第45話 正しい精霊の成長
レンとナギは訓練を終えて朝食を取りに部屋に戻ると他の皆は食事を終えていたのだが、二人分の食事がリビングに準備されている最中だった。
「お、返って来たな。スタッフが君達が訓練ルームを出るのを確認してから作ってくれたから出来たてだ。」
稲葉が二人に声を掛けると他の皆は各自それぞれを行動をしながら寛いでいた。
「トレーニングに行かれたとの事で、運動後に適したタンパク質が少し多めのメニューにしているそうです。お食事後はこちらで片付けますのでごゆっくりどうぞ。」
スタッフは並べ終わると部屋から出て行った。二人は驚きながらも食事を始めると空いている椅子にユキが座り、頬杖を突きニヤニヤとしながら話しかける。
「二人で朝から訓練デート? 相変わらずのバカップルぶりね。」
いつもなら二人とも顔を赤くしながら反論して来るのだが、今日は二人共みそ汁をすすりながら冷静に返事をした。
「ああ、ちょっと考えさせられる事が有ってな。」
「そうだわね。ちょっと私達も気を引き締めないといけないわよ。」
二人の真面目な表情にユキが驚いていると、先日にエルとリィムから聞いた北見の話を思い出す。
「この前の北見とオーエンと言った奴らの事? また遭遇するか解らないのに?」
「それ以外にも強い奴等は居るだろう。もし任務で遭遇して戦う事になってから後悔しても遅いからな。」
「そうね、死ぬにしても後悔だらけで死ぬのは嫌だわよ。」
二人の真面目な表情にユキは困惑していた。確かに自身も先程の事件では謎が多かった。原因も不明だし、何か意図的な何かが無かったとも言い切れないモヤモヤした結果だったからだ。
「そう言われると……私も少しは訓練しようかしら。ご飯食べたら行くの?」
「「いや、午前中は遊ぶ。」」
「え? さっきまでの真剣な話はどこに行ったのよ!」
真顔で遊びに行くと言い返されたユキは盛大に肩を透かされて、呆れた表情になっていた。しかし当の二人は何やら真剣な面持ちだった。
「いや、真面目な結論でな……ユキはアラスティアを具現化した時の感情って覚えているか?」
「え? アラスティアを? そうね、確かこんな所で死んでられないとかだったかしらね……?」
「ユキ……本当のことを言いなさい。ウソだってバレてるわよ。」
目が泳ぎながら二人の顔を直視しなかった時点でウソを付いてると察知した二人はジト目で再度質問を返すと、観念した様にユキは正直に話し始めた。
「ううぅぅぅ……あの当時はねタツミ君と付き合えたらとか、もっと人生楽しみたかったとかよ! やっと自分らしく振舞える様になったのに何でこんな所で死ねるかって感情よ!」
「ああ……あの当時はタツミの奴は鈍感な上にフラグクラッシャーだったからな。」
「そう言えば横恋慕してたんだったわね。忘れてたわよ。」
ユキの告白に二人は冷ややかな視線のままニヤニヤしながらツッコむと、悔しそうな表情でユキも反論する。
「もうそんな気持ちは無いわよ! 人の彼氏を奪う様な趣味の悪い事に興味は無いからね! それにあの二人が幸せそうなのを見てれば……そんなこと考えている方がみじめになるわ。」
そう言うと3人の視線は、持って来ていた宿題をヒジリに教え込まれているタツミへと移った。
「確かにあの二人は何と言うか……自然体でくっ付いてるわよね。」
「ああ、夫婦かと言いたくなるな。」
「アンタ達のバカップルに見習わせたい模範生って感じだわね。」
「「なんだと!」」
そう言う所だと何度も言っているのにと思っても、口に出す事も疲れて来たのでユキは黙って本題へと話を戻した。
「で、結局何が言いたいのよ? それと遊ぶと何か関係が有るの?」
レン本題に戻されて、不服そうにしながらも説明を始めた。
「精霊を成長させるには感情が必要だって事は知ってるよな?」
「当然じゃない。」
「だったら何がキッカケでティルは進化した?」
「タツミ君とヒジリちゃんが付き合って……二人の幸せの感情からでしょ?」
「そこが間違いだったんだ。」
レンの言葉に理解が追い付かないユキは首をかしげる。
「その道理で言ったら私達のパティやガラントが進化して無いのは何でかしら?」
「でもティルは二人と契約しているからじゃないの?」
「そうだとしても力の差が有り過ぎると思わないか?」
確かに同じ理屈でいけば、レンとナギの精霊も龍位まではと言わないが成長していないと変である。さらに判定ではユキよりも低いSランク判定なのは余計に謎だ。
「確かにね、その理屈だとランクが私より低いのはスジが通らないわね。」
「ぐ……そこを言われると痛いが……」
「そうだわよ。それに切り裂き魔と私達全員が戦った事が有るけど、勝った事が有るのはレンだけなのにおかしいと思うわよね?」
「うぐ……そこは相性と言うか……いや、普通に戦ったらレンの方が私よりは強いと思うわ。」
「謙遜すんな、刀による戦闘技術も含めればそうかも知れないが、単純な精霊術の出力では圧倒的にユキの方が上なのは事実だ。」
「そこで一つの結論に達したのは『具現化した時の感情』が一番進化に必要な感情じゃ無いのかって事だわよ。」
ナギから聞いた結論を聞くと、ユキはまさかと思い錆びた機械の様にぎこちなくタツミ達の方を振り向く。
「まさか……ティルの具現化した時の感情って……」
「ええ、『タツミ君と付き合う前に死ねるか!』だったって言ってたわよ。他の感情は一切無しだって。」
「まさかの恋愛脳過ぎない!? いや、私も人の事言えないけど100%それだけなのなの!?」
ナギも呆れつつも、当時のヒジリの数少ない友人の立場からしても、それ以外の思考は無かっただろうなと思える位に『ストーカー』状態になっていたのを知っているだけに何も言えなかった。
「その仮定から行くとだな……『大いなる再生者』の件を抜きにして考えれば。」
「その時の感情を精霊に与えれば進化を促せると言いたい訳ね。ちなみにアンタ達の感情を聞こうじゃないの。私だけ教えたなんて不公平だわ。」
ユキはふてくされて頬を膨らませながら二人に問いただす。
「大体ユキと似た様な感じだ。俺の場合はナギと付き合う前に死ねるかって気持ちと、悲しませたくない、気持ちをハッキリと言わない事で後悔したくない。それにもっと二人で人生楽しみたいだな。」
「私の場合もほぼ一緒だわよ。もっとちゃんと話して後悔の無いようにしたい。もっとレンとの時間を過ごしたい。そんな所ね。」
「あ~だからガラントもパティスもあんなに喧しいのね……。」
話を聞いて何となく精霊の性格に納得したユキだったが、何故それならアラスティアはあんなにも堅物な性格なのか不思議になっていた。
「それはユキが暴走グセを後悔している感情が有ったからだろう。だから私はユキを止めていたんだろう。」
急にアラスティアの声がユキから聞こえたので3人は驚きを隠せないでいたが、アラスティアは淡々と説明を続けた。
「ここは少しだが精霊力が濃いようだ。それに元々私達の間には親子の様なへその緒みたいな精神的な繋がりが有るからだろう。まぁこの程度では力は出せないが会話位は出来る様だ。」
「それってガラントやパティスもなの?」
「強い感情で呼べば出来るのではないか?」
そう言われて二人を見るが、二人は首を横に振っていた。試しにティルやハッキネンも出来るかも試したが出来なかった。
恐らくだが属性的な精霊力の濃さなのかと結論に至ったのであった。




