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第40話 相性の差

 エレミアは再び預言書を開いて闇の精霊力が漏れ出させるが、リバティは悠然と構えたままだった。


「ヒジリからの知識共有でアンタの戦いを見せてもらったけど、相性が最悪ね。」


「私が苦手なのは光属性位ダ、火属性では勝負ニならないだろうネ。」


 リバティの言葉にエレミアは当然と言った表情で返事を返す。しかしその言葉を聞いてリバティはむしろ呆れた表情になった。


「アンタ、干渉系でしょ? 結界内の相手にゆっくりと自分の精霊力を浸食させて言葉で相手を命令通りに動かすのよね。」


「ああ、抵抗力が有るのハ光属性だけダ。だから勝負にならナイ。」


「私はこれからこの拳で正面から殴る。」


 リバティは拳を突き出して宣言すると、駆け出して大きく振りかぶった。


 エレミアは何を言っているのか理解出来なかった。自分の神器は強制力の強い精霊術だ、同じ特異能力者セカンド・スキラーとは言え、同格でも相性は覆る訳がないと考えていた。

 

「何ヲ……? キミの攻撃は私には当たらナイ。」


 しかし次の瞬間、リバティの拳はエレミアの腹部に思いっきり突き刺さっていた。


「カハッ……な、ナニ?」

「何か言ったかしら? 次行くわよ?」


 よろめきながら数歩下がると、すかさずにエレミアは言葉を続けた。


「キミは転んで拳を地面にぶつけて痛めル!」

「何ですって?」


 一瞬だけリバティの体から炎が吹き上がると再び拳が腹部を襲う。慣れない痛みにエレミアは呻きながら更に後方へ下がって言葉を続ける。


「クッ! 使いなくなかったが、キミは自分の首を絞めル!」


 強い言葉でエレミアが言うと、リバティの両手は自分の首を絞め始めた。しかし再びリバティの体から炎が吹き上がると、手は外れて再び拳がエレミアを襲う。


「な、何故ダ! 精霊術は発動しているのに! 何故効かなイ!」


 殴打をくり返されながらエレミアは混乱していく。言葉通りにならないリバティが理解出来なかった。


「私の術は言霊ダ! 出来ない事は言葉に出来なイ。しかし言葉にすれば発動するノニ、何故キミはならナイ!」


「ん? 発動してるけど?」


 リバティは殴り続けていた拳を止めて返事をすると、顔にアザを作ったエレミアは余計に混乱した表情になった。


「だったラ何故、キミは動かなイ!」

「だから相性だって言ってるでしょ?」

「どう言う事ダ!」


 リバティは溜め息をついて説明を始めた。


「ヒジリ、もう良いかしら?」

「そ、そうだね。タ、タツミ君にくっ付かないって言うなら良いかな?」


 ヒジリの言葉に更に呆れた様子になるリバティだが、確認する様にエレミアを見るとこちらもポカンとした表情で頷いた。


「す、すまナイ。キミのボーイフレンドだったか。以後気を付けル。」


 その言葉を聞いてヒジリが納得したのか、リバティは説明を始めた。


「別にガチでの敵じゃない様だから教えるけど。私の二つ名は『大いなる再生者(グランド・リバイバー)』よ、この時点で察してくれない?」


「マ、まさカ……」


 エレミアは名前を聞いて何かを察したが、余りにも荒唐無稽な能力だとも理解した様だった。


「アンタに命令された細胞を全部焼き殺してから瞬時に再生させたのよ。再度精霊力を浸食させるまでは自由に動けるし、定期的に全身を新しく再生すれば影響はほぼ無いわね。つまり、アンタと私の相性は最悪なまでに悪いの。」


 説明を聞いたエレミアはへなへなと崩れ落ちると、両手を上げて降参のポーズをする。横で聞いていたタツミとアラスティアはそんなの有りか? と言う表情をしていたのは言うまでもない。


「勝負あり、勝者ヒジリ。」


 呆れかえった空間に稲葉の声だけが高らかに響いた。



―――――――――――――


「で、クロ。アンタ何でここに居るの? ねぇ?」

「そ、それはね……レピさんの命令で……」

「へぇ~アンタずっと人間界で観察してたんだ。」

「あ、あの……それは……」

「他には何をしてたのよ? ねぇ?」

「帰還者の保護とか仕事の斡旋を……」

「それもレピ姉の指示?」

「は、ハイ……」

「次元跳躍で私達にずっと会いに来なかった理由もそれなの? ねぇ?」

「レピさんがまだダメだって言うから……」


 リバティと向かい合って説教されているのは、ションボリしている一匹のクロと呼ばれる黒兎だった。


「で、憑依主の姿のまま偉そうにしてたわけだ。」

「べ、別に偉そうになんか……」

「私が出て来ても元の姿に戻らなかったよね? ねぇ?」

「いや、それは審判をしてたから……」

「私に気付かれたく無かったの? ねぇ?」

「い、いえ……そんな事無いです……」

「あ~あ、寂しいなぁ……あんなに可愛がってあげてたのに。」

「いや、ボクも会いたかったよ?」

「だったら何で会いに来なかったかなぁ? ねぇ?」



 試合が終わった後、リバティはエレミアの殴打痕の傷を治療するとすぐさま稲葉の首をとっ捕まえた。


 そしてすぐに正座をさせて説教を始めると同時に稲葉は一匹の黒兎へと姿を変えて、まるで飼い主に怒られる犬の様になっていたのだ。


(相変わらずリバちゃんの『ねぇ?』の語尾の圧力凄いな……)

(下手な事を言うなタツミ! 巻き添えを喰らったら大変だぞ!)


 帰るタイミングを完全に逸したアラスティアもその場で説教されている図を見届けていた。当たり散らすその様子に、いつ飛び火するのかとヒヤヒヤしながら見ているのが理解出来た。


「しかシ……凄いナ。傷が一瞬で治った上に痛みも無イ。」


 空気を読まない女が二人の隣で声を上げると、全員の視線がそちらに移動した。


「リバティと言ったナ。回復術は消耗が激しいと聞いたがヒジリは大丈夫なのカ?」


「ん? ああ、特異能力セカンド・スキルを10年以上抱え込んで死なない様なタフな子だからね。流石に前は消耗してたけど、今は離れたせいで回復しているから多少は大丈夫。」


 その説明はエレミアは驚きを隠せなかった。何故なら特異能力セカンド・スキルは自身が人格を持っている為、身体への影響が酷く憑依主の生命力次第では精神を破壊したり、肉体が崩壊するのだ。


 それを精神や肉体に異常をきたさないまま10年以上生活していたとなると、常識を超えていると言う事になる。


「私や稲葉の肉体は憑依後2,3年で精神が摩耗してしまっタ。それを10年以上もダト? それが回復しタ? 普通の精霊使いの何倍もの生命力になるんダ!?」


「さっきの戦い方をタツミさんでやったら1分で枯渇するね。」

「めっちゃ物騒な発言が出たんだが? やるなよ?」

「そもそも憑依主に危害を加える気はないから。」


 リバティは説教が中断されたと判断すると、クロを抱きかかえて腕の中でモフり始める。クロも鼻を鳴らして満足そうにしているのを見ると、普段とのギャップの激しさを感じる。


「まぁ、エレミアだっけ? アンタがもう一個の能力を使ったら解らないけど。」

「いや、私のもう一つの能力は集団戦用デ、元々私は稲葉と同じでサポート型ダ。」


 その発言に微妙そうな表情をしながらリバティは自分もそうなのだが? と言いたげだった。


「ねぇ、そろそろ良いかしら? 私も窮屈なんですけど!」

「そうだね、ヒジリも疲れて来てる様だから変わるね。」


 ティルから苦情が入ると、リバティは体から炎が吹き上げると同時に姿を消し、ヒジリが少し青い顔をして立っていた。


「思ったより消耗するね。でも慣れれば充分使えそう。」

「アンタね……まずは私を使いこなす方を重視しなさいよ。」

「アルセインって……エクスプロージョン撃つ以外に何か有るの?」

「……泣くよ?」

「爆発魔のクセを治したら聞いてあげるね。」


 ティルのいじける声を聞きながら、タツミは爆発だけとは言いつつも応用を効かせて戦った過去を思い出して擁護しようとしたが、ヒジリの不興を買うのは得策でないと判断して黙った。


(うん、それが良い。下手にこれ以上面倒にしないでくれ。)

(小声でも口に出すな! 火属性の『身体強化』で聴力も強化できるんだから!)


「アラスティア~さっきから何をコソコソ話しているのかな?」


 タツミがアラスティアに釘を刺すが既に遅かった。怖い笑顔のヒジリがジリジリとこちらへと歩いて来るのが見えたのだ。


「いや、何でもない。用事も終わったようだら私は帰る事にする。」


 ここぞとばかりに言い訳をしながらアラスティアは光になって消えた。


「ん~精霊でもタツミ君が女の子とコソコソ話するのは見てて面白く無いかな?」

「以後気を付けます。」

「うん、よろしい。」


 ヒジリはヤレヤレと言った表情をしながらも少し照れ臭そうに笑う。それを見てタツミもつられて笑うが、ヒジリの腕の中でどうしたものか悩んでいるクロだけが困った様に鼻をヒクヒク動かしていた。


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