第39話 規格外のSSS
「では始めるが……」
稲葉はヒジリとエレミアが向き合ってお互いに圧をかけ合っている状況を見て微妙そうな表情になっている
そもそもSSSとExTendedでは越えられない壁が有る、エレミアも加減はするだろうから身の安全は大丈夫と判断している……相手が普通のSSSならばだが。
「タツミ、月虹丸は精霊界で皆が精霊力をチャージしてくれていたから安心して使えるぞ。後、収納用の精霊具だ。」
そんな稲葉の心配をよそに、アラスティアはタツミに黄土色の石がはめ込まれたブレスレットを渡した。タツミはそれを左手首に通すと、勢い良く形が変形して手首ピッタリの大きさになった。
「相変わらずの謎理論だよな……月虹丸専用の収納用精霊具なのに。」
「それは作ったルーリアに聞いてくれ。」
「アイツ引き篭りだから召喚しても出て来ないんじゃないのか?」
「う……否定できないかも知れないな。」
ルーリアとは月虹丸を作った鍛冶師が具現化した土の精霊で、鞘とも言える収納用のブレスレットを作ってくれた精霊だった。
「さて、タツミ君の準備は良いかね?」
アラスティアとのやり取りが落ち着いたのを見計らって稲葉が確認を取ると、タツミは月虹丸を構える。
「ああ、行くぞ。来い! 雷帝刀・鳳雷」
声と同時に月虹丸の形状が雷帝刀・鳳雷へと変化していく。
「ふむ、明らかに先程までとは違うな。それが真の雷帝刀か。」
「ああ、コイツの能力を使う為には8属性全ての力が必要だからな。」
先程までとは明らかに違う雷帝刀を見て稲葉とエレミアは驚いた表情を見せる。
「アレが本来の神器の姿か……興味がそそられるネ。」
「調べたそうだけど、私を倒してからだよ。」
敵意が剥き出しになっているヒジリが、雷帝刀を観察しようと身を乗り出しているエレミアを制止する。
「そうだったネ。稲葉! まだかイ?」
稲葉は確認する様に視線を送ると、タツミは頷いた。
「よし、準備は良いそうだ。始め!」
稲葉の声が響くと同時に、エレミアは『嘆きの預言書』を具現化して闇の精霊力が溢れ出し始めた。一方ヒジリの方は髪と瞳が薄紅色へと変化し、ティルが表に出る。
「お手並み拝見! フレアボム!」
ティルは両手を広げて指先全てに1㎝程の火球を作り出すと、勢いよくそれらをエレミアへと投げつける。
「キミの攻撃は私には当たらナイ。」
エレミアはタツミの時と同じように冷静につぶやくと、火球は全て素通りして後方で爆発した。
「これって数打っても変わらないんだよね? だったら!」
今度は手を前に出して大きな火球を作り出す。先程の戦いで見せたエクスプロージョンと似た感じだが、違いは雷を帯びてないだけだ。
「ソレは暴発する。」
エレミアがボソッとつぶやくと同時に火球は大爆発を起こすが、エレミアは油断せずにティルの居た方向を見据えていると、新たな火球が目の前に迫って来ているのに気付いた。
「エクスプロージョン!」
「闇特性『影移動』。」
ティルの声と同時にエレミアも再びつぶやくと同時に自分の影の中に吸い込まれる様に消え、火球は目標を失い壁にぶつかって大爆発を起こす。
その威力は耳をつんざく程の爆音と爆風で、タツミ達も吹き飛ばされそうになるのを何とか堪えている。
そして何故か撃ち込まれた壁は平然と傷一つ付いていないのだった。
「そっか、闇属性の特性の影移動でさっきも回避したのね。」
「そうダ。しかし火球を2重にして作る事デ、手前側のだけを暴発させて奥側の火球を撃ち出すとは考えたな。」
ティルが納得したような声を上げると、その影からエレミアの姿が現れ、感心した声を上げる。
「流石にさっきの戦いで抜け道位は考えるよ。でも流石に特異能力者相手に簡単にはいかないね。」
ヒジリの声が内側から聞こえると、エレミアは怪訝そうな顔をする。そして稲葉の方を睨み付けた。
「ワシは言って無いぞ!」
「だったら何故、コノ小娘はそうだと言ウ?」
ティルはゆっくりと歩きながら間合いを取り直すと、内側からヒジリが説明を始めた。
「エレミアって何かで聞いた記憶が有ったんだけど、4大預言者の一人よね? 二つ名が嘆きの預言者の。能力と名前、稲葉さんと引き分けたと言う話から連想すれば難しい事じゃ無いと思うの。」
ヒジリの説明を受けてエレミアはさらに驚いた表情になるが、すぐに含み笑いを始めた。
「フッフッフッ……それだけで察するカ。稲葉、貴様が言う通り面白い子供達ダ。しかし特異能力者と分って試合を申し込んだ意味を理解しているカ?」
エレミアの雰囲気が一気に重いものに変わる。しかしヒジリは平然と言葉を続け、表に出る。
「そうだね、私も試したい事があるの。」
その言葉に今度はティルが嫌そうな声を上げる。
「まさか……呼ぶの?」
「アルセインが分離出来ない理由はそれしか考えられないからね。」
「デスヨネー。」
ティルは棒読みになりつつも諦めた声を上げる。
「ハァ……分かったわよ。ちなみに正しい名前で呼ばないと召喚出来ないわ。私以外には教えてくれなかったから伝えるけど、無茶はしないでよ?」
「大丈夫、一度離れた事で私の生命力は完全に回復しているから。」
二人の会話にエレミアもすぐに違和感に気付いた。
「生命力が回復シタ? SSSランクの生命力を削られる力だト? まさか……」
離れて見ていたタツミはヒジリの言葉を聞いて複雑そうな表情をするが、稲葉は子供の様に好奇心一杯の表情になっていた。
「あの子の正式名称は『リバティ=アイランド』よ。」
「分かった! 来なさい! リバティ=アイランド!」
ヒジリの声が響くと同時に体から大量の炎が噴き出し、辺り一帯を炎が包む。そして炎は再びヒジリの元へと集まると消え去った。
そして先程までヒジリが居た場所には長い深紅の髪と瞳をしたそばかすがちょっと目立つ14,5歳位の少女が立っていた。
「マサカ……稲葉に聞いていた特異能力者と会えるとはネ。」
エレミアは冷や汗を浮かべながら少女を見つめる。少女はゆっくりと目を開けて周囲を確認すると、大きく息を吸いんだ。
「バッッッッッッッッカじゃないの! 嫉妬程度で私を呼ぶんじゃないの! 私の力はヒジリにとって毒だって散々言ったよね! 何の為にティルに憑いたのか分かってんの! ティルも何で私のフルネームを教えた! どう言う事か分かってんの!? ねぇ?」
怒声と共にヒジリへの説教が始まった。その威圧は今までの誰よりも恐ろしく、エレミアも攻撃を忘れて立ちすくんでいた。
(やっべぇ……リバちゃんブチ切れてる。確かにヒジリの体を守るために憑依先を精霊のティルに移したんだが……)
タツミは事の経緯を思い出しながらも、前と違って常時憑依される訳では無いから大丈夫かと考えていたのだ。
「嫉妬も自分に素直に生きるには大事な事よ! それに前と違って常時憑依になる訳じゃ無いから大丈夫だと思う。それに離れた間に私の生命力も回復した。今なら全力を出せるんじゃない?」
「な……自分の体を危険にさらして実験!? 正気なの! タツミさんも何で止めないの!」
ヒジリが反論すると、リバティは今度はタツミを指差して怒気を向けて来た。
「いや、二人で話し合った結果だ。いざと言う時にぶっつけ本番で危険を冒すよりも、エレミアが居なくても今日試す予定だったんだ。」
タツミも冷静に言葉を返すと、リバティは何か言いたそうにしながらも言葉を飲み込んだのだった。
「私の方で異変を感じたら強制解除するからね。後……そこに居るのはクロだよね? 用事済むまでそこで待ってなさい。」
苛立ちを隠せない笑みでリバティは稲葉に声を掛けると、引きつった裏声で稲葉は返事をしたのだった。
「サテ、そろそろ良いかな? 試合を再開してモ?」
「ああ、待たせたわね。申し訳ないけどすぐに終わらせるわ。」
エレミアが痺れを切らして声を掛けると、リバティはまるで見下す様な態度で冷たい視線をエレミアに向けたのだった。




