第43話 海水浴
女性陣から男性陣は先に向かっていろと言われ、タツミ達は先にビーチへと向かいパラソルやレジャーシートを広げて全員が休憩しやすいスペースを作った。
少し遅れて荷物を持った稲葉が到着すると全員にサングラスと帽子を渡して来た。
「一応熱中症には気を付けるんだぞ? こればっかりは年は関係無いからな!」
「それって自分で年寄りって認めてる発言なんだが?」
レンが稲葉に少し皮肉を言うが、海水浴姿になっている稲葉の体は年齢を感じさせない程に鍛え抜かれた、いかにも軍人と言った逞しい肉体を披露していた。
その姿に部活で体を鍛えているレンとタツミですら自分達の肉付きが貧相に思えてしまう程だった。
「そこまで鍛えるとやっぱり術の出力とか変わるんですかね?」
「いや、エル君。鍛えるの体だけでなく精神だ。健全な肉体に健全な精神が宿る! そしてその精神がより強い精霊術を発現させるのだよ!」
「な……ナルホド!」
「「ナルホドじゃねー!」」
エルと稲葉のやり取りに二人のツッコミが飛ぶ中、一足先に晴香が腰回りにフリルのついたワンピース型の水着にカーディガンを羽織って現れた。
「あ、相変わらず鍛え抜かれたお体ですね……司令。」
「おお、ありがとう。晴香君も普段のスーツ姿も似合っているが、水着姿もまた美しいな。」
「あ、ありがとうございます。」
稲葉の返しに晴香は珍しく顔を赤らめて下を向いて照れ臭そうにしていた。その様子を見たレン達は何となく察したのか小声で会議を始めた。
「な、なぁ。晴香さんって司令の事……」
「そう思いますよね? 何となくは察していましたが。」
「エルですら察するならば間違いないんじゃないか? と言うか薄々は感じていたが……間違いないようだな。」
3人組は腑に落ちた表情で振り返ると、2人に背を向けて距離を取る様に海の方へと聞き耳を立てながら移動し始めた。
「しかし……稲葉さんもイケオジ系ってヤツだからモテない訳が無いんだよな。」
「ですね、それに肉体も精神を鍛え抜いてますし、大人の男性の包容力を感じさせてますからね。」
「あぁ~確かに外側を見ればそうなるよなぁ……」
レンとエルが褒めていると、タツミだけは本来の姿の黒兎の姿を思い出して微妙な表情をしていたが、逆にあのウサギ姿も愛嬌がかなり有るので、それもそれで捨てがたい魅力なのか? と考え始めていた。
「あ、いたいた。何でパラソルから離れてるのよ?」
ユキが一足先にタツミ達を見つけて声を掛けて来た。その姿はオフショルダービキニを着ており、おさげの髪型と相まってふんわりとした印象を受けた。
「随分とオシャレな……って泳ぐ感じには見えないな?」
「ああ、私はカナヅチだから水遊び専門だからね。だから敢えて服っぽい水着にしたのよ。沖に引きづり込もうとしたらコロスからね?」
レンの感想にユキは睨みを利かせて注意をすると、すぐ後ろからリィムが姿を現した。その姿はショートパンツにTシャツの様な水着だった。
「あれ? リィムさんは水着に着替えないのです?」
「これでも立派な水着ですから! うぅ……私は皆に比べて体型が幼いですから、出来るだけ目立たない様にした結果が……」
俯きながら、認めたくない現実を切実に語る雰囲気にレンとタツミは罪悪感を感じ始めたが、エルは更に容赦なく追撃する。
「今更何を言ってるんですか? 体型はどうしようもないんですから!」
その一言にタツミとレンとユキの顔は青ざめたのは言うまでも無かった。流石にコレはヤバいと思ったのか何とかフォローを入れようとするが、エルの人たらしの本領が発揮されて行く。
「折角の海に来たんですから好きにすればいいんです! それにその格好も可愛い感じで似合ってますよ! 人と比べるんじゃなくてリィムさんに似合ったのを着ればいいんですから!」
「そ、そうですよね。で、これは似合ってますか?」
「ええ、とても似合ってますよ!」
一瞬キレそうになっていたリィムの表情が一変してにこやかな笑顔に変化した。その様子を見ていた3人は相変わらずの人たらしだと感心しながら冷ややかな視線を送ったのは言うまでも無かった。
「あ、居た居た。ナギちゃん。こっちに居たよ。」
「目印から離れてるなんていい度胸だわね。お説教が必要かしら?」
やっと見つけたと言った様子でヒジリとナギが続いてやって来た。
ヒジリは初めての海で日差しを気にしてかフリルが多目のワンピース型の水着に大きな麦わら帽子を被り、長い髪を団子に纏めていた。ナギはフリルで体型を隠す様なハイネックビキニにサングラスを頭につけて現れた。
「何と言うか……ナギ。お前胸元隠すのに必死になってる感がする水着だな。」
「レン、少しこっちに来て説教を受けたい訳? 前にも言ったけど普通の水着を着ると胸元ばっかり見られるから嫌だって言ったわよね!?」
「あ~……そう言えば言ってたな。でも折角立派な物が有るんだから自慢すれば良いのに……」
言いかけた所でリィムの逆膝蹴りが入り、崩れた所にユキのチョップパンチが後頭部に炸裂した。
「「少し黙ろうか?」」
別の意味で胸部に悩みを抱えている二人から激しいツッコミを受けたのだった。
「アハハ……相変わらずレン君はデリカシーが足りないよね……。」
困ったように笑うヒジリはゆっくりとタツミの方に近づくと、感想を待っている様な視線を送る。タツミもすぐにその行動に気付く。
「凄く可愛いな。帽子も水着も髪型も似合ってるよ。」
「えへへ、ありがと。」
はにかんだ笑顔を浮かべながら上機嫌になっていた。その様子を見たナギが自分もそんな風に言って欲しかったと言わんばかりに、刺さる様な視線をレンに送っていた。
「体調は大丈夫か? 何か有れば無理はするなよ?」
「大丈夫だよ、もう健康体なんだから。それに念の為に布が多い水着にしたから。体への負担も少ない筈……かな?」
タツミとヒジリだけ、何と言うか甘い世界に入っているのを5人が少しづつ眺めつつも離れて行く。
「何か……居場所がどんどん減ってる気がするな。」
「いや、レンの場合は自分が悪いわよ。」
「私達はどうする?」
「取り敢えず……海に行きますか。」
「そうですね、稲葉さんの方に行くのも何か嫌ですし。」
5人は諦めた様に海の方へと向かうと8月に入り、夏真っ盛りの筈なのに海水浴客が少ない事に気付いた。そして周りを見渡せば別にプライベートビーチと言う感じでも無い事が分かる。
「この時期にしては少ないな?」
「そうね。クラゲが出るには早いわよね?」
「なにか別の原因が有ったりして。」
「まさか幽霊とかですか!?」
「エル君!? ぶっ飛ばしますよ!」
冗談を言い合いながら水際に来ると、各自は海の水の気持ち良さを素足で感じながら次第に海へと入って水をかけ合いながらはしゃぎ始めた。その様子に気付いたタツミとヒジリも合流するべく慌てて駆け出す。
「ふっふっふ、若者は元気が有って良いな。」
「司令もまだ十分お若いですよ。」
「なにを言うか。見た目通りの年齢だよ。中々体が若い頃の様に動かん。」
「またご冗談を。」
稲葉はパラソルの下でタツミ達をまるで親の目線で眺めていた。その横で晴香は暑さのせいか顔を少し赤らめながら隣で座っていた。
「さて、今日は息抜きだ。色々遊ぼうじゃないか。」
「そうですね。明日からは現地調査ですからね……みんな怒りませんかね?」
「多分気付いているだろう。だからロイヤルスイートにも泊まると判断したんだろう。察しの良い子供達だよ全く。」
そう言うと稲葉は立ち上がり手を差し出して海の方へ行こうと態度で示すと、晴香もその手を取って立ち上がると、ゆっくりと合流しに行くのだった。




