第50話 言葉の大事さ
「ねぇ、あれで良かったの?」
「ああ、上出来だ。」
「しかし何の目的でよ? ヤッパリ感情による精霊の成長の為?」
「まぁ、そんな所だ。感情は言葉に左右されるからね。」
「確かに……どんな感情も言葉にしないと伝わらないものね。」
「ああ、多分こうだろう、そうだろうと考えるのと言葉で伝えるのでは情報量の差が顕著に出る。」
再度インターバルを置いて体力を回復させているユキは稲葉と小声で話をしていた。実は二人が朝に訓練に言ってる間に今日の行動を頼まれていたのだった。
「で、ティルの時の様に二人が言葉に出す事でパティとガラントが進化するかもって事なの?」
「可能性は低いが試せる事はするべきだ。それに進化とまで行かなくても心が充実すればそれは精霊にも良い影響を与えるからな。」
「で……その話を私にしてるって事は、私にはそのアドバイス無意味だからって事で良いのかしら?」
「ユキ君は彼氏……居たのかい?」
「ぶっコロス! 上官だろうがコロス!!!」
殺気立つユキを稲葉がなだめながらも事実だからこそ、今回の協力を頼んだと認めると更にユキの機嫌は悪くなり稲葉に殴りかかる。
「まぁ、今は関係無くても将来的に今回の出来事は君の人生を良い方向に移す事になると思うぞ。実例を知っておくことは大事な事だ。」
「ぐ……絶対にいい男を掴ませて見せるんだから!」
ユキは結局は稲葉に力負けして地面に這いつくばる様に取り押さえられると、レンとナギは呆れた表情で二人を見ていた。
「しかし、ちゃんと二人が人前でも言葉にした事で変化は見られるな。明らかに昨日までと違う。」
「オ、オノレ……コノウラミ……ってそんなに感じるの?」
「ああ、私も多少だが感知力は鍛えてるからね。さて、これで作戦の成功率も上がっただろう。後二人には内緒にしたままだ。変に絡まれるのは御免だからね。」
「了解、私も面倒は御免ね。」
小声の会話もコレで終わりと言った感じで稲葉はユキの拘束を解くと、立ち上がって霊装銃のチェックを始めた。
「ふむ、海水による詰まりはレン君の生成した水で流せてるな。安定して動く様だから安心して使いたまえ。」
稲葉が3人に霊装銃を渡し直すとナギの風の渦が球状に3人を覆った。そしてパティスに切り替わる。
「さてさて~何か調子よくなって来たから飛ばすよ~。レンは浮遊酔いに気を付けるんだよ? まぁコレは慣れないだろうけどね~」
「分かったからさっさと行け! こっちも瞬時に操作しなきゃいけないんだから集中してるんだ!」
軽口にレンが反論すると同時にパティスはレンとユキの腕を掴むと洞窟目掛けて飛び出した。
内容的には風を纏っているだけでほぼ自由落下に近かったが、風の誘導で地面ではなく水面へと違和感のある飛行になっていた。
「流石に脳内のイメージと違う落下は気持ち悪……」
「何でそんなに弱いのよ!?」
「あっはっはっは~すぐに水面だよ。後は頼んだからね!」
風の渦が水面に触れると同時に、レンが精霊術を発動させて水が逃げる様に流れが変わる。そして湖底に着く前に浮力を得たのか船に乗っている様な感覚に襲われた。
「風で浮かされてるから違和感有るけど……まるで風の船ね。」
「気持ち悪……さっさと行くぞ。酸素の問題も有るからな。」
「私は維持に集中するから後は任せたからね!」
パティスは目を閉じて風の渦を水圧に負けない様にしつつ、広がり過ぎない様にと絶妙な風加減を維持する事に集中し始めた。
予想よりもスムーズに維持が出来ているのを見て、レンは水流の操作の力加減による水圧の変化をパティスに伝えながら予測された門へと近づいて行く。
当然の事ながらサメゾンビ達が精霊術に反応して襲い掛かって来たが、渦に触れると同時に風に切り刻まれて行った。ユキはいつでも攻撃が出来る様にアラスティアを召喚して『閃光』モードにして出力を上げ続けていた。
そして数十メートル程、海中の中を進むと赤黒く変色した10メートル程は有ろう亀裂の様な不自然な物が湖底に見えて来た。
「見えて来た、ユキ頼んだ!」
「任されたわ! 行くわよアラスティア!」
非物理属性の光の攻撃なら風の渦を破壊する事無く攻撃できるので、ある意味唯一の手段だと海中に入ってからレン達は気付いた。
偶然のプランだったが、まさか海中の維持制御の消耗がここまで激しいとは思っていなかった。正直水圧の強さによる微調整でパティスの顔色は段々と青くなり始めていた。
そしてレンも移動しながらも光の攻撃は水の屈折率が有るので、それが真っ直ぐ飛ぶようにと計算を強いられていた。
「光が真っ直ぐ飛ぶように……屈折させない為に道を作る! ガラント、力を貸してくれ!」
「おおよ! しっかりイメージしろ! 細かい調節はこっちでやってやる!」
「ガイド用の光を照射するぞ!」
門から少し離れた位置でホバリング状態に水の流れを固定すると、アラスティアが指先から光を一直線に放つと光は風の渦を抜けて水中へと流れに翻弄される様に霧散して行く。
「一直線上に水の流れを止める! 長くはもたないからな!」
ガラントの声が響くと同時にレンの髪が青色に変化してガラントが完全に表に出る。そしてアラスティアの指先からの光が一直線に門へと届いた。
光を浴びた門から急にサメゾンビが再び現れ出した。精霊力に反応したのか自らの危機を感じた門が呼び寄せたのかは解らなかった。
「水の流れの制御が!」
ガラントの制御がサメゾンビによって物理的に邪魔され始めた。しかし今度は瞬時にパティスが敵を見据える。
「風を少しだけ分離させる……ガラント! 打ち込んで!」
「流石だパティ! 任せろ!」
渦から切り離された風の弾丸をガラントが水流を操作してサメゾンビを駆逐していく。そしてアラスティアはガイドの光が再び一直線になるのを待ち構えて光の大剣を投擲の要領で構えた。
そして一瞬だけ光が直線になった瞬間、アラスティアが間髪入れずに光の大剣を全力で投げる。
「いけぇぇぇぇ! フラッシュ・スローイング!」
光の大剣は手を離れた瞬間、まさに光の速さで一瞬でゲートに直撃すると同時に溜め込んでいた膨大な熱量を解放して辺り一帯が光と熱に襲われた。
「急いで逃げるぞ! パティ! 可能な範囲で使える風をジェット噴射の要領で加速させてくれ! 俺は水の抵抗を極限まで減らす!」
「アチチチ! 了解! ガラント頼んだよ!」
周囲の水温の急上昇は風の渦の中にも容赦なく降り注いだ。アラスティアが直接降り注ぐ光熱は遮断したが、水温からのは防ぐ事は出来ずに急いで脱出を試みた。
そしてギリギリまで空気を使った3人は物凄い勢いで湖面まで戻るとそのまま放り出される様に洞窟内の砂の陸地へとダイブした。
「イタタタ……ケガはない?」
「今ので首を打ったくらいだな。」
「そこは大丈夫と言う所では無いのか?」
「いやいや~冗談でも無傷じゃ無いでしょうが?」
「だな、そこはパティの言う通りだ。情報は正しくな。」
「私は……何ともないのだが?」
首や肩を回しながら体の感覚を確かめているパティスとガラントを文句を言うが、実際にアラスティアだけはピンピンとしていた。
「頑丈精霊が……」
「脳筋精霊って方が正しい様な気がするよ?」
「そうだな、今度からそう呼ぶか。」
「お前達……レディに向かって脳筋とか言いたい放題だな……」
拳を握り込んだアラスティアが指を鳴らしながら二人に圧を掛けながら近づくと、青ざめた表情で謝るがもう遅かった。二人は仲良く大きなタンコブを頭にプレゼントされた。




