第46話 漁火の海
その後、ビーチへと向かうと各々が別行動を開始した。
タツミとヒジリはイルカのフロートを引っ張り出して少し沖に出て遊んでいた。エルとリィムは散歩しながら海岸線付近の探索を始め、稲葉と晴香はパラソルの下で潮風を楽しむ様にくつろいでいた。
「で、何でユキまで着いて来るのかしら?」
「だって私だけぼっちになるじゃない。」
「だからって何で俺達に付いて来るんだよ。」
ユキはレンとナギがボートを借りて近くの海蝕洞探索に行こうとしていたのについて来たのだった。
「だって洞窟探検なんて楽しそうじゃない! 私だって行きたいわ。」
「だったら一人で行きなさいよ! 何でデートについてくる訳よ!?」
「だってガイドさんと二人で行っても虚しいでしょう! それにガイド無しで行く場合は水属性の精霊使いが同伴じゃないとダメって言われたら付いて行くしかないでしょうが。」
海蝕洞で万が一何か有った場合に備えて、ガイド無しの場合は水を操作できるレベルの精霊具使いの同伴が必須にされていたのは安全上、当然の措置と言えた。
それを利用して二人はデートしようとしたのだが……朝の流れのままユキがくっ付いて来たのだった。
「だったらタツミでも良いだろ……あ、ヤッパリ止めておこう。俺がとばっちりを喰らう。」
他にも水属性を使える候補としてタツミが上がったが、それをした場合は漏れなくヒジリの不興を買うのが目に見えていたので、途中でレンは言葉を止めた。それに同意する様にナギも諦めた様に頷いた。
「そうね、ヒジリちゃんの邪魔はしちゃダメだわよ。最近のヒジリちゃんって私よりも嫉妬深い気がするわよ。」
「ああ、それは有るかもね。ヒジリちゃんが居ない所でタツミ君が女子と話してるのを見た時の視線は結構凄いわね。」
「私も大概に重い方だと思っていたけど……ヒジリちゃんはもっとね。普段の行動がおしとやかに見えるだけにギャップが凄いわよ。」
「逆に感情を表に出すのが苦手だからこそ、ああいう感じになるのか?」
3人が最近見たヒジリの行動を話し合うと、先程のレンが言いかけた内容はとても危険だとすぐに判断が出来たのだった。
「ところでユキって泳げないって言ってたわよね? 大丈夫なの?」
「え? だからいざとなればレン君に『水上歩行』を付与してもらうつもりよ。」
その言葉にレンは呆れた表情を浮かべるが、気を取り直して説明し始める。
「そうか、ユキは水の精霊界の時は居なかったもんな……水上歩行は自分だけが対象だ。出来る事と言えば『水流操作』で溺れない様にしてやる事位しか出来ないぞ?」
「え? ま、まぁ溺れなければ大丈夫よ!」
ユキの顔が一瞬で青ざめていく。だが最悪溺れる事は無いのだからと前向きに捉えたのか乾いた笑いで誤魔化そうとしていた。
「で、結局俺達と進化させるのが目的だったのに、何でレンは両手に花状態でこんな所に来てるんだ? 俺に変わっても良いんだぞ?」
海蝕洞の入り口に近づくと急にガラントの声が聞こえた。
「何だ? お前もアラスティアみたいに急に出て来たのか?」
「ああ、と言うかこの周辺は精霊力の吹き溜まりの様な所が多いな……妙に不自然だな。」
朝の時点でアラスティアの発言が有ったせいか、3人はさほど驚く様子も見せずに普通に会話を続けていた。
「全員集合して、この不自然な現象と言う時点で何か有るに決まってるな。」
「結局ここで何か起きているって訳だわね。」
「やっぱりね、普通なら任意参加な遊びを招集かけてるんだもんね。」
すでに何かしらのトラブルに巻き込まれるのだろうとは覚悟していたのだが、この現象でそれは確信に変わったのだった。
「さて、一応楽しみつつも警戒は怠るなよ。」
レンの言葉にナギとユキは頷くと、海蝕洞の中へと入ろうとする。
「うわぁ……すっごく綺麗~。」
「まさに幻想的な光景だわね。」
中に入ると隙間から見せる何本もの太陽の光が筋状になって天井から海面の奥まで照らしていた。光が波に揺れて何とも言えないコントラストを描いている様はまさに幻想的な光景であった。
「奥の方にはさらに大きな空洞が有るらしいから行くぞ。暴れて落ちるなよ?」
レンが身を乗り出している二人に注意しながらボートを漕ぎながら注意するが、自身も目の前に広がる光景に感動を覚えていた。
奥に進むと光が無くなり薄暗くなったが、すぐにユキがアラスティアを召喚して光の球を複数個作り出して視界を確保すると、目的地へと進んで行く。折角だからとナギも霊装銃を使用してパティスを呼び出していた。
「何かこうやって見るとユキを連れて来て正解だったわね。光の精霊術がホタルみたいで綺麗ね。」
「そうだな、ただのお邪魔虫にならなかった事で、今日の所は許してやるか。」
「な! ちょっと二人とも! 言い方!」
談笑を交えながらも3人と精霊達もその景色を楽しみつつ奥へと進んで行く。すると30分ほどすると目的地が近づいて来たのか段々と明るくなって来た。
「あ、あそこが目的地の光芒スポットね。」
ユキが身を乗り出して指をさすと、奥には洞窟の天窓から射しこむ光がまるでカーテンの様に揺らめいていた。
「凄いわね……」
「ああ、ただただ言葉にならないな。」
はしゃいでいるユキとは対照的にナギとレンはその圧巻の光景にただ見惚れていた。そして天窓の真下には少しばかりの砂地が有ったので、そこにボートを着けて3人は砂地に降りたのだった。
「しかし、上を見ても凄いけど……来た道に残っているユキの光の球がまた何と言うか……漁火みたいに見えるわね。」
「そうだな、これで変な魚とか来たら……」
「ねぇ、それってフラグだと思うんだけど? 何でそう言った発言になるわけ?」
ナギとレンの不用意な発言にユキは嫌な予感を覚えた。そもそもここに来る間には誰にも会っていない。スディレットのプライベートビーチとは言え、こんな穴場スポットに誰も来ないのはおかしいと感じた。
そして宿にはそこそこスディレットの職員も泊まっていた筈だ。そうなるとガラントが話せる位には精霊力が濃い場所と言う事も相まって、嫌な予感は加速されていく。
「ね、ねぇ……何か私嫌な予感がして来たんだけど?」
「偶然だな、私も同じ感想だ。何か嫌な物が近づいて来てる感覚が有る。」
ユキの発言にアラスティアも同意する。しかしナギは首をかしげた。探知能力に関しては間違いなく自分の方が高かったからだ。
「私は何も嫌なニオイは感じないわよ?」
「ねぇ、ナギの探知はニオイだよね? 水中からのは判別できないんじゃない?」
不思議そうにしているナギにパティスが冷静に分析すると、すぐにレンが青ざめながら海水に手を突っ込んで精霊力を使って索敵を開始した。
「何か海底に居るぞ! それも1体じゃない! コレは……何だ? 精霊なのか?」
「いや、この感じは混ざってるな……」
レンは何かを感じたのだがそれ以上は不明だった。しかしその気配を感じたガラントの方は何かを察した様だった。
「どう言う事だ? ガラント?」
「多分だが……いや、これはレディたちに確認しておく必要が有るな。二人はホラー系は大丈夫か?」
「え? わ、わわ、私はへ、平気だわよ……で、でもリィム程じゃ無いけど苦手の方では話あるわよ。」
「ホラー? そんなモノより実在の人間の方が怖いんだから平気に決まってるでしょ? そもそも作り物なんて怖く……って……え?」
少々ビビっているナギと平然としていたユキだが、自分が作った光の球目掛けて大きなサメの様な生物が喰いついたのだ。その光景を見て顔が引きつっていた。
普通のサメなら精霊術で追い払えるとタカをくくっていたのだが、その姿は色んな意味でホラーと化していたのだ。
簡単に言うならば、ゾンビの様な見た目の巨大サメが腐乱した体で暴れている光景が目の前に広がったのだ。




