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第51話 成長とは?

「うむ、お疲れ様。こちらでも門《ゲート》が一時的にだが塞がったとの確認が取れた。まぁ少しばかりの地震が起きたが……ね。どうしたんだい?」


 うずくまりながらタンコブを抑えて痛がっているガラントとパティス、そしてそれを仁王立ちで睨んでいるアラスティアを見て稲葉は言葉を詰まらせた。


「どうもこうも無い。そろそろ精霊力が切れる頃合いだ。後はユキ達から聞いてくれ。二人は精霊界に戻ってから続きだからな!」


「「ええ!?」」


 二人が同時に悲鳴を上げると全員の髪色が黒に戻って行く。


「アラスティアの奴……俺達まで頭が痛いんだが?」

「パティ達が余計な事言うからよ……まだ星が飛んでるわよ。」


「私を睨んでも困るからね! やったのは精霊達なんだから私は無罪よ!」


 やり取りを見ながら稲葉は軽く笑みを浮かべると手を3度叩いてケンカを止めに入った。


「キミ達の任務は無事に完了だな。それに明らかにレン君とナギ君は精霊力の扱いがより繊細になった様だ。」


 稲葉が先程の作戦の動きを見て感嘆の表情を浮かべている。しかしその言葉にレンは何かしら引っかかる物を感じて問い返した。


「扱いがより繊細になった……? 強くなったとは言わないんだな。」


「そうだな、確かに成長は見受けられたが君達の力の基準はSランクのままだ。だが数字に表れない強さが有ると言う事も覚えておいて欲しい。」


 稲葉は悔しそうにしているレンに言葉を続けた。そしてナギとユキも言葉の意味を理解するのに時間を要していた。


「ランクの基準は大まかに『最大出力』『総精霊力』のみで判定される事が多い。つまり『戦闘考察力』や『変換効率』については判定の対象外だ。だが、私はこれも考慮してランクを分けるべきだと思っているがね。」


 そこまで言われて3人は微妙に納得できない表情を浮かべつつも、話を黙って聞いていた。


「要するに計測できるのは個人の技術的な所で充分に君達も上位者と渡り合えると言う事が言いたいのだよ。精霊を進化させる事は大変難しいからな。一朝一夕で出来る事ではない。」


「成長を目指しつつも、それに焦るなと言いたい訳よね?」


 ナギが納得した様子で問い返すと稲葉は黙って頷いた。


「そうだ、特にレン君は今朝の訓練の様子で気付いているだろう?」


「ああ、焦りや負の感情はこちらの生命力だけじゃ無くて精霊の精霊力も大きく消耗した。大事なのは正の感情と冷静さだとな。」


「そうなの? 私はあんまり意識した事無いけど?」

「ユキ……アンタが天然なのは分かったから少し黙らっしゃい。」


 ユキが意外そうに言うがすぐにナギがヘッドロックをきめて黙らせた。


「まぁユキ君の場合はポジティブ過ぎてそう言った事に無縁そうだが……気を付けて行動してくれたまえ。」


 稲葉の言葉から、レンとナギはこの人は自分達に足りない物を教えようとしながら任務を与えているのかと疑問を持ち始めた。


「それでワザと俺に上位の精霊を降ろさせる様な任務を最初にやらせたのか?」


「偶然だよ。私は仕事をさっさと減らして自分が楽をしたいだけさ。まぁその過程で成長したのならラッキー程度さ。」


 そう言うと稲葉は信じられない跳躍力で洞窟の天井へと飛び上がって見えなくなった。3人はその異常な身体能力に驚きながらポカンと天を見上げていた。


「今のって精霊力使ってたかしら?」

「いや、そんなニオイは全然感じなかったわよ。」

「恐らくだが漂っている精霊力の残滓を使って跳躍力を強化したのか?」


 レンの考察に二人は先程の稲葉の言葉を思い出す。


「まさか……これが『変換効率』って事なの?」

「と言うか……それしか考えられないわよ。」


「そう考えると、俺達ってまだまだ強くなれるって事だな。」


 レンは精霊だけではなく、自分達ももっと相棒の力を引き出せるようになる必要が有ると認識出来た事で、さらにやる気を出している様だった。


「しかし、凄い跳躍力だったわね。私達でもこんな高さを飛べないわよ。」


「そうね、稲葉さんって火か雷属性なのかしらね? 『身体強化』系の有る属性じゃないと精霊と同化してても無理だからね。」


「雷は『反射速度の強化』だけだから、筋力の強化は火属性だけだわよ……いい加減に各属性の特徴を覚えなさいよ。」


 ナギとユキの話を聞いた瞬間にレンはある仮説が電気が走る様に脳裏に浮かんだ。


「いや、これが交換効率で成せると言うなら……稲葉さんの属性は何だ? もしそうで無いなら……もしかしたら。」


 可能性とはしては否定できないし、むしろその可能性の方が高いと言わざるを得ないだろう。だが確証は無いし、それを教えてもらって習得すると言うのも恐らく違うだろうと考えてた。


 だがその可能性が現実なら強くなる手段と言うのはもしかしたら無限に有るのではないかと思えてきた様子だった。


 そう考えているレンは不思議と不気味な笑みをこぼしながら様々な事を想定し始めた。その様子をナギとユキは不気味そうに眺めていた。


「ね、ねぇ……レン君。ナギとくっ付いてた反動を今妄想するのは結構だけど……そう言うのは帰ってからにしてくれないかしら?」


「ちょっとユキをブッ飛ばしたいところだけど……流石にその笑い方は私も同意見と言わざるを得ないわよ……ちょっと気持ち悪いわよ。」


「な!? お、お前等!? 俺を何だと思ってんだ! そう言うのじゃねーし!」


 レンは顔を真っ赤にして女性陣に苦情を入れるが、そのムキになっている所が更に二人の予想が当たっていると勘違いに拍車をかけた。


「ナギ、後は二人でボートで帰りましょ。今のコイツは危険よ。」

「そうだわね。レンなら水上でも歩いて帰って来れるでしょうからね。」


 二人は後退りしながらボートに乗り込むと、薄情にも二人でボートを漕ぎだして入口の方へと戻って行く。


「いや、ちょっと待て! 精霊界じゃ無いんだから水上歩行も結構疲れるんだぞ!? ってお~い、マジで行くな! 待ってください! ちゃんと説明するから!」


 言葉を無視する様にボートは洞窟の中に光の明かりを灯しながら戻って行く。レンは慌てて霊装銃でガラントを呼び出して『水上歩行』を使用して水面を掛けだした。


「来たわよユキ! 全力で逃げるわよ!」

「おうよ! 変態にはお仕置きが必要よね!」


「誰が変態だ! テメェら人をおちょくってんじゃねー!」


 レンが追い付く勢いで進んで行くと、突如閃光弾の様な光の球が目の前で広がると、視界を奪われた。そのまま風の塊を数発受けて海面へと沈んだ。


「お前等! アラスティアとパティを呼び出すなんて! どんだけ攻撃してくんだよ! 流石に俺も傷付くぞ!」


「お仕置きは徹底的にやるって、前に言ったわよね?」

「浮気も何もしてねーだろ!」


 レンの講義にナギは一瞬考え込んだが、すぐに向き直ると可愛らしい笑顔で断罪した。


「何となく雰囲気で今回はアウトだわよ。」

「うん、何となくアウトよね。」


 ユキも横でウンウンと首を何度も縦に揺らすと、再び閃光玉を打ち込んで二人はボートを漕ぎ進めて行った。


「目……目があぁぁぁぁぁぁ! 何となくアウトって何だよ! 俺は無罪だぁぁ!」


「レン、こういう時の女の団結力は強い。ノリも有るだろうから今は一旦引くんだ! 反撃は機を見てからだ!」


 ガラントが慰める様に言うが、レンはまさかノリだけでナギにあそこ迄やられるとは思っていなかったので心にもダメージを受けていた。そして昔の記憶が蘇って来たのか不敵な笑いをし始めた。


「フッフッフ……ナギよ……こんな感じでやり合うのは久しぶりだな……そうだよな。俺とお前はこんな感じでのじゃれ合いに近いケンカを良くしてたよな。」


「おい、レン。大丈夫か? 水中なのに頭打ったのか?」


「ガラント、ちょ~っと本気出すぞ。アイツらにお仕置きしてやらんと気が済まん!」


 レンは水面に立ち上がると猛ダッシュで走り出した。両手には水球を大量に作り出して撃ち出す構えをしていた。


「お前らぁぁぁぁぁ! 撃ったなら撃たれる覚悟はあるんだよなぁぁぁぁぁ!」


 ボートを視界に捉えると水球を二人目掛けて撃ち出す。当然殺傷力は無いが、そこそこの痛さと衝撃で二人は悲鳴を上げた。


「ちょっと、女には優しくするもんだわよ!」

「落ちる! 落ちる! 私泳げないんだから止めて!」


「やかましいわぁぁぁぁ! ケンカに男も女も有るか! 男女平等じゃぁぁぁぁ!」


 その後、洞窟を出るまで3人の精霊術による大ケンカは続いたのであった。

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