第52話 別の場所では
一方その頃、エルとリィムは海岸の岩場の先に有る飛び込みスポットに到着した所だった。
「ここがお勧めと言われていた飛び込みスポットですか。」
エルが飛び込みポイントから真下の海を覗き込むと10メートル程は有ろう絶壁の下に透き通る様な深いエメラルドグリーンの海が見えた。
「うわぁ……流石に高いですね。でも海底も深そうですから、下手に落ちなければ十分に楽しめそうですね。」
リィムも横から崖下を覗き込んでじっくりと観察しながら言うと、数歩下がって立ち上がるとそこから見える綺麗な水平線をに目を奪われていた。
「高い位置だからでしょうかね? 海岸で見る水平線とはまた一味違った良さが有りますね。」
「ですね、まさに青春の1ページって奴ですか。まぁ俺達にはイメージしか出来ませんでしたけど。」
エルも立ち上がってリィムの横で景色に目を奪われていた。精霊界で暮らした時間が長かった二人にとっては、こうした風景もとても特別なものに感じていたのだった。
「北海道の時も海には行きましたけど、気の置けない仲間だけで来るのはまた別格ですね。残念なのは屋台が少ない事位でしょうか?」
「前半には同意しますが……後半はリィムさんだけの欲望ですよね? 俺を巻き込まないで下さい。」
エルが呆れながらも同意を求める様に木陰の中へと返事を返すと、二人の視線がそちらへと向けられると同時にハッキリとした警戒心も向けられていた。
「相変わらずどんな探知力してやがるんだ?」
「嫌な気配がしたけど……北見か。潜伏の仕方から見てオーエンも一緒だろう?」
木陰の中から北見が姿を現した。だがその姿の現し方は不自然に木の影から現れたので、二人は同時にもう一人のオーエンが隠れていると直感した。
「アイツは今回は只の運び仕事だ。それに今回はお前達と話をしに来たんだ。」
「「話?」」
二人が首をかしげながらも警戒心は解かないまま、右手は霊装銃を掴んでいた。
「ああ、そうだ。お前達がスディレットがどう言う組織か知っているのか?」
「精霊力を利用して自然災害の被害を抑え、精霊界に人間が迷い込む事を予防しているんじゃないのか?」
「では何故に被害は無くならない? おっと、俺達みたいなのが居るからってのは間違いだからな?」
北見の問いにエルが答えると、続けざまに質問が飛んで来る。
「むしろそれ以外何が有るのですか? まぁ冗談はさておきますけど、全ての自然災害を防ぐなんてそれこそ無理と言う物が有ると思いますよ?」
リィムが多少の皮肉を込めながら言葉を返すと、北見は頷きながら言葉を続ける。
「そうだ、そもそも人間のやる事だ。完璧な物なんてねぇ。だがそれを完璧に行える存在が居るとしたらどうする?」
「何を言ってるんです? 自分でも人間に完璧なんて事は無いって……」
エルが言いながらも途中で何か嫌な事を思い出した様に言葉を止めた。リィムは黙りながらも過去に出会ったとある人物の事を思い出した。
「精霊でもない……上位たる龍位、その上の龍将位精霊の事でも無いですよね。恐らくアナタが言いたいのは神と呼ばれる最上位の精霊『神霊』の事ですよね?」
リィムが重くなった口をゆっくりと開けると、北見は不敵な笑みを浮かべる。
「ご名答。お前達は精霊界で『神の代行者』と戦い、勝利して人間界に帰還して来たのはこちらでも把握している。あんな神霊のなりそこないでも充分に力を理解できただろう?」
神の代行者との戦いを知っていると言われた二人は更に警戒心のレベルを上げる。
「おっと、だから今日は戦う気はねぇと言っただろうが。」
その様子を見て北見は両手を上げて戦う意思が無い事を強調する。しかし二人にとっては姿を現していないオーエンや、それ以外の伏兵の可能性に対しても警戒を解く事は無かった。
「敵の言葉を鵜吞みにする程バカじゃありませんよ。」
「そうそう、判断するのは俺らです。」
一向に警戒を緩めない二人に北見は皮肉めいた表情になると拍手をして感嘆の言葉を上げる。
「お前等本当に高校生か? どんだけ人生経験積めばそこまで人の言葉を疑える様になるんだ? いや、報告だとお前らの実年齢は……」
「女性の年齢を言うのは失礼ですよ!」
リィムが被せる様に言葉を遮るが、北見達にも自分達の過去の情報が行渡っていると理解させられるには充分な話だった。
「ああ、ちなみにスディレットの連中も一部だがお前達の事を知っている様だぜ。」
「「…………」」
二人はその言葉に様々な思考を巡らせ始めた。北見達は自分達の行動を知っているのは間違い無いだろう。しかしコレはハッタリで自分達を疑心暗鬼にさせて、話を聞かせる事が本来の目的だとすぐに察した。
「回りくどいですよ。結局あなたは私達に何の話をしたいのですか?」
「ヤレヤレ……動じないとか情報は本当の様だな。まぁ結論から言うと俺達の仲間にならねぇか? って事だ。」
「断りますよ。」
「嫌ですね。」
北見は揺さぶりをかけても動じない二人に呆れながら本題に入った。しかし二人は即座に拒否して霊装銃を構える。
「だから今日は戦いに来たんじゃねぇ! 銃を引っ込めろ! 話し合いがダメなら今日は大人しく帰るんだよ!」
「それはそっちの理屈で、私達には全く関係ありませんよ。」
「ちょーっと待て! だったら俺が知っているスディレットの情報も教えてやる! どうせアイツらは機密事項だと言って大して大事な事を教えてねぇだろうが!」
「それが本当だと言う証拠がどこに有るのです? 俺達がそれを信じるとでも?」
全く信じようとしない二人に北見は諦めた表情で霊装銃を取り出すと自身のこめかみを撃ち抜く。すると以前戦った岩男のラガスの姿へと変化した。
「オレが話そう。精霊はウソを付けないからな。それに今日は戦う意思はない。」
咄嗟に戦おうとした二人をラガスの言葉が手を止めさせた。
精霊は純粋な感情で具現化した存在なので嘘をつくことが出来ないと言うのは精霊使いにとっては共通の常識だったからだ。
「ラガス……喋れたんですね。前の戦いでは一言もしゃべらなかったのに。」
「話す必要が有れば話す。戦いに会話は不要。」
ラガスは不愛想に言うとその場であぐらをかいて座り込んだ。その様子を見て二人も否応なしに座らざるを得なかった。
実際にスディレットの行動は本当に善なのか? と言う疑問が完全に晴れた訳では無かった。だからこそ精霊が話す本当の事実を少しでも知っておきたいとの思いが座らせたとも言える。
ただし二人は一つだけ注意をしていた。
それは精霊が話す内容は全て事実で嘘は無いが、嘘を真実だと思い込んでいた場合はその限りでは無いからだ。
「サテ、どこから話すべきか。」
「スディレットの誰が私達の真実を知っているかからお願いしますよ。」
ラガスが悩んでいるとリィムが先程の疑問を率直にぶつけた。
「それは司令官の『稲葉』だ。恐らくだがアイツ以外は誰も知らん。」
その言葉に二人は予想の範囲内とは思っていた人物の名前が上がったが、予想外だったのはそれ以外に誰も知らないと言う事だ。
「どうして稲葉さんしか知らないのですか? いくら精霊使いの情報が機密扱いと言えども不自然だと思いますよ。」
「理由は知らん。だが事実だ。」
すると暫く考え込んでいたエルが何かを察した様子で質問する。
「稲葉さんにそれを教えた人物は誰ですか?」
「それは『聖者の片鱗』だと言われている。アイツの『完全遮断結界』を展開されると俺達では感知出来ないからな。だが、最近は使って無いから今回の件は間違い無い筈だ。」
その言葉を聞いて二人はウンザリとした顔になったのは言うまでも無かった。




