃない存在が現れると同時に周囲の精霊力が歪む。まさに自然災害かそれ以上の存在。アレが暴れると無関係の人達まで精霊界に飛んじまうからな。」
北見が苦々しい声で説明すると二人は止めなければと体を動かそうとするが、ハッキネンの声ですぐに制止させられた。
「無理! 今の私達では相手にならない! あれは間違いなく『神霊』だ!」
二人が嫌な予感はしていたが認めたく無かったと言う表情で困惑する。そして続けるように北見が絶望の現実を打ち明ける。
「アレが太古の神霊の一人、雷神『ゼウス』だ。そして神霊と呼ばれる存在は人々からの信仰心と言う感情と認知によって、より力を肥大化させる。個人規模の俺達が戦える相手じゃねぇ。」
人影は沖から数キロは離れている所に居る筈なのに、そこから感じる精霊力の圧は立っているのがやっとのレベルだった。その様子はまさに北見の言っていた言葉を肯定するには充分な力だった。




