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第42話 夏休み

「さて、毎度の事ながら良く集まってくれたね。」


 稲葉がタツミ達7人を見渡す、夏の眩しい日差しが新幹線の窓の外から射しこんでいた。


「ねぇ……スディレットは新幹線が大好きなの? 目の間に有る駅弁は嬉しいんだけど……普通はこう大所帯の移動って普通はバスとか車とかヘリとかじゃないのかしら?」


 ナギは駅弁を食べながら文句を言うが、他のメンツは食べる前に早く説明しろと言いたげな雰囲気を醸し出していた。


「まぁ食べながら話そうじゃないか。お代わりも有るから遠慮せずに食べなさい。駅弁は旅の醍醐味だからな。」


 稲葉はそう言うと自分もタツミの向かいの席に座って駅弁を広げ始めた。その様子を見て諦めた他のメンツも駅弁を選び始めるが、瞬時に戦争が勃発した。


「あ! ユキ?! ホタテ弁当は私狙ってたのですよ!」

「なによ、リィムは北海道にいって食べて来たんでしょ!? 良いじゃない!」


「レン! 肉弁当ばかり狙うな!」

「うるさい、タツミ。肉はな……戦争なんだ。」


「えっと……俺は余り物で良いですよ……」

「エル君……そう言って釜飯系ばかり狙ってるよね?」

「ヒジリさんは……随分とヘルシーなお弁当ばかりですね。」

「え? ええっとね、元の食が細かったのに健康になったら食べる量も増えてね……。」

「エル君! そういう発言はNGです! セクハラってヤツです!」


「はっはっは、若者はそれ位が丁度良い。ワシは押し寿司の弁当にしようかな。」


 各自が食べ始めると場の雰囲気はほのぼのとした物になり、夏休みの朝早くから招集を掛けられた不満の空気が少しは和らぎ始めた。そして食事もひと段落を終えた頃に稲葉は説明を始めた。


「さて、今回の召集の件だが……」


 全員が言葉の続きに緊張して息を飲む。


「夏休みだけにな……遊ぼうと言う事になった。」


「「「は?」」」


 全員の目が点になって、理解するまで数秒を要した。そんな空気の中でも稲葉は普段通りに至極真面目な表情で話を続けた。


「ワシだってな……遊びたいんだ。今までは桐生や霧崎が暴れまわっていたせいでロクに休みも取れずにいてな……君達が来てからやっと休みが取れるようになったんだよ!」


「で……何故に俺達まで?」


 タツミが状況を上手く理解出来ないまま質問する。


「ん? 折角だから人数が多い方が楽しいだろう?」


「そ、それだけですか?」


 ヒジリも全く意味が理解出来ないと言った表情のまま聞き返すが、稲葉の表情は1ミリも崩れないままだった。


「折角だからスディレット保有のリゾートビーチで慰安旅行と思ったのだが……余計な事だったか?」


 ここで何となくヒジリはピンと来たのか、タツミに耳打ちを始めた。


「もしかして、稲葉さんってリバちゃんやミストちゃんと話したいからこういう企画をしたのかな?」


「あ~この前リバちゃんにモフられてた時、満更じゃない表情してたもんな……」


 二人は正面に座る稲葉に冷ややかな視線を送るが……もしそうだとしたら稲葉としてではなく、クロとして家族に堂々と会ってくつろぎたいのではと思えた。


 そう考えると今回の話を無下に断るのも難しいと思ってしまった。


「それって……多分ですけど訓練施設付きのホテルですよね?」


 ヒジリの予想が当たっていればこの可能性が高かった。そしてその言葉に他の5人は一気に冷めた表情を浮かべた。


「あ~……一応有るな、希望が有るなら構わんぞ。夜にはバーベキューの準備もしているし、この通り花火も準備している。」


 稲葉は後ろに待機させていた晴香に手持ち花火セットを持って来させていた。尚、晴香も後ろの席で駅弁を食べていたのは言うまでもない。


「ふん、私は色々と確認したい事が有ったから丁度良いわよ。まぁ訓練の後に遊ぶのもいいわよね。」


「そうだな、折角だし今後の話し合いもしておきたいからな。」


 レンとナギだけは訓練施設の話から逆に考え込んでいた。そして二人は目を合わせて頷くと何かを決めた様だった。


 各々が最初の任務をこなした後、スディレットとして集合するのは初だったので、今までの話をまとめてするいい機会と思っているメンツも何人かいたのも事実だった。


 そして新幹線を降りると、晴香を含めた9人は特別通路を通ってスディレット専用の地下鉄へと乗り換えた。


「しかし……本当にどれだけ秘密の地下鉄が有るんだよ……税金の無駄使いじゃ無いのか?」


「いやいやレン君。この通路などは非常時の避難用に使われる事も有る。それにある程度使わないと急に動かそうとしても使えませんじゃ意味が無いからな。」


「物は言いようだな……まぁそんな事件や災害が起きないようにするのが俺らの仕事か。」


 そんな話をしていると目的の宿泊施設の地下へと電車が到着したのだった。ホームには職員らしき人達が出迎えに来ていた。


「ようこそ司令。今回はSランク以上の皆さまをお連れとの事で、私達スタッフも最大限のもてなしをさせていただきます。」


「ああ、支配人。この子達は過分な贅沢は好まないから一般客と同じ扱いで構わない。ただ部屋だけは機密保持の観点から最上級の所を頼む。」


 稲葉は支配人にそう告げると後ろを振り返ってタツミ達にこれで良いかと聞いて来る。タツミも機密保持を出されたらどうしようも無いのでその点だけは同意したのだった。


 そして全員が最上階の部屋へと案内された。そこはロイヤルスイートで同時に全員が止まれるほど大きな部屋が6つも付いており、部屋の中には露天風呂まで設置されていたのだった。


「ね、ねぇ……ちょっとこれは贅沢過ぎない?」

「コレが……ロイヤルスイート……」

「うわ~良い眺めですね~。」

「潮風が気持ち良いです。」


 各自が色々と呟いているが、9人で過ごすとなれば妥当な広さなのだろうかとタツミは考えていた。


「当然だが男女別々の部屋割りだからな? 問題を起こした場合は管理者として厳重処罰をするから覚悟しておくように。」


 稲場は修学旅行の引率の先生の様な事を言っていたが、このメンツの中でそんな事を考える様な強者は居なかったのか、全員がキョトンとした顔をしていた。


「稲葉さん……たとえ間違いを起こそうとしても武力で負けると思うんだが?」

「ちょっとレン! それってどう言う意味だわよ!?」

「そのままの意味だよ! そんな度胸有る奴居るか!」

「アンタ! その発言がどれだけ無神経か武力行使しなけりゃいけないわね!」


 ナギとレンのケンカが始まるが、全員でそれを見ないフリをしながら部屋割りを決めて行った。


 タツミとレン、ヒジリとユキ、リィムとナギ、晴香と稲葉、エルは個室に決まると各自の荷物を部屋に置くと再度リビングフロアに集合した。


「さて、では海に行こうか。水着は下で無料貸し出しが有るから自由な物を選びたまえ、私はスイカとクーラーボックスに飲み物を準備して行く。」


「稲葉さん……えらくはしゃいでいるよな。」

「そ、そうだね……一番遊ぶ気満々かも。」


 タツミとヒジリが引き気味に見ていると、後ろから晴香が二人に耳打ちして来た。


「司令は皆さんが来るまでは機密を一人で抱えている様な物でしたから、反動が起きているのだと思います。それにあんな楽しそうな司令を見るのは初めてなので……皆様には申し訳ありませんが、お付き合い頂ければ助かります。」


 少しだけ照れながらも嬉しそうにしている晴香の顔を見た二人は、何となくだがその表情の意味を察して頷くしかなかった。


「よし、それじゃヒジリも海水浴は初めてだったな? 折角だから楽しい思い出にしようか!」


「う、うん! そうだね!」


 タツミもその様子を見て、ヒジリとの初めての夏の思い出を作ろうと決めたのだった。他の皆も満更では無い表情になっていたのは言うまでもない。



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