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第34話 トカゲの尻尾

「ああ、そうさ! 俺が案内人として噂を誘導してたんだよ! オーエン様の指示で愚民で役立たずな人間共を神への生贄に捧げていたんだ!」


 佐々木は急に顔つきが変わると前後に居る二人を交互に見ながら札を大量に取り出した。


「生贄……そう言えば北見は自然の養分とか言ってたような……」


 エルは北見の言葉を思い出しながらも微妙に食い違っている二人の言葉に違和感を覚えていた。


「人を好む神様なんて居るのですか? 結局それこそ人の妄想だと思いますよ? 特に経験者の感想から言わせてもらえばですがね。」


 リィムが呆れた表情で佐々木を見ると、その言葉や態度が気に入らなかったの激昂し始めた。


「神を馬鹿にするな! 神は私を見捨てなかった! だから俺は今も生きている! 学校のスキー教室の時だった! 雪崩で級友たちが全員死んだが俺だけは神が助けてくれた! その姿を今でも鮮明に思い出せる!」


 段々と恍惚の表情になり始めると、その様子を二人はドン引きした表情で見ているしかなかった。まるで薬物依存者を見ている心地だった。


「「頭大丈夫?」」


「貴様等は運が無いんだ! あの様な素晴らしい光景に出会えた俺は選ばれし戦士なのだ! 貴様らの様に信念の無い力だけの奴らとは違うんだよ! だから俺はスディレットにスパイとして潜入し、神が欲する生贄を異世界に送り続けたんだ!」


 もはや会話が嚙み合わないと思ったのか、二人は佐々木との会話を止めて拘束しようと身構える。


「おっと! 誰が貴様らに掴まるか! 神の情報は渡さない! この札の起動対象は俺も含まれる! スディレットに掴まって拷問なんざ御免だ!」


 佐々木は札を自分の胸に張ると段々と札から溢れ出す闇が体を包み始めた。その様子を見て逃げ出すと悟ったリィムは呆れた顔で真実を少しだけ話し出す。


「田中さんと羽生さんはまだ屋上にいますよ? あなたが運んだのは私が作った氷人形です。だから体が冷えていると言って毛布に包ませたんです。ちなみに人に見えたのは氷塵による幻視効果と闇でハッキリ見えないから余計に効果てきめんでしたね。」


 その言葉に佐々木は驚いた表情を見せると、エルは先程使った氷が溶けて冷たく湿った毛布を投げつけた。


「バカな! では今回は……!」


「最後の最後で情報だけありがとうございました。そして断言しますがアナタが自身に札を使うのは初めてですよね?」


 リィムの冷ややかな視線が佐々木を射抜く。


「何故そう思う?」


「行先は神の元とか思ってるんでしょうが残念ですね……行先はアナタ程度では生き地獄を味合うでしょう『精霊界』です。」


「と言うかそれしか考えられないでしょ? まぁ上手く行けば何百年後とかに帰って来れるかも知れませんよ? 俺達みたいに。」


「何だと!? 俺は役目を全うして神の御許へ行くのでは……」


 言葉途中で佐々木は闇に飲まれるとその場から完全に存在が消え去ったのだった。


「残念です。もう少し情報が欲しかったのですが……自殺志願者では無理ですね。」

「勝手に殺して……もしかしたら生き残るかも知れないじゃ無いですか。」

「エル君、本気でそう思ってます?」

「いや、あの程度じゃ無理でしょ。最低でも桐生達位の才能が無いと。」

「分かってるなら良しです。さて、お姉さんが肩貸してあげましょうか?」

「リィムさん……肩届きませんから。身長差を考えて下さい。」

「な!? 言っちゃいけない事言いましたね! 誰がチビですか!」

「言って無いです! って折れた肋骨を殴らないで下さい!」


 軽いやり取りをした二人は完全に終わったと確信すると、再び屋上へ戻って気絶していた田中と羽生を迎えに行く。そして二人の目を覚ますと家まで送って今回の事件は幕を閉じた。



―――――――――――――――


「まさか会長が行方不明になるなんて……折角の旅が申し訳ありません。」


 空港で二人を見送りに来たのは副会長の田中だった。田中は深々をお辞儀して今回の騒動を詫びた。


「いえいえ、まぁ今回は悲しい事故でした。」

「ですね、最後の方は会長自らが何かに取り付かれた様に回りましたからね。」


「ええ……あの辺りから会長は何かに憑りつかれていたんでしょうか?」


 田中は青い顔をしながらブルッと体を震わす。その様子を見て二人は覚えていない事を確信して少しだけ胸をなでおろした。


「恐らく憑りつかれていたと言えば憑りつかれていたんでしょうね。」

「確かに常軌を逸していました。」


「お二人もそう思いますか……私はこれから警察の取り調べに協力しなければならないのでここで失礼しますね。お二人も向こうでの聴取は大変と思いますが頑張ってください!」


 田中はそう言うと後ろで待っていた警察官達と共にロビーから後にした。


 当然ながら警察官はスディレットが手配した内部者で、念の為の数日間の監視と保護を目的とした事情聴取だった。


「しかし……当事者とは言え、本当に警察から何も聞かれないって……」

「本当にスディレットって国家権力の一部なんですねぇ……私はあんまり権力とかって好きじゃないのですが。」


 リィムが複雑そうな顔をしながら呟くと、事情を知っているエルは困った様に頬をかきながら、もう片方の手でリィムの手を引っ張って売店へと誘導し始める。


「ホラ、折角来たんですから美味しいお弁当でも買って行きましょう。なんたって北海道ですよ! 何でも美味しいに決まってます!」


 洒落た気使いも出来ない弟分が頑張っていると思ったリィムは、仕方ないと言った表情で気持ちを切り替えた。


「そうですね、折角ですからね! 次はまたいつ来れるか解りません! 胃袋には自信が有りますから片っ端から行きますよ!」


「それは……女性としての発言とは思えない様な……」


「何ですか! 折角誘いに乗ってあげたのに! 姉を侮辱する気ですか!」


「だから実の姉じゃないでしょ!」


「何ですか! 私が姉じゃ不満ですか!」


「いや……姉と言うか……別に家族で……」


 段々と言葉尻が弱くなるエルの様子に小首をかしげるが、今のリィムの頭の中は美味しい食べ物が9割を占めていたので深く気にせずにエルを手を逆に引っ張って売店へと足を進めて行くのだった。


「さて、美味しそうなお菓子も沢山ですから皆にお土産も買いますよ! こういう時は滅多に無いんですから特権使いますよ!」


「さっき権力嫌いって言ったのに……」


「何か言いましたか?」


「いえ、別に……」


 二人は名産品等のお土産をスディレット指定の店でカードを使って買いまくった。


 しかしその中には高級品などは無く、本当に高校生が買うようなお土産やお弁当をちょ~っとだけ大量に買い込んだのだった。


 こうして二人の北海道の任務は幕を閉じたのだった。 




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