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第44話 二人だけの訓練

 その後タツミ達は一通り遊び、夜はバーベキューと花火で楽しんだ。


 ホテルに戻り温泉に浸かると、全員が体力を使い尽くしたのか各自のベットで泥の様に眠りについた。


 そして翌日早朝。


「ここが訓練施設か……いつもの場所に比べて少し狭い程度って感じか?」

「流石にあの規模を全国各地にって言ったら税金の無駄使いと言ってやるわよ?」


 ホテルの地下にあるスディレットの訓練施設にレンとナギの姿が有った。


「で、レンはこの前の任務で何か気付いた事が有ったんでしょ?」

「ああ、月華と同化して気付いたが……精霊力の強さの差ってやつだな。」


 レンはそこまで言うと霊装銃を構えてガラントを呼び出した。ナギも同じくパティスを呼び出すが、表に出ているのはどちらも人間の方だった。


「ガラント、パティ。騒ぎ出す前に聞きたい事が有る。良いか?」


「何だ? 詰まらない話なら手短に頼むぜ?」

「何々!? 私はお喋りできるんなら何でも良いよ!。」


 相変わらずの調子にレンとナギは肩をすくめる。


「なぁ、パティはこの前の月華と同化している俺を見てどう感じた?」

「どうって、どう言う事?」

「精霊力と生命力のバランス? と言うか力の流れだ。」


 レンの言葉にパティスは唸り声の様な考え込む声が聞こえて来た。


「え~……何て言うかな……ガラントの時との違いだよね? 確かに月華の方が強い精霊力を持っていたけど違いかぁ……」


「感覚で言い、今の俺と見比べてあの時との違いを知りたいんだ。」


 そう言うとレンは流水刀を具現化して精霊力を上げて行く。それに応える様にパティスが表に出て来て、レンの姿を注視し始めた。


「おいおい、何だよ。俺に文句が有るのか?」


 ガラントが不満げに文句を付けるが、レンはすぐにそれを否定してから黙って見ていろと注意する。


「ん~そうだね。精霊力と生命力の親和性は明らかにガラントとの方が高いのは間違いないね。でも何と言うか……あの時との違いかぁ……」


 パティスが悩みながら眺めていると、突如としてレンの精霊力の雰囲気が変わった事に気付いた。


「今のはどうだ?」


「え? 何? どう言う事? 雰囲気と言うか……出力が少しだけど上がった?」

 

 パティスは驚きながら見ていると、更に雰囲気が変化し出力が上がっていくのが分かった。しかし同時にガラントから苦情が入る。


「レン! そんな感情を食わせるな!」


 声と同時にいつもの雰囲気に戻ると、精霊力も普段の強さに戻るのが確認できた。その様子を不思議そうにパティスは眺めながらガラントに質問する。


「そんな感情ってどう言う事?」

「どうもこうも有るか! レンに聞け!」

「ひっ!」


 不機嫌そうなガラントの声にパティスは驚いた。ガラントは普段はどんなに機嫌が悪くても女性には紳士的であろうとするが、今の態度はパティスに対しても初めての事だったのだ。


「す、スマン……パティちゃんが悪い訳じゃ無いのにな……、レンの感情に引っ張られちまった……」


「引っ張られたって……怒りとかそう言うった負の感情だったの?」


 ビックリしたパティスはいつもの陽気さが見えなくなる程驚いたのか、恐る恐るガラントに確認を取ると肯定の返事が返って来た。


「やはり、一時的に出力は上がるがガラントにとっても良い事じゃなさそうだな。」


 レンは額に滲んだ汗を拭きながら確認する様に言うと、ナギが表に出て来てどう言う事か尋ね出した。


「どう言う事なのよ? 明らかに強さは一時的に上がっていたわよ。でもガラントがここまで不機嫌になるなんてただ事じゃ無いわよ?」


「月華と同調契約して同化した時にアイツの記憶の一部が見えたんだ。そしてアイツの想像以上に力を使う所が一瞬だけ垣間見えたんだが……」


「それが怒りや負の感情だったって事?」


 ナギの言葉にレンが頷くと、黙って近づいて勢いよく頭を平手で引っ叩いた。


「バカなの! ティルやハッキネンの時は前向きな感情で進化したって言ったわよね!? 何でわざわざそんな事を試すのよ!」


「いってぇな! だから試しただけだ! それに今ので解った事も有る。」


 レンは叩いたナギの手を掴んで反論を始めた。


「負の感情……いや違うな。契約精霊にとって好ましくない感情での精霊力を上げる手段は消耗と反動が来る、想定以上にだ。」


「じ……実験だったの?」


「ああ、そうだ。月華の時は最初は孤独や怒りの感情が渦巻いていた。そして段々と落ち着きを取り戻してからは消耗が楽になったからもしかしてと思ったんだ。」


「実験に付き合わせるんじゃねぇ! 俺まで感情に引っ張られるだろうが!」


 ガラントからも苦情が飛んで来たが、レンは冷静に話を続けた。


「スマン。だが拒否されて逃げられたんじゃ、いざと言う時に取り返しが付かない事になる。だからこそ今のうちに確認したかったんだ。」


「ぐ……そこまで言われるとな……協力はするからちゃんと言ってからやれよ! 俺とお前はパートナーなんだから、説明されれば可能な範囲では協力するんだから信用しろ!」


「はは……すまない。ありがとう。」


 ガラントは不服ながらも許すと、レンは苦笑いを浮かべながら礼を言った。そしてナギの手を離して再び距離を取る。


「その顔は……まだ何か実験する気だわよね?」


 呆れた顔でナギが質問するとレンは頷く。そして再び霊装銃で精霊力を補給すると、流水刀を構えて精神を集中させる。


「ガラント……お前は俺の強い感情で具現化した精霊だよな?」

「そうだって何度も言っただろ?」

「だったらお前を進化させるのはその時の感情がヒントって事だよな?」

「多分な? 精霊は契約主の感情を貰って成長するからな。」

「だったら力を上げる方法は……」


 レンが思い出したのは精霊界に最初に訪れた時の事だった。


 そこは精霊を具現化して契約しなければ精霊力の強さで人間は生きていけない環境だった。故に死にかけるからこその強い感情で精霊はその感情で姿を現してくれる。つまりは生死に直結する程の強い感情が必要なのだろうか?


 いや、ティルの進化は違うと言っていた。そうなればティルが具現化した時の感情がヒントになる筈だ。タツミからティルとの出会いの詳細を聞いて知っていたレンは一つの結論に到達したのだ。


(俺はナギと一緒に人生を楽しまないうちに死んでたまるか!)


 一つの結論に達したレンの意識が流水刀に集中すると、明らかに精霊力が上がっているのがナギですら感じられた。


「こ、これは……『切り裂き魔(ザ・リッパー)』と戦った時に近い感覚だな。あの時は必死だったから理解出来てなかったが。あの時と同じ感覚だ。」


「そ、そうね。思い出したわよ。確かにリッパーと戦った時のレンの精霊力は明らかに違ってたけど、何が違うかは分からなかったわ。でも確実にあの時に近い力を感じるわよ。」


 レンとナギは、過去に特異能力者セカンドスキラーと戦った時の事を思い出していた。


 そして何故Sランクと位置付けられた自分達が、ExTended以上と推測できる特異能力者セカンドスキラーと戦い、まがりなりにも勝利を収めたか不思議だった。だが無意識に正しい力の出し方をしていたとなれば納得がいった。


「うむ、どうせなら俺はこっちの感情の方が好きだな。」

「そうだね~見てて気持ちいい感情が伝わって来るしね。」


 ガラントとパティスも納得した声を上げていた。


「後はコレを常時出来る様にするって事か……ナギ、お前も訓練するぞ。」


 レンは気付いた事をナギに伝え始めると、ナギは顔を真っ赤にしながら訓練を始めたのだった。


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