表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/38

第35話 兄夫婦

「で、タツミ。折角の休みに勉強会って本気か?」


 工藤辰巳は朝食を取りながら目の前に居る兄から、妙な小言を受けていた。


 龍一はタツミの7つ離れた兄で、剣道では鬼のように強く、公式戦での負けは片手で数える程しかない天才と言われる人だった。


 そして容姿端麗で、180㎝を超える高い身長と短い清潔感の有る髪と爽やかなスマイルで女性からの人気が中学生の頃から凄かった。


 タツミはそんな兄にコンプレックスを抱えていたが、とある事をキッカケにその壁を乗り越えた経緯がある。


「俺は勉強して大学に行くんだ。兄さんみたいに剣道の推薦で全部行ける程の才能は無いからな。」


 タツミは兄の龍一に向けて毒気付きながら文句を言う。


「お前な……ヒジリちゃんとレベル合わせた大学って、大丈夫なのか?」


 兄の龍一もタツミの発言に呆れながら確認する。弟の成績の悪さを誰よりも知っているからだ。


「兄さん、逆に聞くが……義姉さんから同じ大学行きたいから頑張ろうと言われたら拒否できるか?」


 タツミは不安そうにしている兄に苛立ちながらも自分の置かれた状況を言うと、龍一も苦しそうに納得せざるを得なかった。


「そうだな……レピスにそんな事言われたら、頑張るしかないな。」

「あらあら~そう言ってくれるのわ~嬉しいわね~。」


 カウンターキッチンの奥から金髪金眼のショートカットの髪型の美麗な女性が、間延びした口調で顔を出して来た。


「そりゃな、何年も恋焦がれた相手に言われたら頑張るしかないだろ。」


「ハイハイ、その話はもう良いから。俺は俺が出来る事をやるだけです。」


 龍一は真顔で言うと、タツミはウンザリした顔で毒気づく。兄夫婦の惚気が始めると終わりが見えないからだ。


「タツミちゃん~ヒジリちゃんに~宜しくね~。」

「関わらない様にって言っておくよ。」

「あ、コラ! タツミ!」


 嫌味を言いながらタツミはカバンを持って家を出て行く。義姉であるレピスとは少々ウマが合わない様で、出来るだけ会話したくない様に見えた。


 ついでに言えば、名前で呼ぶと毎回『お義姉さん』呼びを強要されるので、そこら辺も苦手意識に拍車をかけていた。



「やれやれ、相変わらずレピスには苦手意識が有るようだな。」

「仕方ないわね~こればっかりはね~。」

「昔の命の恩人なのにな。」

「それよりも~策士のイメージが~強いんじゃないかしら~?」

「まぁ、その点は否定しないが……」

「でもね~全てはあの子達の~安全の為だから~」


 レピスは微笑みながらタツミの後姿を見ていた。龍一も頷きながらその様子を見守っていた。


――――――――――――――


「あ、タツミ君、早かったね。」

「待たせたな。スマン。」

「大丈夫、時間通りだよ。私が早かっただけだよ。」


 ヒジリは待ち合わせの駅前のロータリーで白いワンピースに薄黄色のカーディガンを羽織って待っていた。


「夏らしい恰好だな。似合ってるよ。」

「ふふふ、ありがと。」


 褒められて照れ臭そうにしているが、すぐに元気さをアピールし始めた。タツミが心配しているのに気が付いた様だった。


「アルセインが戻って来ても体の不調は無いから大丈夫だよ。」

「気付いてたか。」

「顔に出てたよ。ずっと心臓の調子が悪くなるか心配してたでしょ?」


 ヒジリの言葉にタツミは素直に頷く。


「体調不良の原因がセットになっているからな。気にならないと言えばウソになる。」


 二人は話しながら地下鉄の方へと進んで行く。


「私も気にはなっていたの。だから今日はそれを確かめる為にも付き合わせてゴメンね?」


 ヒジリは何かを確認する為にスディレットの施設へタツミと共に向かっていたのだ。当然、今回は権限を使って稲葉に許可は取っていた。


「気にしないでくれ。俺も一緒に確認したいからな……と言うかティルにはゲンコツ喰らわせないと気が済まん。」


 ヒジリはタツミの剣幕に苦笑いを浮かべながらも、言いたい事は理解出来る様子だった。


「私も消えた筈のアルセインとハッキネンが何故召喚されたのか気になってるの。内容次第じゃ私も怒るんだから。」


 笑顔で言うヒジリに、毒気を抜かれたタツミは敵わないなと笑い出した。


 そして二人は隠し改札を隊員カードを使って通り抜けると、ホームには霧崎 晴香が既に待っていた。


「晴香さん……待ってたんですか?」

「当然です。お二人が来るなら相応の手配をするのが私の仕事ですから。」


 スーツを着てピシッと決めた晴香を見て、自分達が普段着なのが少し恥ずかしくなりつつあると、すぐにホームに止まっていた電車へと案内された。


「こちらが直通の専用車両です。本日の様に事前に言って頂ければ待機させますので、遠慮なくお申し付け下さい。他の交通機関でのチャーターも可能ですので、遠慮なく……」


「「いや……スディレットに行く時だけで良いです……。」」


 特権の行使を力説しようとする晴香に二人は小声で呟くと、意外そうな顔をしつつも晴香は二人の向かいに座る。


「本当にお二人と言い、皆様は権力をお使いになられませんね。普通は少し位ならと思われる方がほとんどですのに。」


「出来るだけ借りを作りたく無いだけだ。特に稲葉にはな。」

「た、タツミ君! 流石に呼び捨ては……」


 タツミの発言にヒジリは顔を青くして止めに入る。


「大丈夫だ。ランクだけで言えば対等だろ。俺が言うのは問題無いさ。」

「そうですね、工藤様だけなら問題ありません。」


 晴香は冷静に言うと、タツミは質問を続ける。


「晴香さんはどこまで知っているんです? 精霊の事を。」

「この前説明した範囲が全てですが。」


 タツミの質問の意図を理解したヒジリはソワソワし出したが、お構いなしに話は続く。


「言い方を変えましょう。稲葉の事をどれ位知ってますか?」

「……答える権限を持っていません。」

「分かりました。では『特異能力者セカンド・スキラーという言葉は御存じですか?」


 タツミの質問内容に晴香はピクリと眉を動かすが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「存じ上げません。」


 その一言だけだったが、一瞬だけだが妙な緊張感が走ったのは言うまでもない。


「ここら辺にしますか、でないと稲葉が急に出て来そうだし。」

「ほ、本当に出てきたら心臓に悪いよ。」


 ヒジリが愛想笑いをしていると、車両の前方から不意に声が響いた。


「良く解ったのう。気配は完全に消したつもりだったんだが。」

「良く言うぜ……」


 タツミは皮肉めいた表情で声の先に居た稲葉を見据えた。


「え、ええ? 私達もナギちゃん程じゃ無いけど探知力は有る筈なのに?」

「話を晴香さんの前で続けて良いのか?」


 ヒジリは困惑していたが、タツミは話を続ける。


「そうだね、晴香君は巻き込めないからね。訓練室に着いてからにしようか。」


 稲葉の言葉にタツミは静かに頷くと、稲葉は晴香の隣に腰を掛ける。晴香は特に動じた様子も無く、いつもの涼しい笑顔のままだった。


(もしかしなくても、稲葉の能力って相当ヤバいな……)


 タツミは内心の動揺を隠しながらも、到着までの沈黙の時間を長く感じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ